第23話
[黒川礼奈視点]
中学の頃を思い出して、息が出来なかった。
だけど『てゆーか、礼奈って、あんなモブ男でも簡単に腰振るんだね』と柏田君のことを悪く言われた時だけは――。
――正直、頭にきた。
かなりの勢いで言い返そうとした瞬間、羽美が現れて目が合う。
その後、目配せされた先には――柏田君がいて戸惑ってしまう。
こんな酷い場面を見られたことより、
どうして?
もしかして、部室棟に二人で来たの?
そっちの疑問の方が勝ってしまう。
はあ……。
あたし……。
柏田君のこと、好きすぎるでしょ。
それから、羽美……。
庇ってくれるのも、助けてくれるのも嬉しいけど、そんな顔しないでよ?
ねぇ。
柏田君をあたしにくれるの?
もしも、くれる気がないなら、あたしを柏田君に関わらせちゃダメだよ?
『ええ、生殖活動よ。確か、前の彼氏――』
あーあ。
わかってるの?
羽美はあたしにチャンスを与えてしまったんだよ?
明日から――柏田君を独り占めしちゃってもいいの?
あたしの目の前で、柏田君にやる気のないピースをする羽美。
それを見て笑う柏田君。
ふーん。
そんな風にも笑えるんだ……。
そう思った瞬間――胸が痛くて。
おかしいほど、痛くて。
こっちに、ううん――羽美の方へ歩み寄ってきた柏田君の制服の袖を掴む。
俯くあたしを気遣って、羽美が「今は礼奈といてあげて」と柏田君に話しかけた。
だから、いいの?
本当に貰っちゃうよ?
声にならない声、最低なあたし。
そんなあたしに向かって、羽美は小さく手を振りながら、教室へと戻って行こうとしている。
その時――柏田君がコロッケパンとレモンティーを羽美に手渡した。
「ユーカ……じゃなかった。昼飯だ」
羽美はきょとんとしながらも、コロッケパンとレモンティーを、まるで宝物のように抱えると――。
嬉しそうに、微笑んだ。
◇
「あの頃のことを最近――よく思い出すの」
大切な人が久しぶりに目を覚ました日。
もう随分と大きくなった二人の子供達とその人の手を握りながら囁く。
もうそんなに長くはないのだと――担当の先生が言ってから、半年。
この人は頑張ってくれた。
だけど――。
「礼奈……」
「あなた……」
「俺の人生は――君や子供達がいて幸せだった」
「あたし達も幸せだったわ……」
目から涙が溢れる前に、大切な人がまるで眠るように目を閉じる。
それは――あたしの人生で二度目の経験だった。
どうか――。
どうか――。
もしも、神様がいるのなら――。
どうか――。
どうか――。
◇
もう間もなく完結します。
最終章の更新も早めにさせていただきます。
皆様の応援や評価のおかげでここまでこれました。
ありがとうございます。
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