第12話

[黒川礼奈視点]


 彼氏じゃない男の人を部屋に入れるって浮気になるのかな?


 一瞬、そんなことを思ってしまう自分に苦笑する。


 彼氏か……。


 天童君のこと、どうしよう?


『俺はお試しでもいいぜ、礼奈と付き合えるなら。その期間中に礼奈を俺のことでいっぱいにしてやるぜ』


 あの自信はどこから湧いて来るの?

 それにきっと、このまま付き合っても――あたしは天童君を好きになることはない。


 でも、天童君と変な別れ方をしたら、瀬奈達との関係もおかしくなる。


 てゆーか、拗れに拗れるはず。

 それはそれで、めんどくさいし。


 本当に「お試し」ってどれくらい付き合えばいいのかな?

 見当もつかないよー。


 はぁ……。


 天童君と付き合ってから、何度吐いたかわからないほどの深いため息を吐いた。


 そのあたしの視線の先には、柏田君に優しく撫でられて、すごーくご満悦な表情の花さん。


 はぅ……和む、けど……。




「いいな……」




 あれ?




「花さんばっかり……ズルいよ……」




 あたし、なに言って?




「ねぇ、柏田君……あのね……あたしも……花さんみたいに甘えてもいい?」




 つい口から出てしまった本音に、自分でも驚いてしまう。

 

 


 そんなあたしの言葉に、柏田君は――。



 

 ただ、困ったように微笑む。




 ああ……この笑顔って、柏田君が接客している時によくする顔だ……なんて思ってしまう。


 なら、少しだけ甘えても問題ないのかも、と思う、ズルいあたしがいて……ゆっくりと柏田君の肩に頭を預けた。


 

 ◇



 見慣れた部屋が淡いオレンジ色に染まる。

 

 もう夕方かぁ……、そろそろ柏田君とバイバイしなきゃかな?って思ったら、急に寂しくなった。


 それだけの気持ちで、



 アタシから――したキスだったのに。



「んっ……ふっ……!」



 甘くて、甘くて。

 まだまだ全然足りなくて……。


 初めてのキスで、こんなになるのって……あたしってヤバいのかなー?


 でも背中に回された――柏田君の腕に安心する。


 ううん。

 その前から、アタシのクラスでの悩みをまるで自分の事のように考えてくれて、解決までしようとしてくれた柏田君の優しさに安心していた。


 でも……やめてよ。


 そーゆーのに弱いんだよ、女子は?


 あと認めたくないけど、あたしね、めちゃくちゃチョロいんだから――。



 こんなの……コロっといっちゃうじゃん……。



 あーあ。



 好きに、なったらいけない人だったのに……。




 ◇


 


 久々の更新になりました。

 読者様にいただいた応援と評価を糧に加筆を頑張っております。

 もしも、急に章などの仕様が変わっていても驚かないでいただけると幸いです。

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