主人公補正
凌辱のエターニアシリーズは四作続いた人気のエロゲ。
で、俺は凌辱のエターニアシリーズの最終作【凌辱のエターニアⅣ─アルス王国建国記─】のラスボスのシドル・メルトリクス。
なんだけど、俺には前世とやらがあるみたいで二歳で物心がついたのだが、そのときに
そして、シドル・メルトリクスという人間の人生の全容を知ることになった。
シリーズ通しての主人公は勇者アルス。初作のラスボスは魔女イヴェリア。イヴェリアは最後に聖女ハンナとの決闘に臨み、イヴェリア対アルス、ハンナという理不尽な戦いを敷いられ、最後のクイックタイムエベントで即死級のダメージを受けて絶命する。
今の俺はイヴェリアを死なせたくない。
そのために先日、イヴェリアの誕生日に【ラストリーフ】を送った。
いやー、喜んでもらえてめちゃくちゃ嬉しいんだけど、あれ、無くなるんだよな。
無くなったらどうしようか。代替品は今のところない。
去年、エターニア王国の第二王女のフィーナ・エターニア殿下に送った【
力の指輪は俺が入手したスキル【鑑定★】と★がついたユニークスキル相当に達していないと指輪の名前も効果もわからないものなのだ。
あれをつけたフィーナを見たことがないから大切に保管してそうだけどね。
ということでイヴェリアの誕生日から数日。
いつも通り、俺は学院でフィーナとイヴェリアと三人で行動する。
魔法が得意なことと親しい人間以外には冷ややかな表情しか見せないことから、氷結の魔女という厨ニ的な二つ名で同学年の生徒たちに称されるイヴェリアの頭には綺麗な葉を模した金色のブローチが飾られている。
イヴェリアの魅力をより引き出す良いデザインのアクセサリーだ。
フィーナと俺が「良く似合ってる」とつい褒めてしまうほど気品の高いイヴェリアにぴったりだったからだ。
ここ最近、イヴェリアは頻繁に聖女ハンナとアルスに絡まれている。
それも何故かイヴェリアが原因でイヴェリアが悪いのだと、生徒たちの間で広まっていた。
広まり方もどこか急というか偏りすぎているというかイヴェリアの言い分を誰も聞かないし、何もかもが一方的で気色が悪い。
こうした風評が広まり、イヴェリアは孤立がちだ。それは俺も同じで、専属侍女のリリアナの好感度が低すぎて、侍女としての仕事をしてくれないし、母さんの好感度も低いから俺に従者や護衛がつくこともない。
だから昼ご飯は家が用意したものではなく学院の食堂で、俺が冒険者として稼いだお金を使って食べている。
そんなわけで今日、昼食の時間になると俺はイヴェリアに声をかけた。
「ご飯、食べるんだよね?今日は俺と一緒に食堂で食べない?」
「シドル……。そうね。私も一人だからご一緒しましょう」
イヴェリアは彼女の父親のお手製のお弁当。これが男の料理とは思えないくらい美味しいんだよな。羨ましい。
そうして俺はイヴェリアと一緒に教室を出ると、視界に赤毛のアルスと金色の長い髪をなびかせる聖女ハンナが飛び込んできた。
「いた───ッ!」
下手な当たり屋かよ。
俺にぶつかったハンナがドスンと尻もちをつく。
「何するんだッ!」
するとアルスがハンナと俺の間に入って物凄い剣幕で怒鳴ってきた。
一体どうなってんだ?
アルスの大声で生徒たちが集まってくる。
───
名前 :アルス
性別 :男 年齢:12
職能 :勇者
Lv :7
HP :960
MP :380
VIT:48
STR:43
DEX:14
AGI:21
INT:19
MND:25
スキル:魔法(火:1、水:1)
絶倫★、主人公補正★、無属性魔法:1
剣術:2、盾術:2、槍術:2、棒術:2、斧術:2、体術:1
───
ガヤガヤと騒がしい。
俺は思わずアルスを【鑑定★】で覗いてみた。
【絶倫★】と【主人公補正★】はユニークスキルだ。
ゲーム中では一言も喋らないこの主人公。
高村佑が遊んだ凌辱のエターニアでは選択肢を選ぶだけの自我しかないアルスだが、ここではしっかりと意思をもって行動している。
「そっちからぶつかっておいて謝らないのか!貴族はそんなに偉いのか?学院は身分は関係なかったんじゃないのか?」
「それはすまなかった」
アルスが大声で怒鳴る。本当に煩い。
俺は普通に頭を下げて謝った。貴族が何だと煩わしい。
そしたらまた、怒気を強めて罵ってくる。
「謝ればそれで済むのかよ!ハンナ様は聖女だぞ!それとも何か?お前は平民だからって俺たちを差別して蔑ろにするのか?あ?」
「いや、今、身分関係ないって言ってなかった?」
「は?貴族様だからってそんな嘘をつくのかよ!ハンナが怪我をしたらどうするつもりだったんだ!責任を取ってくれよ!責任をさ!」
ここまで、なんかちょっとゲームと展開が違う。と思ったけど、実際のところちょっとだけ似ていた。
ゲームではデブのシドルがハンナを押し退けたことが発端だった。
ハンナが転んでシドルが言い寄るところをアルスが助けに割って入るのだが、今ここで起きているこれはどう見ても当たり屋だ。
しかも難癖の付け方が酷い。アルスってこんな奴だったのか。
ま、ゲームではデブだったシドルこと俺は今はスレンダーだし、デブのシドルはレベル3でステータスが初期に近かったけど、ここに居るシドルはレベル30。
