冒険者組合にて

 貢納のためにバハムル領に隣接するヴェスタル辺境伯領の領都ウェスタルナに一緒に行ったカレンと数人の領民たちを関所まで送り、それから俺は一人で王都へと向かった。

 ローブのフードを深く被り俺の顔は誰にも見えない。

 冒険者協会の建物に入るまで【認識阻害★】を使ったままだから誰にも悟られないんだよね。

 それから依頼をいくつか確認する。


 人探しというか娘の捜索がやけに多い。

 それに、王家直属の騎士を公募してた。


(こういうの、カレンにやらせてみたいなー)


 掲示板の依頼票を見てしみじみと思う。


(腕試しはしたいだろうしな。帰ったら訊いてみるか)


 で、目的の依頼を探さなければ。

 目的の依頼とは高級娼館の用心棒。

 期間は二週間、または、迷惑客の撃退まで。

 鉄級以上の冒険者で受託できる。

 タスクは鉄級冒険者。

 俺は高級娼館の用心棒の依頼票を掲示板から引き剥がした。

 ロビーの奥の受付カウンターがある。

 俺はソフィ・ロアと言う男爵家のご令嬢が担当している受付口に移動する。

 嫋やかで可憐な佇まいで俺を迎える茶髪の女性。

 ブルルンと大きな胸を揺らしてニコリと微笑む。


「こんにちわ。依頼クエストの受注希望でよろしかったでしょうか?」


 顔を横に傾げて目を細める笑みは心に染みるオアシス。


(ゲームでも好みだったけど、リアルな造形は凄く綺麗だ)


 前世の俺、こと、高村たかむらたすくの推しのヒロインである。

 だが、ここはゲームの世界で俺は最終作のラスボス。

 残念だ。だが、もし、彼女をこちら側に引き込めたらどうだろう?

 ソフィ・ロアはⅢのメインヒロインの一人で、アルスとハンナがクエストを受けるときに、とあるスキルを使ってモノにする。

 彼女は戦闘に使えるスキルは無いし、素のステータス値も戦闘に不向きなのだが、探知系や探索系のスキルに優れた斥候タイプ。

 ただ、その探知系以外が絶望するほど弱いので戦闘には何の役にも立たないという難しいキャラクターだった。


「この依頼をお願いします」


 俺は掲示板から剥がした依頼票をソフィ・ロアの前に差し出した。


「女王蜂様の守衛の依頼ですね。受託可能か確認させてください。冒険者証の提示をお願いできますでしょうか?」


 女王蜂というのは娼館の名前で守衛という名目だけど用心棒である。

 俺はソフィの言葉に従って冒険者証を提示した。


「鉄級冒険者のタスク様ですね。お久しぶりですね。受注条件は満たしておりますので、私、ソフィ・ロアが依頼の受託を承りました。受託票をお渡ししますので、お待ちください」


 ソフィは俺が渡した依頼票を手に、丸くて可愛らしいお尻をプルプルと震わせて後ろに下がっていった。

 さすがエロゲのヒロイン。しかも、ヒロインで唯一の巨乳なんだよな……。

 しばらく待っていたら、ソフィがたわわな乳房をバインバインと揺らしてカウンターに戻ってきた。


「おまたせしました。タスク様。女王蜂様の受託票です。ご確認ください」


 ソフィの細くて長い指から受託票を受け取って受託票を確認する。


(達筆だなー)


 字がとても綺麗だった。


「確認しました」

「はい。では──」


 それから依頼が失敗した場合などの長い説明を受ける。

 説明する側も大変だけど覚えるのが面倒だよねって言う。


「──というわけで、依頼の成否に関わらず報告は、私、ソフィ・ロアまでお願いいたします」


 最後まで説明を聞いた。


「ところで、この依頼、つい先日に来たばかりなんですよ。女王蜂は高級娼館ですが、こういった冒険者組合に出てくる守衛というのは汚れ仕事と言いますか、難しい依頼なのに拘束期間が長くて、冒険者の皆様は受けたがらないんですよね。それに報酬も少し相場より少しお安いようですから特に──」


 と、ソフィからこの依頼の評価をいただく。

 実はこの依頼はⅢの最初の方で受託可能な依頼で、プレイヤーが受託すると『この依頼、報酬がイマイチで人気がなかったんですよね。それで誰も受託してもらえなくて、依頼主様が取り下げを検討されてたんです』と依頼の状況を教えてもらえた。


 依頼を受託した俺はメルトリクス公爵家邸宅に近い商業区の一角にある繁華街に向かった。

 もちろん、誰かに悟られるわけには行かないから【認識阻害★】を使って。

 高級娼館で評判の良い女王蜂。俺は正面の入り口から入った。


「あら、坊や。ここは大人の男が来るところよ。悪いこと覚える前に帰りな」


 派手な髪色に濃い化粧のお姉さんに注意を促される。

 それもそうだよな。俺はまだ十三歳。大人の女性から見たらガキだ。


「あの、冒険者組合で依頼を受けて来たんですが……」


 俺は受託票をお姉さんに差し出した。


「あら、早かったわね。それにしてもキミみたいな子どもが大丈夫かい?

