ラストリーフ
凌辱のエターニアのそのまんまの展開だった。
ラスボスの魔女が【メテオライト】を使ったところバリアを重ねがけをして耐える。
HPがどんどん削られるんだけど、そこでクイックタイムイベントが発生して【リミットブレーク】を発動。
けど、その後は違った。
リミットブレークで競技場は半壊。
恐らく高等部の生徒だろう彼らの実に三分の一が消失。
俺は【認識阻害★】を発動させたまま競技場に降りて土埃の中のイヴェリアを拾った。
HP:1
瀕死のイヴェリアだけど外観は綺麗なままだ。ふっくらとした乳房も、染み一つ無いスベスベなお腹。スラリと伸びる両足。俺の太ももに乗っかっている柔らかいお尻。全てが美しい。大変に眼福である。
顔色を伺うと血色は良いが頭に付けていたはずの【ラストリーフ】はものの見事に粉々に砕け散ってイヴェリアの頭髪に金粉がふりかかってる。
とりあえず──。
光、水、土。複数の属性を織り混ぜた上級回復魔法をイヴェリアにかけた。
HP:2700
これで満タンらしい。
俺よりはHPあるけどそんなに変わらないな。さすが魔法職。
長居は無用だが、その前に俺はリュックの中から替えのローブを取り出してイヴェリアにかける。まだ着せるほどの余裕がない。
それから俺はイヴェリアの足首から下しか残っていない靴の片方を脱がせて地面に置き、【認識阻害★】を発動させたままイヴェリアを抱えると、人目を避けて競技場を出た。
王都を出てバハムル領を目指す。
道すがらイヴェリアを【鑑定★】で状態を確認。
───
名前 :イヴェリア・ミレニトルム
性別 :女 年齢:13
身長 :163cm 体重:44kg B:75 W:54 H:72
職能 :大魔女★
Lv :66
HP :2700
MP :15800
VIT:135
STR:66
DEX:66
AGI:263
INT:790
MND:660
スキル:魔法(火★、土★、風★、水★、闇★)
鑑定:6、無属性魔法:4、詠唱省略:8
剣術:4、弓術:7、杖術:8、体術:5
好感度:100★
性癖 :ドM、スパンキング、奉仕
性感帯:●●●●●、●、●●●
︙
───
これは強い。【職能:大魔女★】って……。
ゲーム中では敵のステータスなんて覗けないからね。設定資料集なんてものはこのゲームにはなかったから分からなかったけど、こんなに強かったのか。
性癖も性感帯も凄すぎて表現しきれんな。
あんな上品に振る舞っててこの性癖か……。なのに【好感度:100★】が向けられているのが俺ってどうしたら良いのやら。
それはともかく、ひと目のない場所まで【無属性魔法:身体強化】を使って走り、イヴェリアの腕をローブの袖に通してちゃんと着せた。
もちろん、全部見てしまったわけだが、仕方あるまい。
それからは急いでバハムル領に向かった。
イヴェリアは一向に目を開く気配がない。でもそれはHP:1と言う瀕死状態だったこともある。
ゲームの中では回復して直ぐに戦闘できたけど、ここではそうはいかなかったらしい。
前世の世界での状態に例えるなら意識不明重態と言ったところか。
その意識のないイヴェリアをおんぶして買い物をしたり、水や噛み砕いた食べ物を口移しで飲み込ませたりと、何でもした。
彼女は生きてるから意識の有無に関係なくおしっこもすればうんこもする。その都度、川辺でイヴェリアの身体やローブを優先して洗ったりと何かと世話を焼いた。
野営は安全な場所を既に知っているから問題はなかった。
でないと一人で眠ったりできないからね。
そうして王都を出て一週間。
バハムル領までの道のりを半分と少し進んだところでイヴェリアは目を覚ました。
「ん……あ、あれ……私………」
身体を起こして俺の顔を見る。
「シド………ル?」
「ああ、起きたか。イヴェリア。おはよう」
「おはよう。シドル。私、死んだのかしら?」
「いや、死んでないよ。生きてる」
「あ……」
まだ寝ぼけているのかイヴェリアの目はトロンと垂れ下がっている。
【ラストリーフ】で髪を留めていたところが垂れ落ちていることに気が付いてイヴェリアは髪の毛をかきあげブローチを探す。
「ないわ……シドルに貰ったブローチが……」
【ラストリーフ】がなくなったことに気がつくとポロポロと涙を零し始める。
「ううっ……これは持ってこれなかったのね……。でもシドルが迎えに来てくれてるのよね。それだけでも嬉しいわ」
イヴェリアが俺に飛び付いてギュッと抱き締めた。
「ああ……シドルのいい匂い……。ずっと会いたかったのよ」
甘い匂いを漂わせるイヴェリアは俺の首筋に唇を寄せてクンクンと鼻を鳴らしている。
「温かい……。シドルが温かいわ……。死んじゃっても温かいのね……」
