スキル結晶石

 十歳を迎えた。

 王都に住む貴族は受験時の成績により入学する学校が決まる。

 俺は王立第一学院初等部の一年生になった。


───


 名前 :シドル・メルトリクス

 性別 :男 年齢:10

 職能 :なし

 Lv :1

 HP :100

 MP :200

 VIT:5

 STR:5

 DEX:5

 AGI:5

 INT:10

 MND:10

 スキル:魔法(火:3、土:3、風:3、水:3、光:3、闇:3)、

     魔力感知:4、詠唱省略:3、無属性魔法:3、

     解錠:3、気配察知:4、認識阻害:3、

     剣術:3、盾術:3、槍術:3、斧術:3、弓術:3、

     棒術:3、杖術:3、体術:3


───


 レベルは相変わらず1のまま。

 騎士たちの訓練に参加して5年。武芸の類の覚えも良く熟練度だけはそこそこにまんべんなく上がった。

 さすがあらゆる魔法と武芸に明るく多彩なスキルを繰り出すシリーズのラスボス。

 魔法は最大MPが上がらないせいで頭打ち。階位の低い魔法を連発しても熟練度に加算されることはない。

 それでも、俺の訓練を見てくれる騎士は──


「これまで実戦をなさっていませんからレベルには反映されませんが、シドル様の上達具合は非常に良いですよ。ここまで多くの武芸を使いこなせるというのは稀ですから」


 と、フォローをしてくれる。


 そして、ついに俺に従者がついた。


「リリアナ・ログロレスと申します。ログロレス子爵家の三女とシドル様に仕えるには至らないかもしれませんが、どうぞよろしくおねがいいたします」


 スラリとした体型で見た目は可愛らしい。メイド服が良く似合っている。

 それにしてもこの世界。エロゲの中だけあって女性は綺麗どころが揃ってる。大変に眼福だ。

 ログロレス子爵家は我がメルトリクス公爵家の寄り子のひとつ。だからこうして俺に仕えることになったのだろう。

 けど嫁ぎ先はなかったのか?こんなに可愛いのに。とまあ、思うことはあるものの、俺にとっては渡りに船。是非に彼女に尽力してもらいたい。


「シドル・メルトリクスです。こちらこそ、愛想を尽かされないように頑張りますから、よろしくおねがいします」


 カーテシーをするリリアナに俺は手を差し伸べると、彼女はその手を取って膝を折った。


 リリアナが来て直ぐに俺は屋敷を出て平民街へと行くことにする。


「お母様、僕、教会や孤児院を見てみたいのです。よろしいでしょうか?」


 リリアナを伴って母さんの部屋でお願いをする。


「まあ、良い心掛けね。リリアナに付いてもらっていってらっしゃい。この国のことをしっかり学んでらっしゃいね」


 母さんに咎められること無く応諾された。

 むしろ学んでこいと言ってくれている。


「ただ、平民街というのは物騒でもあるから護衛の騎士を付けるわね」

「ありがとうございます。お母様」


 母さんは女性の騎士を呼んで俺とリリアナの護衛に命じると、騎士は何故か嬉しそうにして命令を受けた。



 邸宅から歩いて二時間弱。

 目的の孤児院についた。

 俺は用意した金貨百枚ほどの寄付金を院長に渡して孤児院の中を見回らせてもらう。

 ここの地下に【スキル結晶石:鑑定★】がある。ゲームの通りなら地下の物置の木製コンテナの上に無造作に置かれているはずだ。

 そう思って、護衛の騎士とリリアナの隙をついて【認識阻害】を使って気配を消し、目的の地下室に入った。


(あった……)


 ゲームのグラフィックの通り、箱の上に置いてあった。


(こんな貴重なものを、こうもぞんざいに扱って……もったいない)


 持ち帰ったらバレる。だから俺はここで【スキル結晶石:鑑定★】を発動させる。

 ギュッと握って目を閉じ、手の中の石を強く意識した。

 ふわりと手の中が温まるので目を開いたらスキル結晶石が光の粒になって手の中から消え去る。


───


 名前 :シドル・メルトリクス

 ︙

 スキル:魔法(火:3、土:3、風:3、水:3、光:3、闇:3)

     魔力感知:4、詠唱省略:3、無属性魔法:3

     解錠:3、鑑定★、気配察知:4、認識阻害:3

     剣術:3、盾術:3、槍術:3、斧術:3、弓術:3、

     棒術:3、杖術:3、体術:3


───


 ステータス画面のスキル欄に【鑑定★】が加わっている。

 目的のスキルを入手したし、次はこの孤児院に隣接する教会。

 ここにあるスキル結晶石のスキルを俺は使うつもりは無いけれどアルスに渡してはいけないものだ。

 だから先に入手して使ってしまう。

 そのスキル結晶石は司祭の私室に置いてある。

 机の中に隠れているのだが、ゲーム中ではこれをアルスが入手して覚える。このスキル結晶石はこのこじんまりとした小さな教会の司祭が尼僧と戯れるために随分と昔に買ったもので、司祭が仕舞い忘れて放置されていた物。

 それを俺は取りに行った。

 【認識阻害】を使って司祭の部屋に入る。部屋の鍵は【解錠】を使う。ついでに机も【解錠】で引き出しを空けて奥に仕舞い込んでいる【スキル結晶石:房中術★】を入手。

 先程覚えたばかりの【鑑定★】を使って確かめてみよう。


 【スキル結晶石:房中術★】


 想定通りの【スキル結晶石:房中術★】。

 引き出しから取り出したスキル結晶石を手に握って強く意識する。


───


 名前 :シドル・メルトリクス

 ︙

 スキル:魔法(火:3、土:3、風:3、水:3、光:3、闇:3)

     魔力感知:4、詠唱省略:3、無属性魔法:3

     解錠:3、鑑定★、気配察知:4、認識阻害:3、房中術★

     剣術:3、盾術:3、槍術:3、斧術:3、弓術:3、

     棒術:3、杖術:3、体術:3


───


 スキル欄に【房中術★】が追加されていることを確認した。


 この【房中術★】はⅣで登場するスキル。クリア後に王族の女性たちを手中に収めるために使用するスキルで、房事によって洗脳する所謂快楽堕ちという状態を強制する。

 強制力の強いこのスキルがないと王族の女性たちとの行為が円滑に行えない。だが、このアイテムを使ってもフィーナ王女だけは完全に堕ちなかったりする。

 そしてもうひとつ【鑑定★】は初作から登場するスキルで人や魔物、アイテムの分析に使用する。ユニークスキル相当に達した鑑定では異性の事細やかな情報や趣味趣向や性癖、性的嗜好、性感帯までありとあらゆる情報を看破する。


(試しに使ってみるか)


 ふたつのスキル結晶石を回収した帰り道。

 俺はリリアナを【鑑定★】で分析を試みた。


───


 名前 :リリアナ・ログロレス

 性別 :女 年齢:19

 身長 :160cm 体重:47kg B:85 W:58 H:88

 職能 :斥候

 Lv :25

 HP :540

 MP :340

 VIT:27

 STR:32

 DEX:195

 AGI:195

 INT:17

 MND:22

 スキル:魔法(風:3、闇:5)