 見たところ条件をギリギリクリアしてるように見えるけど……」


 お姉さんは俺を訝しんでいる。まあ、分かる。

 見た目はまだ幼い少年だもんな。


「はい。大丈夫です。お任せください」

「まあ、こっちが断ったりすることはないけど、死なないようにね。ウチは上客しか取らない娼館だけど、最近はあまり良いお客様ばかりじゃないんだよ」


 ゲームでも似たセリフを言われる。Ⅲでは一年後で、その時の主人公アルスは十五歳。


『もう少し大人になったら良いこともっと教えてあげるよ』


 なんて言われたりする。

 ちなみにここのNPCたちともエッチはできるが、結構な金額が必要だ。

 でも数少ない強姦や強要、洗脳ではないエッチができるところだった。


 この依頼クエストのクリアは簡単だ。

 デギム子爵家の嫡男がここの娼婦に入れ込みすぎて屈強な冒険者を雇って脅しに来ている。

 身請けする金が払えないから格安にしろとあれやこれやと因縁や営業妨害をしに来ているのだ。

 この冒険者は金級の冒険者でレベルもそこそこ。レベルもステータスも俺の敵ではない。



 デギム子爵家の嫡男、アムル・デギムと金級冒険者が多く在籍するクラン、鋼鉄の血族との対峙はすぐにやってきた。

 高級娼館女王蜂に滞在して三日目。

 娼婦たちに絡まれてまあ、大変だったけど、実はそれなりに楽しかった。

 それも今日、この日で終わってしまうのは残念。


「ビタ一文だって負けるわけないだろ。

 あの子が一晩でいくら稼いでると思ってるんだい?

 それにあの子は奴隷さ。

 少なくとも買った値段以上じゃないと交渉にもならないね」


 お姉さんはやっぱり断る。

 ゲームでのセリフと一緒だ。


「良くそんな態度で居られるよね。ボクにかかればこんな店を潰すのも容易い。やってしまっても良いぞ。他の女どもは好きにして良い」

「ホントですか?

 だったら、そこの女からいただいちまうわ」

「そこの女からやってくれるならボクも助かるね」


 金級冒険者がお姉さんに手を伸ばしてきた。

 お姉さんにとっては速いんだろうけど、俺にとってはスローモーション。

 目をギュッと瞑って怯むお姉さんの前に出て、俺は冒険者の手をつかんで転がした。


「ってーッ!テメェッ!!」

「コイツからヤっちまえッ!殺しても構わねえッ!」


 数人の冒険者たちが俺に向かって武器を構える。

 娼館は一時騒然として、娼婦たちの悲鳴と男性客が騒がしく声をあげていた。

 そんなことは俺には関係なく、冒険者たちは次々とかかってくる。

 こっちに突っ込んでくるなら対応は楽。

 無属性魔法の身体強化で強度を上げ、冒険者たちの首を打ち、意識を刈り取る。

 俺の剣を抜くまでもなかった。


「あら、こんな子にも勝てない冒険者だったなんてね。貴方、見る目がないのね」


 さっきはちょっとビビってたお姉さん。

 今度はめっちゃ凄んでる。


「坊や、そこの坊っちゃんと冒険者さんたちを縛り上げるから手伝ってもらえるかい?」


 気を失った金級の冒険者たちを縛り上げ、アムル・デギムも冒険者たちと同様に手足を縛って身動きを封じた。


「衛兵を呼びに行ったから、坊やはもう下がって良いよ」


 お姉さんの指示で俺は控室に下がると、そこで待ってた娼婦の女性たちに、シッチャカメッチャカと構われた。

 エッチなことは何一つないけれど。



 翌日──。

 お姉さんに呼び出された俺は、随分と豪華な調度品が揃った応接室に招かれ、彼女に座って向かい合っている。


「坊やがあんなに強いとは思ってもなかったよ。これは依頼完了証だよ。受け取っておくれ。それと報酬はこれ。ちょっとショボいかもしれないけれど我慢しておくれ」


 と、テーブルに置かれたのは数枚の白金貨と【スキル結晶石:魅了★】。


「ウチみたいな上客を抱える娼館ならもっと報酬を貰えると期待してると思うけど、ウチはその分、娼婦にもお金を払ってるからこれくらいが限界なんだ。その代わりこの石も付けるからさ」