イヴェリアは俺に抱き着いてキス魔と化してる。
既に死んだと思いこんでいるからだろう。
「ああ……シドル」
チュッ……チュッ……と唇を鳴らして首や頬にキスをしてくる。
自分は死んでいるからと公爵家の令嬢としての箍を外していて気持ちと欲求を抑えない。
イヴェリアは躊躇することなく俺の唇に唇を重ねた。
「んむぅ……はああ……。シドル、愛してるわ。本当は生きている内にこうしたかった………。でも、もう死んじゃったから良いわよね?んっ……」
俺は諦めてイヴェリアにされるがまま。その場の流れに全てを委ねた。
イヴェリアの舌が俺の口の中に入り込んで唾液が混じり合う。
縦横無尽に舌を絡め取られてしばらく──。
「死んだにしては随分と生々しいのね。シドルの体温も匂いも分かるし、舌の感触も……唾液の味まで……。ああ、頭の奥がジンジンして蕩けてしまいそうよ……。これ以上続けたらシドルに壊されてしまうわ……」
唇を離したイヴェリアが不思議がる。それもそうだろう。なにせ現実だからな。
それにどうやら俺のスキル【房中術★】がイヴェリアに対して発動していたらしい。それを察知したから唇を離してくれたのだと思う。
イヴェリアは俺の手を取って自分の頬に添える。
「シドルの手だわ……」
イヴェリアは俺の目を真っ直ぐに見た。
【鑑定】されてる。
「ねえ、私、死んでない……生きてるの?シドルも?生きてるのよね?」
「ああ、生きてるよ。俺もイヴェリアも。生きてるって言ったよ?」
「え、じゃあ………。それよりブローチは?私の……シドルがくれた【ラストリーフ】は?」
「あれは壊れたよ。イヴェリアが致命傷を受けて【ラストリーフ】が身代わりになったんだ。それでイヴェリアは生きてる。それよりもあれが【ラストリーフ】って良くわかったね」
「ええ。【鑑定:6】を覚えたら【ラストリーフ】と言う名前だけが分かったのよね。それでその【ラストリーフ】が身代わりに?」
イヴェリアに【ラストリーフ】の効果を説明すると納得してもらえたけれど──。
「どうして、私に【ラストリーフ】をくれたのかはさておいて、壊れることを知ってたのよね?」
「何となく嫌な予感がしたからイヴェリアにあげたんだよ」
「壊れる前提で?」
「それを言われると身も蓋もない……」
「いえ、責めてるわけじゃなくって……。もし、そうだったら私の命をつなぎとめてくれたのはシドルだもの。感謝こそすれど文句をつけることはないわ。なくなってしまったことはとっっっても悲しいけれど」
イヴェリアが俺を抱く手を強める。
「ところで、ねえ……。これ」
イヴェリアはローブの胸元を
形の良い美麗な双丘がぷるんと揺れた。
イヴェリアは悪戯をするときの表情で俺に迫ってくる。
「は……はい。何でしょう?」
「………見たわよね?」
「え、……ええ。それは致し方なく……」
「どんな場合であれ、貴族の娘の素肌は安くなくてよ?それに先程は口づけもいたしましたから……」
「いや、それはイヴェリアが……」
「貰ってくれるのよね?私を……」
「いや、それは不可抗力というものでして……」
「あら、唇を交わしてるのだし、今日だけではないんでしょう?だって、私の匂いが移ってらしたもの。だから不可抗力だなんて言わせないわ」
「ははは。敵わないな……」
俺は諦めた。
「ふふふ。冗談よ。でも少しだけ本気よ。愛してるって言ってしまいましたしね」
イヴェリアは俺から離れて向かい合う。
「それよりも私、今までどうしていたのかしら?」
「イヴェリアが聖女たちと決闘してから今日で一週間になるよ。で、俺は【ラストリーフ】の効果で瀕死になってたイヴェリアを拾ってバハムル領に向かってるんだ」
「そう。私は今、シドルに誘拐されてるというわけなのね」
「まあ、そういうことになるかもな」
「そういうときは保護してるって仰るべきではないかしら?あのまま私が王都に残ってたとして、命を奪われる以外の未来は無いでしょうから」
イヴェリアの視線は真っすぐで俺の目の奥のどこまでも深くを射抜く強さをたたえている。
「次に、どうして私の【鑑定】は貴方に効かないのかしら?私の【鑑定】は6。シドルは7以上ということになるわよね?」
「口外しないっていうなら教えるけど約束できる」
「それはもちろん。私がこういうこと言いふらす女じゃないってシドルなら分かってるでしょう?」
ごもっとも!ということで俺は俺の秘密のうちスキルに関してを明かした。
「それではシドルは私のことは何もかも知られてしまってるということかしら?」
「まあ、そういうことになるよね……」
とはいえ、性感帯や性癖まで閲覧できるとは言っていない。言っちゃいけないと思ったのだ。
「シドルは変態ですわね……」
