第二章 We only see what we know.
第15話
「
どーん!と俺の家の居間で胡座を掻きながら、ウマ◯のサイレンス◯ズカのTシャツをパタパタさせている女子が宣う。
髪色はド派手な赤色。
片側ツーブロックのセミロング。
キツイ目元とツンとした鼻筋だが、どこかあどけなさを残す美人さん。
それが俺の義弟、
「まあ、あーしは俺様系に鳥肌しか立ちませんし、心一筋っすから!!」
だよねー。
よっ、未来の義妹。
どうか、末永く心といてやってください。
俺は三つ指を立ててお辞儀をする
ところで――話は変わるけど
俺は柚鈴ちゃんにガチ相談をする。
他のキャラは攻略出来たのに、主人公のクラスメイトの美来だけはどうしても攻略出来なかった。
なんか、このキャラ――俺の知っている誰かに似ている気もするんだが、どうも会話の選択肢を間違えてしまいバッドエンドを迎えてしまう。
相性が悪過ぎるのかもしれない。
俺が、はてさて、と頭を捻っていると、
「はぁぁぁ?要兄、それって冗談ですよね?『君恋』の美来と言えば、初めから主人公に好感度MAXのチョロインっすよ?心……
台所の方に向かって、柚鈴ちゃんが困ったような声を上げると、オムライスを両手に持った心がやれやれと苦笑しながら歩いてくる。
うわー、我が義弟ながら惚れ惚れするイケメン。
もしも――顔から首元に掛けての痛々しい傷跡がなかったら、今頃は――あの頃すでに活動を始めていた芸能界で活躍していたかもしれない。
俺を庇ったせいで心は――その時、負った傷跡を見ると、過去の後悔が大きな波のように押し寄せてくる。
同調圧力――。
今日は黒川さんの相談で久々に嫌なワードを思い出した。
中学二年の頃、俺達の両親は再婚した。
突然、出来た美形の弟。
当然、周囲からは比べられた。
それだけなら、事実だし笑って済ませられたのだが、どうやら質の悪い三年の先輩――その先輩が好きだった人が心に告白してフラれたらしい。
それからだった。
あの頃は記憶が残らないほど、精神的にも、物理的にも、その三年の先輩に、心ではなく俺がイジメられた。
周囲も心君じゃなくて、あの
勿論――心は俺を庇ってくれたが……。
俺も俺で変なプライドがあって、折角、出来た可愛い義弟に心配を掛けたくなかった。
だけど、いつしか追い詰められるようになって、情け無い話だが、当時の俺は――学校の屋上から飛び降りた。
その時、俺に必死で手を伸ばして――まるで庇うように落ちたのが心だった。
飛び降りた先に大きな木があり、奇跡的に俺達は一命を取り留めたが、俺も心も重傷だった。
心の顔から首元に掛けての傷跡もその時のものだ。
それから二か月ほど掛かって、学校へ復学した時には、今度は世間からの同調圧力でイジメは無くなっていた。
三年の先輩も県外へと転校していた。
だけど、心の傷跡を見て、俺は後悔する日々だった、三年になりコアラ女に出会うまで――。
『あのね、あなたが後悔する度に義弟さんの傷跡が薄れたり、消えてなくなったりするの?それよりも――半年から一年、時間とお金も掛かるけれど皮膚の再生医療を受けてみたら?それが難しいようなら外科手術を視野に入れてみなさい。それなら、お祖母様の伝手で腕の良い医師を紹介出来るから。費用も――いいえ、あなたはそれを嫌がるわよね、きっと……』
『どれくらいなんだ、それは……?いや、自分で調べてみる。ありがとうな……』
調べた結果、皮膚の再生医療は、俺には手も足も出なかった。
外科手術は保険が効いたとしても諸経費で100万円くらいは必要だった。
もっと安い所もあるかもしれないが、元に戻すとなると……最低それくらいは必要だった。
大学病院によってはその倍も有り得る。
だから、俺には200万円ほどのお金がいる。
幸い――コアラ女から紹介して貰った喫茶店は、高校生の俺なんかには破格の千円という時給を払ってくれている。
高一から働かせて貰って、今月の給料が出たら、やっと金額の半分に手が届きそうだ。
あとは義父さんや母さんに話せば――あとの半分くらいはすぐに出してくれそうだけど、心のことは俺自身の手で何とかしたかった。
それに心は――『父さんや義母さんに迷惑を掛けたくない、僕は男だし傷跡くらい気にしないよ』と大掛かりな手術を拒否している。
心はああ見えて頑固だからなー。
だから説得する為にも、俺自身で稼ぐ必要があると思っている。
「義兄さん、眉間にシワ。考え事もほどほどにしなよ」
優しい声が響いた。
目の前にオムライスを置くと、心が額を指差して微笑む。
あー。
何というキラースマイル。
そして、何という美味しそうなオムライス。
えっ、なに。
このオムライス、コロッケが乗ってるやん?
「義兄さんの好きなコーンクリームコロッケだよ」
今度ははにかむように笑う心。
ははーん。
俺をエモ◯させるつもりやで。
「あー、心、要兄ばっか贔屓するなよー。あーしにもサービスしろー。オムライスにケチャップでハート描けよな、デッカいハート!」
はぁぁぁぁぁぁぁぁ?
じゃあ、義兄ちゃんには「大ちゅき」でお願いします。
と、言うと。
「じゃあ、二人ともデミグラスソース掛けるねー」と台所から手鍋を持って来た心に苦笑いされるのだった。
◇
第二章、始まりました。
読者様の応援や評価を糧に頑張ります。
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