だから今、アルスと戦えば負けることは無いんだけど厄介事を大きくするのは避けたいところ。
「おいッ!何をやってるんだッ!」
学院の教師たちが数人やってきて俺を取り囲んだ。
「その貴族が俺たちを押し退けて怒鳴りつけてきたんです。平民の分際で貴族に逆らいやがってとか……それで彼女が……」
アルスはそう言ってハンナに目線を向けた。
とんだ詐欺野郎だ。
視線を向けられたハンナもニヤリと口端を釣り上げている。
やれやれ。とんでもない奴らだ。
そしたら凛とした声が廊下に響く。
「それは違いますッ!」
イヴェリアの声だった。だが、見ていた生徒たちは何故かアルスを支持している。
彼女の言葉は虚しく響き弱々しく立ち消えた。
「分かった。シドル・メルトリクス。お前はこっちに来い。アルスとハンナは個別に後で話を聞こう」
教師はイヴェリアの声に気が付かない素振りで彼女の横を通り過ぎた。
───
名前 :アルス
︙
スキル:魔法(火:1、水:1)
絶倫★、主人公補正★、無属性魔法:1
剣術:2、盾術:2、槍術:2、棒術:2、斧術:2、体術:1
───
【主人公補正★】の効果か。アルスの言動が正しいと常に思い込ませるスキル。
多少理不尽なことを言っても周囲の人間たちはアルスを信じてやまない。
きっと、元の才能もあるんだろうけど、【主人公補正★】の効果が大きいんじゃないか。
でも、今さっき、イヴェリアはなんともなかったよね?
もし【主人公補正★】にゲームの進行に補正する働きがあるとするならば、それが原因なのか。
これでイヴェリアが初作のラスボスにされてしまうのか。
俺はイヴェリアを死なせたくないし、フィーナにとっては凌辱エンドでしかない世界は避けたいところ。
それに、まだまだ他に被害者にさせたくない人たちが何人も居る。
俺が生きているこの世界の人間はキャラクターではない。
例えば今、アルスをどうにかして殺すこともできる。でも、そうすることで俺はきっと罰則を与えられて死ぬことになるだろう。
だったら彼を粛清するタイミングを見計らうべきか。
生身のアルスがどういう人間なのかを図らなければならないけれど。とりあえずキチガイだということだけは今日分かった。
このキチガイたちからの被害はなるべく小さくしなければならない。
ゲーム中ではNPCとのエッチシーンはほぼ強姦から始まる。
プレイヤーが操作する主人公のアルスが【鑑定★】や【房中術★】を入手すれば、それらのスキルを駆使して女性を簡単に快楽堕ちさせられる。
そして、この【鑑定★】、【房中術★】というスキルは早くから抜きゲー化できる重要アイテムでゲームの序盤から入手が可能。だから、俺は直ぐにこの【鑑定★】と【房中術★】を押さえた。
これがあれば民が被害に遭うことが少なくなるはず。
これからも重要スキルやアイテムは先回りして回収しておきたい。
救いたい人を救うために、その決意を胸に、俺は教師たちに引かれて尋問室へと引きずり込まれた。
俺は尋問室で待たされた。
先にアルスと聖女ハンナの言い分を聞いたらしい。
そうであれば俺に言えることは恐らく無い。彼のスキルが効いているはずだから。
「我が学院は平民であっても優秀であれば差別なく教育を受けられる王国の誇りである。メルトリクス公爵家の嫡男とはいえ、それを汚すことは許されないと知るべきだ。よって我が王立第一学院は貴殿を本日付で放校処分とする。異議は受け付けないと思え。以上ッ」
それ以前に、俺の話を聞く気がなかったらしい。
俺の荷物は教師によって投げ付けられた。
家に帰ると直ぐに父さんからの呼び出しがあり、執務室に入った。
そこには母さんも同席していた。
俺は座ることを許されず父さんの話を聞かされる。
「シドル。王侯貴族には王侯貴族の義務というものがある。それを蔑ろにすることは許されない。故にメルトリクス公爵家はシドルを廃嫡とし、トールが次期当主として嫡男となる。お前はバハムル男爵家領で領主代行に着任してもらう。出発は明日。着任に伴う書簡を出発前に渡そう。私からは以上だ」
ここでも俺の話は聞かれなかった。
母さんも俺のことを一瞥もしない。
あれだけ親バカで過保護だったのに俺にだけ本当に冷たい。
───
名前 :シーナ・メルトリクス・エターニア
︙
好感度:0
───
気になって【鑑定★】を使うと好感度がゼロ。俺、実子じゃないのか?
これはキツい……。
前世の記憶があったって、俺のシドル・メルトリクスとしての思い出のほとんどは父さんと母さん、弟のトールや妹のジーナとの出来事でいっぱいだ。
どれだって愛着があるし手放したくないと思っている。
なのに……。この心の痛さは俺にとってこれが現実だからだ。
悔しいなあ。どうにか抗いたいけれど、シナリオの補正力からは逃れられないのか……。
諦念の想いもあるが、俺には救いたい人たちがいる。だから──
「わかりました」
と、一言。俺は言葉を残して執務室を出た。
それでも、俺は母さんも救いたい。だが、今はとにかく周りの流れに従おう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます