第22話

 黒川さんを助けに行こうとした瞬間――背後から声を掛けられる。


「火に油を注ぎに行くつもり?」


 そーそー。

 

 って、あー。

 追いついたのかよ。

 

「それも面白そうね。でも、柏田君が礼奈の代わりにヘイトを集めるつもりなら……賛成はしないわ」


 まー、仕方ないやん?

 だってぇー。

 この人達、性格悪そうじゃないですかぁー?


「そうね」


「だろ?」と相槌を打ちながら振り返ると――まだ眠そうにしているコアラ女がいた。


「そこまでヘイトを集めるつもりはないけどな」


 一応、軽く否定する。


「あなたがそうでも結果的にそうなるわ。大炎上だと思うわよ」

「やっぱり?」

「ええ」

「だけどな……」

「礼奈は大丈夫よ。ああ見えて強いから。それよりも、あの藤倉さんには関わらない方がいいわ」


 なしてや?


「彼氏がDQNだから」


 なに、それ?

 きょわわわ。

 俺氏、ボカスカ血祭りコースやったやん?

 

 しかし、あーた。

 ネッスラ知ってたんやね?

 

 俺が色々な意味でドン引きしていると、コアラ女がため息を吐きながら、


「とりあえず私に任せなさい」


 そんな眠そうな顔で言われてもな。

 不安しかないんだが……。


「火に」

「ん?」

「大量の油を注げばいいのよね?」


 おおん。

 おかえり、主旨。


 そして、面倒くさそうに髪を掻き上げながら歩いて行く。


「礼奈」

「羽美?どうしてここにいるの?」

「花茎さん⁈」

 

 有無を言わせないコアラ女の絶妙な乱入に、ざわつく藤倉さん達。

 黒川さんも驚いてはいたが、どこかほっとしたような表情を見せる。


 おお。

 ちょっと登場の仕方がヒーローのそれだ。


 しかし、この後――。

 まーまー穏便に終わることもなく――。

 

「少し話が聞こえてきたのだけれど、あなた達、礼奈と恋バナをしていたの?」


 斬新な切り口で話し出すコアラ女。


「はあ?」


 虚をつかれた藤倉さん達がポカンとしている。


「いいのよ。第三次性徴期だもの。生物だからそういうのに興味があるのはわかるわ」

「ふぇ?」


 あー。


「だから礼奈に、新しい彼氏との生殖活動の記録を聞いていたのよね?」

「せい、しょく?」

「ええ、生殖活動よ。確か、前の彼氏――天童君だったかしら?彼は手も繋いで来なかったチキン?だったけれど、柏田君は礼奈をいきなりピーピーピーしてピーピーピーピーピーで、初めなのに礼奈はピーピーってなってピーピーピーピーピーピーピー過ぎてヤバかったって言ってなかったかしら?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 おおん……。

 火に油すぎりゅ。


 黒川さんも口の端が引き攣っている。


 しかし、効果は覿面だったらしく、藤倉さん達は顔を真っ赤にしながら「くしょー、覚えてりょよ」並に走り去って行く。


 あっ、三人ともコケた。


 だ、大丈夫だろうか?


 俺がそう思っていると、コアラ女が軽くピースをしてくる。


 そんなやる気のないピースも、初めて見たけどな。


 そう思いながらも、俺は――不思議と笑ってしまうのだった。

 

 

 

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