第13話
「ぷはっ……!」
「はぁ……はぁ……」
「…………」
やっと――黒川さんのキスから解放されたのだが、その後もトロンとした瞳で俺を見つめてくる彼女から目を離せない。
うっすらと汗ばんだ額。
前髪も乱れていて、長い睫毛が僅かに震えている。
あの。
そんなに……名残惜しそうな顔をしないでくれませんかね……。
あと、顔から首元にかけて真っ赤になっている黒川さんにドキッとする。
うーん。
これ以上は完全にキャパオーバーというか、何というか。
俺が困り果てていると「ねぇ、そばに……ううん、柏田君があたしの
さっきのキスで、全ての語彙力を無くしていた俺が辛うじて首を縦に振ると、黒川さんはほっとしたような表情を見せた。
だけど、その後――。
少し寂しそうに笑う。
どうして、黒川さんがそんな顔をするのか、この時の俺には解らなかったが……。
そんな顔をしないで欲しいと思った。
だけど、俺なんかが出来ることと言えば、背中をさすさすして差し上げることくらいだ。
さすさーす。
一瞬、黒川さんは驚いたように肩を震わせていたが「だから犬じゃないよー、あたし」と、クスクスと笑っていた。
少し元気になったようで良かった。
一頻り笑ったらしい黒川さんが、俺の肩にコツンと額をくっ付けてくる。
途端に俺の所在が無くなって、窓の外へ目を向けた。
オレンジ色に青い光が混じり始めている。
夏の長い夕方が終わりそうだ。
「そろそろ、ママ達が帰ってくるかも」と黒川さんが呟く。
それから自然と体が離れた。
◇
俺が玄関ホールでスニーカーの靴紐を結んでいると、プルプルと足を震わせながら花さんが近寄って来る。
どうやら(あんなブリザードを吹かせてしまった俺なのに)見送りに来てくれたらしい。
あざます、花さん!
次回は高級ジャーキーを持参します!と花さんへ伝えると満更でもないご様子だった。
黒川さんは、なんかアタフタと顔を真っ赤にして焦っていたが、俺は何かマズいことでも言っただろうか?
とりあえず花さんにペコリと一礼して「お邪魔しました」と扉を開けた時だった――扉へゴツンと何かが激しく打つかる音がする。
俺と黒川さんが慌てて外へ出ると、そこには――。
「痛ってぇ!!」
両手で額を押さえたイケメン――元い黒川さんの彼氏である天童秋也が蹲っていた。
◇
めんどくさい人の登場です。
いつもお読みいただきありがとうございます!
読者様の応援を糧に生息しております。
引き続き、どうぞ宜しくお願いします。
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