     解錠:2、気配察知:4、認識阻害:4、無属性魔法:1

     暗器術:5、体術:5

 好感度:2

 性感帯:耳、首

 経験数:0

 ──

     ログロレス子爵家の三女。側妻の娘。

     第三学院を卒業後。

     数多の縁談を申し込んだが断られ続ける。

     甘いものが好き。

     子どもが嫌い。

     露出癖があり夜中に外で自慰行為を繰り返す。

     職務中でも下着を付けずに過ごすことが多い。


───


 ここまで見られるとは……って、ゲーム中でも見られたものだけど、現実として知るというのは衝撃的すぎる。

 リリアナはゲームに出てこなかったし、全く知らない女の子だもんな。

 いろいろ言いたいことは山程ある。でも、彼女の名誉のためにこのスキルで知ったことを彼女に言及をするのはやめておこう。

 職能クラスは【斥候】でステータスも高い。彼女の性癖や性感帯には驚いたけど、俺に対する好感度は低い。

 この世界で魔法を二属性覚えるのはとても大変だ。適性もあるから全て覚えられるわけではない。


 それにしても好感度がたったの2かよ……。

 寝首をかかれるのは間違いない。きっとこういうのもあってシドルは学院を追放されるんだろうな。

 注意をしたいスキルを持っているしね。


 それから数日かけて、ユニークスキル相当まで上げておきたいスキルの結晶石を学校の合間に回収しに行った。


 【スキル結晶石:認識阻害★】

 【スキル結晶石:気配察知★】

 【スキル結晶石:詠唱省略★】


 この三つのスキルもアルスに渡したくないものだ。

 【詠唱省略★】はアルスには不要なものだがアルスに【認識阻害★】や【気配察知★】を使わせるのは俺のリスクにしかならない。

 手に入れたスキル結晶石は覚えられなかったら回収して保持しておくつもりだったけど、無事にスキル結晶石から習得できた。


 それからの俺は、専属の侍女に負けじと鍛えることにする。

 【鑑定★】を使って名前やステータス、スキルなどを偽装。ユニークスキル相当まで達しているから誰かに見破られることがない。

 タスクという平民と名前を身分を偽装して冒険者組合に登録。

 それからは周辺のダンジョンでレベリングを繰り返す。


 冒険者を始めて一年。

 初等部の二年生になり、レベルもそれなりに上がってきた。

 そしてどうしても取りに行っておきたいアイテムがある。


 【ラストリーフ】


 どんな攻撃でもHPが2以上あれば1で耐えて生き残ることができる身代わり系のアイテムだ。

 初作でしか登場しないこのアイテム。たった一度きりの効果で一つしか入手できない貴重品だけど、これを渡しておきたい幼馴染が居る。

 入手場所は上級レベルのダンジョンで割りと浅い階層の隠し部屋。

 魔物のレベルが軒並みレベル30以上なので、どうしてもレベルを20以上にあげておく必要があったのだ。

 そのために、何度も両親に叱られても、家を抜け出してダンジョンに潜り魔物を倒してレベルを上げてきた。

 現在のレベルは21。

 目的のダンジョンは王都から東に【無属性魔法】の【身体強化】を使って丸一日歩いた先にある。

 魔法の素養があるシドルの身体ならMPはほぼ無尽蔵。丸一日身体強化を使ったところで尽きることはない。


 空が白み始めたばかりの早朝。俺はテーブルに書き置きを残して邸宅を出た。

 なにせ三日も家を空ける。

 だからこの置き手紙がどこまで大きな騒ぎになるのかの想像はつく。

 後ろ髪を引かれる思いだけど、それ以前に死なせたくないんだよな。


 そんなわけでやってきたレベル30ダンジョン。イーストヒルタワー。

 目に見える部分では地上五階層のこのダンジョン。塔型なのに隠し部屋があるのかと疑問に思うのだが、隠し部屋は地下にある。

 この塔。主な魔物はオークである。

 今の俺のステータスでは魔法以外での攻撃ではダメージを与えられない。

 【気配察知★】で魔物の気配を探りながら探索を進める。


 地下階層へ続く扉は開かなかったから地上部分からの攻略だ。

 何体かのオークを倒しながら五階の階層ボスのハイオークを倒し地下の階層への鍵を入手した。

 一階に戻り、地下へと脚を踏み入れる。

 地下はオークの他にリザードマンが出没する。

 こちらも魔法でしかダメージを与えられないだろう。

 俺はシドルだ。魔法だけは誰にも負けない。

 とはいえ、悠長に遊んでいるわけにもいかない。地下一階の探索だけで終わるのだからササッと目的のアイテムを回収して脱出しよう。

 地下部分は二十階層からなり、地下一階の魔物のレベルは35。最下層はレベル60の強力なボスがいる。

 そのボスを倒せば【スキル結晶石:多重処理★】が手に入り、それを使えば異なる複数の魔法を同時に使用することができるスキルを覚える。

