バハムルの森

 夏が終わり、秋が来る。

 バハムル領は収穫の季節で村は忙しくててんやわんやだ。


 そんな中、村の事務処理は村長のジョルグにまかせて俺は今日もカレンとダンジョンにダイブする。


───


 名前 :シドル・メルトリクス

 性別 :男 年齢:13

 職能 :なし

 Lv :42

 HP :1740

 MP :7580

 VIT:87

 STR:128

 DEX:128

 AGI:169

 INT:379

 MND:379

 スキル:魔法(火:7、土:8、風:6、水:7、光:6、闇:5)

     魔力感知8、詠唱省略★、無属性魔法:5

     解錠:7、鑑定★、気配察知★、認識阻害★、房中術★

     剣術:7、盾術:7、槍術:7、斧術:7、弓術:7、

     棒術:7、杖術:7、体術:7


───


 名前 :カレン・ダイル

 性別 :女 年齢:15

 身長 :163cm 体重:47kg B:82 W:57 H:84

 職能 :剣聖★

 Lv :31

 HP :5900

 MP :2800

 VIT:305

 STR:305

 DEX:32

 AGI:125

 INT:155

 MND:308

 スキル:魔法(火:4、土:4、風:4、水:4)

     無属性魔法:3、詠唱省略:1

     剣術:8、盾術:4、斧術:8、槍術:3、弓術:2、体術:6

 好感度:80

 性感帯:うなじ、背中

 性癖 :匂い

 ︙


───


 バハムルの森と名付けたこのダンジョン。

 まだ底が見えないが、現在は四十三階層を攻略中。

 階層が進むにつれレベルも上がり、三十階層くらいまでならもはや敵なしといったところだ。特にカレンは【職能:剣聖★】という職能に★がついたユニーク個体みたいなものだからなのかステータスの上がり方がハンパない。


 攻略を始めた頃は俺もカレンもレベルが低かった。

 最初はキツかったけど俺の魔法は効いていたから俺のレベルを先に上げて、その後にカレンのレベリングを始めた。

 カレンはレベルが上がるごとにステータスが跳ね上がり、今となっては俺の武芸では全く歯が立たない。


 レベル48のアンデッドミノタウロスたちを倒してようやく一息。


「やっと倒せたな。それにしてもカレンは本当に強くなったね」

「いいえ。確かに強くなった実感はありますけど、こうしてシドル様の魔法を見てると私はまだまだだって思いますよ」

「俺もカレンもレベルは高くないとは言え馬鹿げたステータスだからここまで来れたけど、ここに来てこのキツさ。やっぱりもっとレベルを上げないとね。高レベルのアンデッドは手強いな」

