After Story
第18話 初デート
「遅い」
「ご、ごめん……」
付き合い初めてから最初のデート。集合時間の1時間前に集合場所に着いたのだが、彼女である唯川綾乃は、なぜか仁王立ちで怒った様子待っていた。
あれ、おかしいな。集合時間は間違えていないはず。それなのにどうして怒った感じで遅いとか言われるのだろうか。
「彼女より先に着くのは基本でしょ? 私が先に着いちゃったじゃない」
「先にって一体いつから待っていたんだ?」
見た感じ俺よりもっと前からここで待っているように見える。
(も、もしかして楽しみすぎて早く来たとか……)
もし、そんなことを思って、今日を楽しみにしてきてくれたのなら凄く嬉しい。
「す、数分前よ」
「本当か……?」
「ほ、本当よ……」
ここで素直に言ってしまえば俺が楽しみすぎて早く着いたのかと聞いてくると予想したのか唯川は、バレバレな嘘をついた。
「まぁ、いいわ。橘が、パフェを奢ってくれるみたいだし?」
「なんで俺が奢るんだよ」
「私より先に来なかったからよ。さっ、時間は限られてるから早く行きましょ」
ここで唯川と喧嘩みたいなことをしていても楽しい思い出にはならないし、ここはデートを楽しむことに切り替えないとな。
今日、行く場所は、電車で10分程乗ったところにある大型ショッピングモールだ。
改札を通り、来た電車に乗った。夏休み、休日と重なり、今日はいつもより人が多い気がする。
「人が多いわね……」
「そうだな……」
これ以上人が乗ってきたら物凄い密になるんじゃないかと思うぐらい電車には人が乗っていた。
次の駅へ到着すると人がまた増えて俺と唯川は、人に押される。
「唯川、離れるかもしれないから俺に掴まって」
「え、えぇ……そうするわ」
腕に掴まれと言わなかったのが悪いが、唯川は、俺の胸に寄りかかり、服を掴んできた。
(ち……近っ!)
近いがこんなに近い距離で唯川のことが見れるのは中々ないことだ。
まつげ長いし、髪、綺麗だな……。あれ、前見た時より髪が短くなってる。もしかして、切ったのかな?
友人から聞いたことがある。女子は、些細な変化を気付いてもらえると嬉しいということを。
今朝、怒っていたのはもしかして早く着いていなかったことだけが悪いんじゃなくて、気付いてくれなかったことも含まれているのだろうか。
「ゆ、唯川……」
「何?」
「髪切ったよな? 凄い可愛いよ」
「…………」
(えっ、これ、ミスった!?)
嘘偽りないことを言ったつもりなんだが、無言で返されてしまった。
もしかして俺が勝手に髪を切ったと思い込んで実は髪なんて切っていなかったのか!?
言ったことを後悔していると唯川の小さな声が聞こえた。
「あ、ありがとう……気付いてくれて」
顔は見えないが、お礼を言った彼女の耳は真っ赤だった。
(よ、良かった……間違ってなくて)
電車から降り、改札を出るとショッピングモールにはすぐに着いた。
「さて、まずは腹ごしらえよ」
「来てからすぐ食べるの? まだお昼じゃないけど……」
スマホで時計を確認したところまだ10時だ。朝食を食べていないのならわかるが、まだ早い気がする。
「私に食べる時間なんて決まってないわ。食べたいときに食べるの。ダメかしら?」
「いや、相変わらず食いし────」
「何?」
「いえ、何でもないです……」
目が怖いし、凄い圧でこちらを見られたので俺は言葉を止めた。
俺はお腹が空いていないのでどこで食べるかは唯川に任せることにした。
フロアマップを見ること数分。決まったのかあるカフェへと移動し、中へ入った。
「頼むの決まったわ。橘は、決まった?」
「俺は飲み物だけでいいかな……」
少し何か頼もうと考えたが、唯川が今から頼みすぎて食べれないことを想定してやめた。
「なら、店員さん呼ぶわね。すみません、このマンゴーパンケーキとチョコケーキ、後────」
予想していた通り、彼女は、5つほど頼んでいた。どれも甘そうなスイーツで胃がもたれそうだ。
注文していたものが届くまで待つことになるが、目の前に座る唯川は、俺のことをなぜか無言で見つめてきた。
「あの、唯川……な、何か顔についてる?」
「別に。橘って意外とファッションセンスあるなと思っただけよ……以前、彼女いたのかしら?」
どうやら俺ではなく、俺の着ている服を見ていたらしく彼女は俺にそう言う。
「いや、いないよ。付き合うの唯川が初めてだけど……」
「へ、へぇ~そうなのね……」
彼女の表情がふにゃと緩み、それを必死に隠そうとするのがまた可愛い。
今日のデートのためにどれだけ服を悩んだことか。唯川にダサっと言われないよう友達にアドバイスをもらいなんとかなった。ダサいとか言われなくて良かった。
「食べた後、服を見に行ってもいいかしら? た、橘の好みとか知りたいし……」
「い、いいけど……」
俺の好みって何!? 言ったらその服を着てくれるのだろうか。
「服って言ったら唯川が今着てる服、可愛いな。唯川らしくて似合ってる」
「そ、そうかしら……」
「うん、可愛い」
「なっ……う、嬉しいんだけど……さ、さっきから私を照れさせて何が目的なのよ……?」
彼女は、俺から何度も可愛いと言われて茹でたこ状態になっていた。
目的なんてないんだけどなぁ……。
「可愛いから可愛いって言ってるだけだよ」
「また可愛いって! 可愛い禁止!」
「えぇ……」
唯川と話していると注文していたものが届き、話すのを一旦やめた。
「頼みすぎじゃないか……?」
テーブルに乗せるのもギリギリなぐらいで本当に食べられるのかと心配だ。
「大丈夫よ。あっ、少しぐらいなら橘にあげてもいいわよ」
「少しなんだ……」
「ほら、あーん。特別にこの苺パフェを最初に食べていいわよ」
「俺が最初にいいのか?」
少しぐらいいいというのはてっきり余り物かと思ったが、最初に食べていいとは。
「私がいいって言っているのだからいいの」
彼女は、そう言って苺パフェを一口スプーンですくい、俺の口元へもっていく。
「じゃあ、いただきます……」
口を開けて食べさせてもらうと口の中に甘い香りが広がった。
「ん……美味しい」
「ほんとっ? じゃあ、私も……」
(えっ!?)
唯川は、俺が使ったスプーンをそのまま使うので驚いた。
(こ、これって間接キスでは?)
「美味しいわね」
「そ、そうだな……」
にっこりと微笑みかけてきた彼女の笑顔に俺は、顔が赤くなっていくのを感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます