勇者アルス

 エターニア王国の王都エテルナの南に馬車で10日ほどの距離にある海辺の村。

 凌辱のエターニアの主人公アルスはここで生まれる。

 漁業が盛んでアルスの両親も多くの村人と同じく漁業に勤しんだ。


 アルスは七人兄妹の末っ子で兄姉に可愛がられて良く育ったと言える。

 しかし、甘やかされたからか、どことなくわがままで人の言葉をきかない子に育ったのかもしれない。

 アルスの両親は心配した。

 それでもアルスの可愛らしい笑顔を見ているとそんなことを忘れてしまうのは悪い癖であった。


 アルスには特別な才能がある。

 それを家族の誰もが誇らしく思ったし自慢した。

 森に行けば大型の魔物を臆せず狩る。海辺では甲殻類の魔物を狩る。

 彼は村の人気者となり十歳を迎えると村の少女たちがアルスの傍に付かず離れずと様々に接した。


───


 名前 :アルス

 性別 :男 年齢:10

 職能 :勇者

 Lv :3

 HP :400

 MP :140

 VIT:20

 STR:19

 DEX:6

 AGI:9

 INT:7

 MND:9

 スキル:魔法(火:1、水:1)

     絶倫★、主人公補正★、無属性魔法:1

     剣術:2、盾術:2、槍術:2、棒術:2、斧術:2、体術:1


───


 アルスは十歳にしてレベル3。

 何度か魔物と戦い勝利を納めた証拠である。

 彼は二属性の魔法を使えるが知性INTが足りず魔法では威力のある攻撃が出来ない。だから剣と盾を持ち魔物と対峙した。

 そういったステータスやスキルを持っていても、アルスはステータスの開き方を知らなければステータスを開いたとしても字が分からない。脳裏に浮かぶデータの使い道を知ることが彼には出来なかった。


 そんな彼の人生を大きく変える出来事が起きる。


 ある日、アルスは狩りに出るとバイソンの群れが小隊規模の騎士兵を追いかけていた。


(今日はバイソンも良いな)


 そう思って重量のある戦斧を持って出歩いていた矢先である。

 騎士たちはバイソンに追いかけ回されて落馬させられたり、その後、踏みつけられて重症を負ったり、絶命したりと散々な状態。


(バイソンは100頭くらいか)


 50人ほど居た騎士はもう20名にまで減り、まさかの、バイソンに全滅させられそうな状況だ。


(助けるか)


 アルスはバイソンの群れに突っ込んだ。


「おいッ!ヤめろ!死ぬぞッ!」


 バイソンの群れに突っ込んでいく子どもの姿を見た小隊長のロッド・ファウスラー。

 彼は上長からの命で訓練のためにこの場に小隊長として50人の騎士兵を率いてきた。

 そして彼は信じられない光景を目にする。

 子どもが戦斧を振り回して次々とバイソンをなぎ倒す。

 戦斧で脳天をかち割り、柄の先で眉間を突いて蹴り倒し、騎士たちが次々と倒されていたというのに、少年は易々とバイソンを殺していく。


「凄まじいな……」


 ロッドは唖然とした。


「隊長、我々も彼に続きましょう」


 ロッドの横に兵士が並び進言する。


「そうしよう」


 ロッドは手綱を握り直し、剣を再び掲げた。


「皆のもの!少年が道を切り開いてくれたッ!我らも続くぞ!」


 ロッドが声を張り上げてアルスに向かって馬を駆る。


「「「「応ッ!」」」」


 ロッドに続いて生き残った騎士たちもバイソンの群れに突撃した。


 アルスがバイソンを20頭ほど戦斧で叩き殺すとバイソンは引いていった。

 騎士たちが殺したバイソンと合わせて30頭。


 敵が居なくなった狩り場。

 ロッドは生きている騎士たちの捜索を命じ、アルスの横に馬をつけて鞍上から下りると話しかける。


「少年。名は何と言う」


 甲を脱ぎ顔を見せる。そうでないと相手が平民であったとしても命を助けてくれた恩人に対して誠意に欠けると感じたからだ。


「俺はアルス。ウミベリ村のアルスです」

「アルスか。私は王国騎士団で小隊長を預かっているロッド・ファウスラーと言う。キミのおかげで助かった。ありがとう」


 ロッドは感謝を伝えて頭を下げた。平民にも頭を下げることのできる気概のある男である。

 それから、ロッドは言葉を続けた。


「ウミベリ村はここから近いのか?」

「はい。ここからだと歩いて30分くらいのところです」

「そうか。助けてもらった恩もあるのだが、兵士たちの治療もしたい。村に案内してもらえるか?」

「それは良いんですけど、バイソンが……」

「ああ、では怪我人を運ぶついでもある。殺したバイソンを私たちでも運ぼう」

「ありがとうございます。助かります」


 そうしてアルスは騎士たちの覚えも良く和気藹々とした交流をしつつ村に到着すると、騎士たちは村長と会談をして怪我人の治療のために滞在のお願いをする傍らで、バイソンの解体をアルスと一緒に行った。アルスと共にバイソンの解体をした騎士たちは、彼の見事な腕前に感動の声を上げる男たちが続出。それは解体のみならず、バイソンを倒した傷を見て何度も感動に唸り声を上げた。

 アルスが狩ったバイソンは脳天や脊髄を砕いていたのに対し、騎士たちが狩ったバイソンは体中に傷があったり内臓をぶちまけていたりと美しさがない。それはアルスが美味しい肉を食べたいがために肉に血が回ることを避けたからでもあるが、そういったことが分からない騎士たちはバイソンの傷と出血の少なさに感嘆し続けることしか出来ずに居た。

 バイソンの群れに立ち向かった勇敢さなど騎士たちに褒めれれて悪い気がしないアルスは騎士たちと打ち解けて会話が弾む。

 その後、怪我人の状態が良くなるまでの一週間。騎士たちは村に滞在し、その間、アルスはロッドを始めとした騎士たちに剣術などの武芸を教わった。


「アルスくん。キミは素晴らしい!もし良かったら私たちのところに来ないか?武芸の修行をつけてあげられるかもしれないし、私の父上にキミを紹介したいくらいだ」

「良いんですか?」

「ああ、もちろん。アルスくんのご両親にも了承を貰った。キミさえ良ければ私たちの方でキミの教育をしよう」

「あ、ありがとうございます!では俺の方でも父さんと母さんに言っておきます」


 アルスは両親に承諾を得に帰るが、給金が出ることと両親のもとに一時金が支払われるなどの厚遇もあり、アルスはファウスラー公爵家の領兵見習いとして王都に住むことになった。

 王都ではファウスラー公爵家の邸宅敷地内にある領兵宿舎に入寮する。



 王都に移ったアルスは領兵団に所属し、日々の訓練と文字の読み書き、簡単な計算などを教わった。

 アルスは武芸の覚えが良くまだ十歳だというのにメキメキと頭角を顕す。訓練では大人顔負けの技量で一兵卒では既にアルスの相手にすらならない。

 実力を示したアルスはファウスラー領兵団に入団して数ヶ月もしないうちにファウスラー領の魔物狩りの編成に加えられた。

 これが兵士としての初の活動であることから、兵士たちから教会に祈願に行くべきだと薦められてアルスはロッド・ファウスラーに伴われて王都で一番大きい大教会へと足を運んだ。

 大聖堂にて女神像に祈りを捧げる前にアルスはロッドに一人の少女を紹介される。


「こちらは聖女ハンナ。キミと同じ年だから何かと顔を合わせることになるだろうね」

「紹介に与りましたハンナと申します。聖女なんてだいそれたものではございませんが、お見知り置きくださると嬉しいです」


 重ねた手をお腹につけて腰を折り頭を下げる。

 可愛い!──アルスの心が踊る。

 アルスは彼女の他に公爵家のご令嬢、ルーナ・ファウスラーにも懸想していた。だが、彼女は手の届かない雲の上の存在。憧れにとどめておくべきだとそう考えていた。

 だが──


「彼女は平民の出だから、我々貴族の一端からは嫌悪されることもある。キミという子が居れば彼女の心労も軽くなると思ってね。親しくしてもらえたら私としては気が楽になるよ」


 ロッドはアルスにそう言った。

 アルスは「わかりました」と応じるとハンナに名を名乗る。


「俺はアルス。ウミベリ村の出身です」


 アルスは左手を胸に当てて頭を下げた。



 聖女と呼ばれて久しいハンナはいつも孤独だった。

 王都のスラム街に生を受け食にありつくのもそれは大変な家庭で育ったハンナは物心がつく前から光魔法に長けていた。

 光属性魔法は闇属性魔法と同様で使い手が少ない。そして何と言っても癒やしの効果である。

 ハンナは光属性にしか適性がないが、それでも幼少期より高い熟練度スキルレベルの光属性魔法によって金を稼いでハンナの家族は生活を送る。回復術は儲かるのだ。

 そんな平民とは言え無差別に回復術を施して荒稼ぎをしていれば、ハンナの噂話が教会や貴族に広まるのは必至。

 ハンナが八歳を迎えたある日。ハンナの家族のもとに大教会の大司教が訪れた。


「ハンナを教会に引き取らせて欲しい。謝礼は十分に用意しよう」


 スラム街の平民に断るという選択肢は無い。

 謝礼が出るなら二つ返事でハンナの両親は娘を売った。

 ハンナも、頭ではそれを理解しているものの、大好きな家族である。

 金で売られたことによる失望と身分の差に失意を覚えた。

 だが、同時にこうも思った。


(光魔法をこの熟練度で扱える私は特別なのではないか?)


 大教会の枢機卿がわざわざ足を運んで来るのである。

 自身を特別視するのは当然の至り。


 ハンナは直ぐに聖女と渾名された。

 あらゆる病を癒やし、欠損さえなければどんな怪我すらもたちまちに治癒をする。

 彼女への憧憬は多くの民の間でたちまちに膨れ上がり、王国内外に問わず聖女ハンナの名は広まった。


 だが、その反面。

 ハンナは両親すら会うことが叶わない状況に酷い孤独に苛まれた。

 そんな時に現れたのが、アルスである。

 彼女の目の前でぎこちないながらも恭しく頭を下げる振る舞いに微笑ましさを覚えるほど。


 ハンナはひと目でアルスを気に入った。



 初陣となった討伐遠征を無事に終えたアルス。

 それ以降、ロッドが事あるごとに大教会にアルスを連れていきハンナと過ごさせた。

 元は平民同志。二人は意気投合し和気藹々と過ごして月日を重ねる。

 ハンナはハンナで聖女として従軍をすることもあり、これがレベルアップに寄与した。


 それからしばらく──。

 アルスはファウスラー公爵家の推薦で、ハンナは枢機卿の推薦で王立第一学院中等部の入学試験を受験し合格する。

 アルスとハンナ。二人は平民の少年少女と言う割に多大な実績を積み、試験時に実施された【鑑定】でもステータスの高さが露見した。


───


 名前 :アルス

 性別 :男 年齢:12

 Lv :7

 HP :960

 MP :380

 VIT:48

 STR:43

 DEX:14

 AGI:21

 INT:19

 MND:25

 スキル:魔法(火:1、水:1)

     剣術:2、盾術:2、槍術:2、棒術:2、斧術:2、体術:1


───


 名前 :ハンナ

 性別 :女 年齢:12

 Lv :5

 HP :240

 MP :620

 VIT:12

 STR:5

 DEX:16

 AGI:15

 INT:31

 MND:41

 スキル:魔法(光:6)

     杖術:2


───


 だが、これでも上位二十名には届かず二人はD組という商人や上位の平民が集まるクラスへと配属されたのだった。

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