「そうですね。今回は力技で勝ってる感じですけど、この階層のアンデッドだと再生が早いので私の攻撃では追いつかないんですよ」


 カレンの攻撃力は俺よりも格段に高いけど、この階層に来てから一体を倒すのにとても苦労している。

 高レベルのアンデッドがチラホラと出現し始めて、物理攻撃では倒しきれなくなっていた。

 レベル差のあるアンデッドに対しては設置型の光魔法で対処をしているが、レベルが低いから楽に対処できるわけではない。

 設置型魔法を何度か更新して敵の攻撃を凌ぎきってようやっと倒せる。

 素のHPが高いカレンは数発食らっただけじゃ致命傷にならないけれど、俺はシリーズ最弱のボスと揶揄されるだけにHPが低く防御力もない。

 自慢ではないが、一撃でも喰らえば致命傷になり得るのが俺、こと、シドル・メルトリクス。

 カレンより十以上レベルが高いのにHPは三分の一以下だからね。

 とは言え、カレンだって余裕を持って戦うにはもう少しレベルを上げるべきだ。

 分が悪い命のやり取りは割に合わない。当分この前の階層までを周回しよう。


「じゃあ、当面はここまでだね」

「そうですね。私もそうしたいです」


 とにかく死ぬわけにはいかないからムリはしない。

 カレンも同意見だった。

 そして上層へと戻っていく。


「このダンジョン、食べられる魔物が少ないのが難点だよな」

「私、ここ以外のダンジョンを知らないからわかりませんけど、他のダンジョンだと食べられる魔物出るんですか?」

「ホーンラビットとかおおねずみとかは食べられるよ。それとオークだなー。人型だからちょっとアレだけど、見かけによらず美味いんだよね」

「そうなんですね。オークは森でも低レベルで出現するので、今度村に持ち帰って食べてみましょうか」

「森で取れるのか。だったら試してみるのもありだね」

「地上に出たら狩りに行きます?」

「ダンジョンを出てちょうど良い時間だったら考えるよ」

「わかりました!楽しみにします!」


 二人で無駄に喋りながら七日かけて進んだダンジョンを三日で戻る。

 最近はずっとカレンと二人きりで過ごしていた。

 ちなみに食糧は二人で十日分を持って潜っている。

 今のままだと食事的にもここまでが限界だ。

 いろんな理由があって今回進んだ階層までだとちょっと厳しい。余裕を持って挑めるのは四十階層までだな。


 三日かかると思った帰り道。

 二日で戻れて強くなったんだと実感する。

 時間がかかるのは四十階層より深くなってからだ。

 戻る途中で魔物を狩ってもカレンはレベルが上がるから魔物を倒しながら帰るだけでもレベリングになる。


 あと一人居れば、もっと楽になるかな……。

 と言っても村にはこの難度の高いダンジョンに挑める人材は居ない。


「オークも狩れましたし、帰りましょう」


 バハムルの森のダンジョンを出て直ぐにカレンはオークを狩りに行った。

 持ち帰ったオークは血抜きをして解体後、美味しく戴いた。


 それからしばらく時が経ち、バハムル領に赴任して数ヶ月。

 村の区画を整理して住居の移設が順調に進んでいた。

 俺はと言えば、カレンとバハムルの森のダンジョンに潜りようやっと五十階層に足を運べそうというところまで攻略が進んでいる。

 だが、携帯できる食糧の都合上、ここまでが限界だった。

 それでもカレンとダンジョンでレベリングを重ねカレンはレベル42、俺はレベル48まで上がる。

 

───


 名前 :シドル・メルトリクス

 性別 :男 年齢:13

 職能 :なし

 Lv :48

 HP :1980

 MP :8660

 VIT:99

 STR:146

 DEX:146

 AGI:193

 INT:433

 MND:433

 スキル:魔法(火:8、土:8、風:7、水:8、光:7、闇:5)

     魔力感知8、詠唱省略★、無属性魔法:5

     解錠:7、鑑定★、気配察知★、認識阻害★、房中術★

     剣術:7、盾術:7、槍術:8、斧術:7、弓術:8、

     棒術:7、杖術:7、体術:8


───


 名前 :カレン・ダイル

 性別 :女 年齢:15

 身長 :163cm 体重:47kg B:82 W:57 H:84

 職能 :剣聖★

 Lv :42

 HP :8300

 MP :4200

 VIT:415

 STR:415

 DEX:43

 AGI:169

 INT:210

 MND:418

 スキル:魔法(火:5、土:5、風:5、水:5)