 俺が欲しかったのは金よりこのスキル結晶石。


「いえ、とんでもないです。こんなに貴重なものを戴けるなんて嬉しい限りですから」

「ははは。そう言ってもらえると有り難いけどね。アタシはこのキラキラしてる石の価値なんてわからないんだよ。大事にしまっているだけで何の役にもたたないからさ」

「そんなことないですよ。本当にありがたいですから」

「坊や──いや、タスク。もう少し大人になったらまたここにおいで。そしたらたんまりとサービスしてやるからさ。それで足りない分の報酬ってことでウチ等の感謝とさせてもらうよ」

「あははは……そのときはよろしくお願いします」


 こうして依頼の受託から五日ほどで完了し、俺は再び冒険者組合へと向かった。



 ソフィ・ロアが受け持つカウンターに俺は並ぶ。

 可愛いから人気だよね。それにゲームで見るよりずっと若い。

 凌辱のエターニアシリーズのメインヒロインとして初出となるのがⅢで、その時のソフィは二十四歳。

 引き続き、Ⅳでもメインヒロインとして登場するけど、その時は二十六歳になっている。

 今はⅡのストーリー進行の序盤で、設定上は二十三歳。

 ようやっと大人の女性としての色気が増す年齢か。

 と、見惚れていたら俺の番。


「こんにちわ。タスク様。依頼クエストの完了報告でよろしかったでしょうか?」


 笑顔で頭を傾げて目を細めるソフィ・ロア。

 たゆんと揺れる大きな胸にとても癒やされる……。


「はい。女王蜂の依頼クエストを完了しました。これが受け取った報酬です」


 俺は依頼完了証と受け取った白金貨、それと【スキル結晶石:魅了★】を提出した。


「はい。受け取りました。では、この報酬から一割を引いたものがタスク様への報酬となります。

 スキル結晶石については一律白金貨一枚で計算しますので、金貨4枚を引いた金額をお支払いします。

 スキル結晶石を希望なさる場合は白金貨1枚分としてお渡しします」


 ということなので、俺は【スキル結晶石:魅了★】と白金貨2枚と金貨6枚を選択し、報酬として受け取る。

 ここで俺はつい出来心で覗いてしまった。

 今回も性感帯や性癖が映ってしまっているが自重する。

 あえて言うなら異性を甘やかすのが好きらしい。


───

 名前 :ソフィ・ロア

 性別 :女 年齢:23

 身長 :159cm 体重:49kg B:90 W:58 H:84

 職能 :斥候★

 Lv :30

 HP :600

 MP :600

 VIT:30

 STR:30

 DEX:30

 AGI:298

 INT:30

 MND:327

 スキル:魔法(闇:2、風:3)

     無属性魔法:1

     解錠★、気配察知★、認識阻害★、周辺探知★、

     体術:4

 好感度:60

 ︙

 その他:男爵家の長女。ステータスが低い。逃げるのが上手。意外とすばしっこい。

     おおざっぱで細かいことは気にしない。のんびり屋でマイペース。

     家庭的な女性で家事や料理が得意。

───


「あっ!タスク様!私にスキルを使いましたね?【鑑定】ですか?」


 バレた。

 あれ、でもなんでバレたんだろう?


「すみません。つい出来心で見てしまいました……」

「いえ、言っていただければ別に断りませんよ?

 これもタスク様──冒険者の成長に繋がるなら、見たって問題ないじゃないですか」

「すみません……」

「いいえ。ところで、私、ステータスひどいでしょう?