 これもアルスには使わせたくない逸品。とはいえ、今の段階では誰ひとりとして倒すことのできない魔王級の階層ボスだ。

 学院を追放された後にレベルを上げてのんびりと取りに行けば良い。


 地下一階の探索を始めてしばらく──。

 隠し部屋に無事に辿り着いた。

 この小さな部屋の宝箱を開ける前に仕込みをする。

 宝箱を開けると封印が解かれて出現するレベル40のデスナイトを倒さなければならない。

 デスナイトはアンデッドだ。だから事前に設置型の光魔法を使う。発動するタイミングをずらしさえすれば魔法は同時に使える。

 俺は魔法適性が高くMPが無尽蔵なのでド派手な魔法を連発しても問題はない。俺TUEEEEができるのは最高だ。

 8つの光の球を設置した。9つめの光の球を置こうとしたが不発で現時点では8つが限度らしい。

 準備が出来たので宝箱を開ける。


「ギィィイイイイイシャアアアアアアアアアーーーーーーッ!」


 漆黒の渦が巻きぼんやりとした輪郭を描いて剣と盾を持ち、甲冑を身に付けた骸骨の騎士、デスナイトが現れた。

 俺の今のステータスでは力や速さでデスナイトを上回ることはない。

 だが、デスナイトの魔法防御を遥かに凌ぐ魔法は何度だって使える。

 設置型の光魔法、光の粒子を撒き散らして、小さな部屋を光の粒に埋め尽くす。

 アンデッドなら光の粒がジリジリと刺激してスリップダメージとして効き続ける。効果時間は30秒。

 一定間隔で発生するダメージがデスナイトを怯ませる。

 デスナイトはアンデッドで光属性や火属性の攻撃に弱い。

 弱点を突いた攻撃によるダメージが発生すると、その度に動きが止まり、デスナイトの素早い動きを封じた。

 光の粒子で動きを鈍らせていてもダメージが発生する間隔の合間にデスナイトは俺に向かって剣を振り下ろすが、怯んだ状態で繰り出した剣戟に力強さはない。

 これなら何とか見える。土魔法で盾を作りデスナイトの剣を受ける。


 ガギーーーーン!


 何とか一撃目は凌ぐ。が、二撃目には土魔法の盾は脆くも崩れた。

 ここまでがたったの三秒だ。デスナイトが出現して三秒。

 8つ置いた設置型の範囲攻撃魔法は一つにつき一秒に80ずつHPを削る。

 レベル40のデスナイトのHPは5100。8秒耐えれば倒せる計算なんだが、たったの3秒でこのキツさ。

 とにかく、あと5秒耐えきるのに土魔法で盾を作る。

 一撃は防げるとわかったから剣戟を受けたら直ぐに動いて、デスナイトが振りかぶったら直ぐに盾を作る。


 10秒後。デスナイトは灰になった。

 受けた剣戟。実に20以上。デスナイトにスリップダメージが効いてなかったらもっと受けてただろう。

 いくら詠唱を破棄できるからと言っても限度はある。最後は盾を2つずつ出して受け止めたからな。

 2秒ズレたのはスリップダメージが下振れしたんだろう。

 家から出てここに着くまでの一日半よりもずっと長くて濃い10秒間だった。

 ああ、キツかった。心臓がまだバクバク言ってる。


 宝箱から金色のブローチ【ラストリーフ】を手に取る。

 鑑定したけど合っていた。

 そして、俺のレベルが2つも上がった。


 それから来た道を戻る。

 地下一階に出てくるレベル35のオークは、もう弱く感じるほど。

 直前までデスナイトが相手だったからな。あんなに緊張感がある戦闘は初めてだった。

 命のやり取り。その言葉がとてもぴったり当てはまる。

 地上一階に戻ると俺は地下一階への扉の鍵をかけた。扉の鍵は俺が持ち歩くことにしよう。

 いつかまたここに来て【スキル結晶石:多重処理★】を手に入れると決めている。

 【多重処理★】は魔法やスキルを幾重にも同時に実行できる非常に有用なスキルだ。これを主人公やその仲間たちに取らせるわけにはいかない。

 ゲーム中では、ここで取った【ラストリーフ】を装備して最下層のボスを倒す。ダンジョンボスの履行技が即死級の無属性魔法でラストリーフを持っていないと耐えきれない。

 ラストリーフが無ければ【無属性魔法:8】で覚える【強力な大楯マイティガード】というダメージ軽減魔法が必要だ。

 資料に表記があるのに、六属性全てを8まで上げないと無属性魔法は8にならない。しかもシリーズ四作で六属性全てで熟練度2以上の魔法を使えるのはシドル・メルトリクスのただ一人。

 俺はシドル・メルトリクスだ。


 そう、子煩悩で過保護な両親がいるシドル・メルトリクスである。

 翌日。日が落ちる頃に家についたシドルは父親のドルム・メルトリクスと母親のシーナ・メルトリクス・エターニアに怒られるわ泣かれるわで大変な目に遭い、しばらくの間、母親のシーナの部屋で同衾させられるという罰を与えられてしまったのだった。

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