第14話

「はっ?お前、誰だよ?何で礼奈ん家から、お前みたいなモブが出てくんだよ?それより礼奈……土曜は何で行けねぇのか、ちゃんと説明しろよな?剣二や洋輔には礼奈と行くからって言ってんだよ。だから、どうにか都合つけろよ。しっかし、お前……誰だよ?」


 こーゆー迷惑なお客様いたな……。


 しかし……天童……。


 すげー上からだな。


 女子ってこーゆーのでも好きなのか?


 謎だ。


 俺は一人、無になりながら、黒川さんからの言葉を待った。

 

 とりあえずそうした方がいい、と思ったからだ。


 黒川さんは「フゥー」と長めの息を吐くと、俺の手に綺麗な指先を絡めてくる。


「はぁ?どういう事だよ?何で……そんな冴えないヤツの手なんか……?」

「見てわかんない?」

「わかるかよ……」

「天童君より……その……あの……」


 んん?

 黒川さん、どーしたんや?

 急に顔が真っ赤に……??


 あと、すーすー?


「す、好きな人が出来たの。だから、あたしと別れて?」

「好きな人って、まさかコイツのことかよ?」


 あっ、取り乱すとイケメンでも口がタコみたいになるんだな。

 しかし、確かに天童の言う通りで、学内カースト三軍底辺の俺と一軍の黒川さんでは釣り合いが取れないよな……。

 うん、無理がある。

 やっぱり五郎ちゃんに頼むべきだった。

 天童、全然納得してないしな。

 俺が頭を掻いていると、


「冴えなくなんかないし」

「いやいや……礼奈、マジで目が悪いんじゃねぇか?俺の方が何倍もイケてるって」


 まー、そりゃそうだ。

 

 街行く女子高生100人に「無人島で二人きりで過ごすならどっちがいい?」と尋ねたとして、99.9%は「天童」と回答するはずだ。


 ぐすん。

 自分で言ってて、つらみ。

 でも、これが現実だろう。


 つまりは0.1%の貴重な女子が、ここに。

 ありがたやー。


 でも、まー。


 黒川さんが俺を好きだとは限らない。

 さっきのキスは魔が差しただけで、とりあえず天童と別れる口実が出来ればよかったんだろうしな。

 

「目、悪くないし。柏田君は……素敵な人だよ……」


 んん?

 最後の方はごにょごにょと小声で聞こえなかったが。

 

 とりあえず、俺は0.1%の貴重な女子の為に体を張ることにする。


 大袈裟に二人の指先を絡めて、強引に体を寄せた。

 

「ひゃう」と隣から変な声が聞こえてきたが、とりあえず新しい彼氏(役)を勤めてみる。


 そーゆー訳で、うちの礼奈から手を引いてくれませんかねぇ?

 

 と、一発二発は殴られるのを覚悟して、丁重に頭を下げた。 

 

 しかし、天童は俺を殴るどころか――「ははっ、マジかよ……。俺は……こんな冴えないヤツに礼奈を寝取られたのかよ……」とブツブツと呟きながら、ヨロヨロと廃人のように立ち去って行く。


 俺はそんな天童の様子に拍子抜けしながら頭を掻く。


 それから、おーい。

 寝取ってはないぞーと声を掛けるが、どうやら聞いていないようだ。


 はぁ……。

 プライド高い人の、プライドが折れると大変なんだね。


 と、この時の俺はそれくらいにしか思っていなかった。

 だから、新学期にあんなことになるなんて想像すら出来なかった――。

 


 ◇



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