第18話

 玄関ホールで上履きに履き替えて、二年二組の教室へ。

 その間、矢のように刺さる視線の数々。


 二年女子の皆様からは――。


「えっ、が……?」 

「嘘でしょ……」

「黒川さん、と寝たの?」

「天童君の方がいいじゃん」

「ねぇ、趣味悪っ。それより天童君が可哀想じゃない?私達で慰めてあげようよー」

「だね!」


 覚悟はしていたが、アレ呼ばわりとは……。

 ぐすん。

 泣いちゃう。


 あと寝たとか寝取られたとか、そういう被害妄想甚しい噂を流したのは、きっと天童だよな?

 悲劇のヒーロー並みにワラワラと女子が集まっていらっしゃる。

 

 訂正するにも――。

 これは、なかなか難しいよな?


「俺と黒川さんは清いお付き合いをしています」とか余計胡散臭いしな。


 しかし、こうなると……。

 黒川さんにヘイトが集中しないか?

 大丈夫だろうか?


 それから――。

 二年の野郎共。

 呪いの言葉が口の端から漏れてるから。


 揃いも揃って卑屈になるなよ……。


 大丈夫だから。

 黒川さんとは付き合ってないし。

 勿論、童ピーだぜぇ。

 

 はぁ。

 しかし、疲れる。

 やっぱり美人で可愛い黒川さんには、五郎ちゃんくらい良い男じゃないと釣り合わないんだよな……。 


 そう思っていたら、五郎ちゃんがニヨニヨしながら近づいてくる。


「よっ!噂になってんなぁ」

「おはよう、五郎ちゃん。笑い事じゃないから……」

「いやー、笑い事だろ?まあ、カナメから前もって連絡貰ってたからよかったけどよー。知らなかったら、俺は腰抜かすとこだったわ。相手があの黒川だもんなぁ」

「はぁ……」

「ため息吐くなよ。幸せが逃げるぞ。しかし、要がくっつくなら、あの女だと思っていたが……」

「黒川さんとはフリだから……。ところであの女って?」

「中学の時、デートしてたじゃねぇか?それから今は同じクラスだっけか?」

「あー、あれはデートではない……はず……」

「ははっ、そういう事にしておいてやるよ。じゃあ、そのなんだ、偽彼氏人助け頑張れよ。あと、もし何か困った事があったら遠慮せずに言えよ。俺と野球部全員はお前の味方だからな!」

「五郎ちゃんだけでも百人力なのに、野球部全員は凄いな……」

「それくらい感謝してるんだよ、お前にはさ」


 五郎ちゃんは眩しい夏の太陽みたいな笑顔で笑うと、俺の肩をポンッと叩く。


 ふわわわわ。

 イケメンすぎりゅ。

 困ったらすぐ頼りゅ。

 あと野球部しゅき。

 

 たまに……部室の掃除したり、道具の手入れしたり。

 バイトがない日限定だけど、練習試合や公式戦でスコアを書いたり。

 フォームチェックの動画を、分析しやすいように編集しているだけなんだが。


 味方なんて心強いわ。

 ありがたい。

 なんか、元気出てきたー。


 とりあえず人の噂も七十五日。


 それまで頑張るかー。

 

 そう思いながら教室へ入ると、一斉に飛んでくるクラスの女子達からの視線。


 しかし、一人だけ――。


 我関せずで、窓の外をアンニュイな表情で眺めていた。

 男共はその姿に夢中になっている。

 

 コアラ女……相変わらず色々な意味で詐欺ってるなー。


 そう思っていると、ピロンッとコアラ女からのラインが届く。


 全然、目が合ってないけどな。


 ねーねー。

 あーた、背中に目が付いてるん?

 きょわいよー。


 とりあえず、ラインを開く。


『昼休みに部室棟で話をしましょう。勿論、礼奈のことよ。それから、昼休みになったら起こして』


 おおん……。

 安定のアラーム代り。


 あと、寝過ぎじゃないっすかねー。



 ◇



 今朝も更新出来ました。

 皆様の応援や評価のおかげです。

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