     無属性魔法:3、詠唱省略:1

     剣術:8、盾術:5、斧術:8、槍術:3、弓術:2、体術:7

 好感度:86

 性感帯:うなじ、背中

 性癖 :匂い

 ︙


───


 ステータスをざっと見るとやはり、俺のHPは相変わらず低いし、カレンのステータスの高さは秀逸。だが、カレンの【性癖:匂い】が気になって仕方がない。

 匂いフェチのことだと思うけど一体どこでその性癖を満たしているんだろう。

 台所で食事の支度をしているカレンと目が合った。


「どうかしましたか?シドル様」


 ジッと見られていたことを気にさせてしまっていたらしい。

 キモいとか思われてそうだ。


『匂いフェチって何?』


 と聞くわけにはいかない。変に誤魔化して気不味くなるのは居た堪れない。

 だから言っておかなければならないことを伝える。


「王都に行く話をしていたと思うんだけど、もう一人、この屋敷に住んでもらおうと思うんだけど部屋って空いてるよね?」

「あ、そのことでしたか。そう言えば言ってましたね。王都からどなたかお連れになられるんですか?」

「ああ、その予定だよ」

「なら、部屋を用意しておきますから。ベッドなどはあるものでよろしかったでしょうか?」

「あるもので良いよ。大丈夫かな?」

「ええ、もちろん。ご用意しておきますから、お任せください」

「うん。よろしく頼む」


 まあ、やり過ごせたかな。

 俺は数日後に王都に向かう。冬休みの前にイヴェリアがアルスとハンナと決闘をする。

 イヴェリアが殺されるのだけは阻んでおかないとな。


「風呂、入れてくるよ」

「はい。お願いしまーす」


 この小さな領城に住んで数ヶ月。

 最初はカレンが井戸から水を汲んで運んで風呂桶に注いでいたけど、今は俺の水属性魔法で湯を注いでいる。

 通常、【詠唱省略】はどんなに短くても詠唱を必要とし、消費MP微増、魔法威力減少などのネガティブな効果がある。

 だが、ユニークスキル相当に達した【詠唱省略】は、詠唱なしで、消費MPが増えたり威力が減るなどのことがない。

 ゲームでは分からなかったけど、【詠唱省略】は熟練度が上がると詠唱という術式が簡略化される。

 簡略化された部分は術者の創造性と想像力で魔法の発現を補うので、こういった軽微な調整を施した魔法の使い方が容易となる。


 風呂桶に湯を貯め終わって戻るとカレンが俺に頼み事をしてきた。


「シドル様、ごめんなさい。火をお願いしたいんです」


 カレンに請われて俺はかまどとオーブンに魔法で火を入れる。

 多芸多才のシドル・メルトリクスの才能がこういうところで活かされる。

 火を起こす程度の弱い火力。風呂桶に湯を貯める程度の水を顕現して温めるためる複数の属性を至妙に扱う制御力。


「ありがとうございます!流石ですねッ!助かりました」


 カレンは料理を続けた。

 大袈裟に喜ぶけどこういうやりとりが今は日常になってる。


「シドル様。こんなに簡単に火を起こせるって便利すぎですよね。本当にありがたいです」

「こんなのでカレンの美味しい料理が食べられるんだからお安いものだよ」


 火をかけて仕上がった料理がダイニングテーブルに運んでるカレンは楽しげに台所とテーブルを往復。


「しばらくシドル様に頼れなくなるのは残念ですよ」

「それを言ったら俺だってカレンの美味しい料理をしばらく食べられないのは残念さ」


 テーブルに並べられたのは麦を炊いた飯と湖で採れた鱒の焼き魚、それと野菜や肉と言った感じ。

 今日の晩ご飯はいつもよりも品数が多かった。


「それにしても今日はテーブルに上ってる品が多いね」

「収穫作業が落ち着いて領民の皆様が路地に野菜なんかを出せるようになりましたから。広場に様子を見に行くといっぱい貰っちゃうんですよね。ありがたいことに」

「ははは。それはなんだか悪いな」

「みんなシドル様のこと、大好きなんですよ。少しずつですけど村に建物が建つ度に住みやすくなってますから」


 村の住居が乱雑に建っていたものも三分の一ほどが区画を作って造成した場所に移ってもらって旧村落は少しずつ壊されている。

 水は新たに掘った井戸もあれば湖や河川から引いた水を貯水して浄水後にいつかの広場の水瓶に配水して飲水や生活用水にしてもらっていた。

 上から水をそのまま流し込んでるだけだから直ぐに溢れてしまうので、余った水は井戸に流したり河川に戻したりしてるけれど。

 いつか前世で見た上下水道みたいなものを作って各家に水を届けられたらと思うけど、いつになったら実現できるのやらって感じだ。

 で、それが村落の住人だけの恩恵と言えばそうでもなく、川から引いた水は集落にも水を溜めて浄水する設備を作ってみたら、農作業が楽になりそうだと期待を持たれてしまった。

 ただ、バハムルの冬は寒いらしいので凍らなければというところでもある。


「そんな好かれるほどのことはしてないよ。傲慢で怠惰で醜いシドル・メルトリクスさ。楽がしたいから家の前に汲まなくても良い井戸を作ったくらいだしな」

「それでも領民が豊かになって敬われてるんだから良いじゃないですか。それにシドル様は怠惰でも醜いわけでもないですよ。むしろ私にとっては一緒にダンジョンを回ってくれる優しくてカッコいいシドル様です。私だってシドル様のこと好ましく思ってますからね。領民だってみんなそう思ってますよ」

「そうなら嬉しいよ。ありがとう。カレン」


 なんか早口で捲し立てられた気がするけど、良く思ってくれてるなら感謝をしておこう。

 ご飯を食べ終えてソファーで休んでいたらカレンが俺の座る広いソファーに腰を下ろしてきた。


「もっと感謝してくれても良いんですよ?ほら、たとえばここ」


 そう言ってカレンは自分の頭をポンポンと叩き、言葉を続ける。


「ナデナデしてくれて良いんですよ?「カレンありがとう」ってね。どうですか?」


 クイックイッと頭を動かして撫でろとアピールしてくる。


「ねえ、俺、年下だよ?」

「そんなのに年は関係ないよー。お姉さんだって甘やかされたいときがあるんです」


 さらに頭を俺に近づけて「どうですか?」と重ねて訴えかける。


「仕方ないなー」


 カレンの頭をポンポンと軽く叩いた。

 妹のジーナにしていたみたいに。──懐かしいなー。と思って再度、ポンポンしてクシャっと撫でてから手を離した。


「お、手慣れてますねー?スケコマシですか?」

「妹が居るんだよ。良く妹にしてたなって思い出したんだ」

「そうなんですね。何だか思い出させてしまったみたいでごめんなさい」


 何故かシュンとしたを向いて縮こまるカレン。


「気にしないで良いよ。懐かしんだだけだからさ」


 俺はもう一度カレンの頭を撫でて立ち上がった。


「明日は早いしもう寝るよ」

「あ、はい。わかりました。私は片付けたら寝ますから」


 カレンがソファーから立ち上がって俺の顔を見る。


「では、おやすみなさい。シドル様」

「ん。おやすみ。カレン」


 この日は良く眠れて次の日の朝はスッキリと目覚められた。


 それから数日。

 王都へ行く準備を終えた俺はバハムル領の領村を旅立った。

 俺が王都に向かっていること、王都に到着後も王都にいるということを悟られてはならない。

 フードの深いローブを着用して顔を隠し、【認識阻害★】を常時使用する。この【認識阻害★】は【気配察知★】でないと看破できないから俺が王都に移動していることが分かる者はいない。王都に忍び込んだ後も安全なはず。

 ただ食糧は適宜一定量補給しなければならないから、大きな街の市場に立ち寄ったらスキルを解除して食糧を補充するつもり。


 そうして二週間近くかけて王都に潜伏した俺は決闘の会場となる王立第一学院中央競技場の屋根の上に忍び込んだ。

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