 だから嫌がられて嫁の貰い手がなかったんです。

 学校も最底辺の第六学院でしたから」


 しょぼんとうつむくソフィさん。

 何だか申し訳ない。


「俺が見た感じだと凄いスキルを持ってるように見えるんですけど……。きっとそれで俺が【鑑定】を使ったのがわかったんじゃないでしょうかね」


 魔道具や巻物で鑑定しても、ユニーク相当の職能クラス技能スキルの判定はできない。

 稀に名称だけ表示することがあったり、下位の職能や鑑定のレベルと同等までしか分からないものまで存在する。

 ソフィさんのスキルはユニークだらけで、並の鑑定では判定出来なかったんだろう。

 その所為で不遇な扱いを受けてきた。

 前世のゲームの記憶があるからわかってたけど、実際に見ると凄いものだ。


「タスク様は私のこと、どう見えてるんですか?」

「んー、悪用しちゃいけないスキルがいっぱいあるような気がしますけど、味方だったらこれ以上頼もしい存在は居ませんね。俺と一緒に仕事してほしいくらいですよ」

「そ……そうなん……ですね……」


 何故か顔を赤らめるソフィさん。


───

 名前 :ソフィ・ロア

 ︙

 好感度:70

 ︙

───


 好感度が10上がった!


 ともあれ、この世界はゲームと違って、主人公のアルスやメインヒロインたちは、自分のステータスを見る術を知らないらしい。

 ステータスの見方がわからないのか、それとも、ステータスを見る概念がないのか。

 聞けば、スキルや魔道具を使って鑑定して知ると言うのが一般的なのだとか。

 ゲーム内なら、パーティを組めばステータスを見られるから、重要なスキルを持ったヒロインは良く覚えてる。

 ソフィは戦闘で使い所がないけど、【解錠★】を使えば、どの家の鍵を開けられるのでどこにでも侵入できるし、彼女がいないとダンジョンのオートマッピングが使えないので不便極まりない。

 ちなみに彼女。ゲーム中では主人公が【スキル結晶石:魅了★】を貰って、その場で使うことでイベントが発生する。


『アルス様。報酬をお渡しします』


 その後に選択肢がポップアップ。


・スキル結晶石を使う

・スキル結晶石を使わない


 そこで『スキル結晶石を使う』を選ぶと更に選択肢がポップアップする。


・覚えたスキルを使う

・何もしない


 ここで『何もしない』を選んでも【魅了★】がスキル一覧にあると再び選択肢が表示される。


・スキルを使う

・何もしない


 ソフィをパーティに加えてから受付嬢になる女の子からメインクエストを受注するため、シナリオを進めるにはソフィに【魅了★】を使用してパーティに迎えることが必要だった。

 可愛いソフィさんを見てゲームでのことを思い出してしまったが、目の前の彼女は赤らめた顔のまま控えめに口を開く。


「ところで、タスク様のご出身はバハムル領ということになってますけど、ここには冒険者組合ってあるんですか?」

「いいえ。ないですね。近くだとヴェスタル辺境伯領のウェスタルナに行かないとないんですよ」

「そうなんですね。なのに王都で活動しているのは?」

「こちらのほうが何かと便利ですし気分転換も兼ねていますから」

「普段はどちらで活動をされてるのですか?」


 ヤバい。なんでこんなに訊かれてるんだろう?


「あ、い……ウェスタルナで……というかダンジョンに潜ってますね……」

「でも、ダンジョンに入った記録も無いですし、今回の依頼クエストも一年ぶりですよね?どうも不思議に思ってしまって……」


 下顎に人差し指を立てて首を傾げるソフィ・ロア。

 やっぱり可愛いなぁ。

 それにしてもどうやって誤魔化そうかな……。と、考えていたらソフィが自己完結してくれる。


「まあ、冒険者さんですし、それぞれに事情があるんでしょうから、詮索し過ぎは良くなかったですよね。ごめんなさい」


 ソフィは頭を下げて謝罪をすると、


「では、私、受付の仕事がまだありますから、また、依頼を受託される際にお声をお掛けください」


 それからお互いに挨拶をして俺は冒険者組合を出た。


 冒険者組合を出た俺は【認識阻害★】を発動すると人目から逃れて王都を出る。

 ポーチから【スキル結晶石:魅了★】を使ってスキルを覚えた。


───

 名前 :シドル・メルトリクス

 ︙

 スキル:魔法(火:8、土:8、風:8、水:8、光:8、闇:8)、

     魔力感知8、詠唱省略★、無属性魔法:8、MP自然回復★、

     解錠:8、鑑定★、気配察知★、認識阻害★、房中術★、魅了★

     剣術:8、盾術:8、槍術:8、斧術:8、弓術:8、

     棒術:8、杖術:8、体術:8

───


 【無属性魔法:8】になり、【強力な大楯マイティガード】を覚えた。

 これでイーストヒルタワーのダンジョンボスへの挑戦権を得たと言って良い。

 【スキル結晶石:多重処理★】をゲットするために俺はイーストヒルタワーに向かう。

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