「なんか、ごめん……」
「謝らないで。私、助けてくれたこと──感謝してますし、何より、シドルが生きてて本当に良かった……。本当に……」
俺の手をイヴェリアは両手でギュッと力を込めて握った。
「あ、あと、最後にこれは聞きたかったのですが、この一週間、シドルは私を運んでらしたけれど、眠っている間の食事などの身の回りのことはどうなさっていたのでしょう?」
俺はもうこの人には誤魔化しは利かないと判断して、何もかも洗いざらいに話した。
「もう、私、シドル以外のところには嫁げないわね。フィーナにも自慢できちゃうわ。フィーナより先にシドルとキスをさせていただきましたしね」
それからイヴェリアとしばらく会話を重ねて、この辺は安全だということで一緒にくっついて眠りに就いた。
◆
バハムル領に向かう俺とイヴェリアだが、イヴェリアが起きたことでペースが少し落ちた。
【認識阻害★】をイヴェリアに伝播させるためにイヴェリアと手を繋いで歩いているのが原因だ。
それと途中の街でイヴェリアの下着を何着かと服を少し購入。
「ゆっくりできなくて申し訳ないね。身元が割れるのが怖くてさ」
「それは仕方がないわ。それくらいは私も理解してるもの。それにこうして身を寄り添って愛しい人と歩くのはとても幸せよ」
以前までなら好意があっても表に全く出さなかったのに今では感情を包み隠さず表した上で接してくる。
そういったわけですっかり歩くペースが遅くはなったけど、バレては元も子もないので、イヴェリアにも身体強化を使ってもらって更に一週間かけてバハムル領に到着した。
◆
俺が領村を出て一ヶ月。
最後の関所、辺境伯領と男爵領を隔てる唯一の峠道に設けられるたった一つの関所を通過。
「ここがシドルが領主代行をしてるバハムル男爵領なのね」
とはいえ、まだ切り立った崖を登る峠道の真っ只中。
この険しい峠を抜けると圧巻の景色が拝める。
初めてこの景色を見たときはとても感動した。
イヴェリアはどうだろうか。
峠を抜けたら雪景色だった。
「真っ白!初めて見ましたわ。これが雪というものなのね」
「雪は俺も初めてだよ。雪が降るのは聞いてたけど」
どうでも良いけど道が見えない。
領村が見えているから迷わずに済むけど、これで視界が良くなかったら迷ってしまうな。
「冷たいわ」
足元の雪を両手で掬って遊んでるイヴェリア。大人ぶることが多いけどこうしてみるとまだまだ子どもだな。
俺も雪が積もっているのを見るのは前世の記憶を遡ってもないから初だ。
足を一歩踏み出すとミシリと音がして足首まで雪に埋まる。
「深い……歩きにくい……」
思わず声が漏れる。
「ふふふ。シドル、子どもみたいね」
「そういうイヴェリアだって」
「だって雪を見るのが初めてだもの。少しくらい燥いたって良いじゃない」
「そうか。イヴェリアにもそういうところがあって意外だよ」
「私だって、まだ子どもですからね」
パタパタと領村に向かって小走りし始めた。
ギュッギュッと鳴る雪が真冬の寒さを実感させた。
領村に入ると新設した井戸から水が流れる音が心地良く耳をさわる。
俺はイヴェリアを従えて粗末な領城に入った。
「ただいま」
「おかえりなさい………って、シドル様、その女は?」
カレンが俺を出迎えに来たがイヴェリアを見て一瞬、思考が停止したのか動作が止まった。
「ねえ、シドル。そちらの少女はどなたかしら?」
イヴェリアの声のトーンがいつもよりずっと低かった。
「しょ、紹介をするよ」
二人の冷たい視線が突き刺さって痛い。
居た堪れないながらも何とか会話を進めたくて互いに紹介をする。
「こちらはカレン・ダイル。ダイル准男爵家の長女で一応准男爵を継いだみたいなんだけど、俺が来る以前からバハムル男爵の元で働いていて、この領城に住んでいる年上の女性です」
最初にカレンをイヴェリアに紹介。続いて──。
「こちらが……」
イヴェリアが俺を遮って自己紹介を述べる。
「私はイヴェリア・ミレニトルム。ミレニトルム公爵家の長女でシドルの幼馴染よ。ずっと懇意にさせてもらってるわ。今日からここにお世話になります。どうぞ、よろしくお願いいたします」
ローブをスカートに見立てて美しい所作でカーテシーを披露する。
「わあ、カーテシーをする女性。初めて見ましたけどお綺麗ですね」
カレンがイヴェリアのカーテシーに感動するが、言葉を続け、イヴェリアを居間に招く。
「ええと、ここで話すのも寒いですから中で座りながら話しましょう。ささ、どうぞどうぞ」
俺とイヴェリアはカレンの言葉に従って居間で離すことにした。
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