第17話 あれが始まりでそして意味がある出来事の1つとなる
「友達になってほしい」
そう彼女は言った。あれ? 俺は、てっきり若宮さんとこうしてどこか行ったり、夏休みはプールに行ったりして友達だと思っていたんだけど。
「もちろん、俺も若宮さんと仲良くしたい」
若宮さんのことはまだ知らないことがたくさんあるけれどこれから知っていけばいい。
「じゃあ、また明日学校で」
「……大丈夫?」
俺は若宮さんが今にも泣き出しそうな表情をしていることに気付いた。
「だ、大丈夫……またね」
「……うん、また明日学校で」
本人は大丈夫と言っていたが、表情がなんだか悲しそうに見えた。
***
わかってたよ。2人がお互い好きって。私は遅かった。もっと早くに橘くんを好きになって告白をしたら良かった。
『楠美ちゃん、彩乃が……。お節介かもしれないけど気持ちを伝えるなら今だと思う』
友達から送られてきたメッセージを見て、私はすぐに行動を起こした。告白なんて先でも大丈夫だと思っていた私がバカなのかもしれない。
けど、焦っても告白の言葉は私の口から出てこなかった。
(彩乃ちゃんの友達として私は恋のライバルになるんじゃなくて応援しなければならないんだ)
この恋は諦めよう。それが多分、正解だ。
***
唯川とのデート当日。俺は緊張しすぎて何度も考えたデートプランをメモ帳で見ていた。
だ、大丈夫だ。デートプランに沿って行動するつもりだが、予期せぬハプニングがあった場合にも対応できるよう心に余裕を持たなければ……。
駅前で待っていると唯川が走ってやってきた。
「もう、どこにいるのよ! 東の改札にいないからこっち来たけどこれじゃあ、私が遅刻したみたいじゃない!」
デートが始まってもいないのにまさかのここで俺の失敗。そうだ、駅前と言ったが、この駅は改札口が2つある。
「ご、ごめん。これは俺の集合場所の指定ミスだ」
「はぁ~、もういいわ。デートプラン楽しみにしてるから」
「あ、あぁ……」
なんか昨日よりハードル上がってね? そんな気がするのはおそらく俺が彼女を怒らせたのが原因だろうけど。
「で、最初はどこに行くの?」
「最初は予約したカフェに行く」
「いいわね、カフェ。もちろん、おしゃれなカフェなんでしょうね?」
「そ、そりゃもちろん」
どんだけ期待されてるんだよ。期待するなとは言わないけど、ハードルを上げないでくれ。
予約したカフェに行くと人気店なため人がたくさんいた。
「人気店かしら?」
「そうだね、この前テレビで特集されていたから人が多いんじゃないかな」
まぁ、予約しているので人が多くても関係ないのだが……。
予約していたため並ぶことなくすぐに座ることができた。
「美味しいそうなものばかりで迷っちゃうわね」
「そうだな」
メニュー表を見て、それぞれ注文していったのだが、唯川の注文量が普通じゃなかった。俺はケーキセットというケーキとドリンクの組み合わせなのだが、唯川はそれプラスパフェを頼んでいる。
もしかして朝食を抜いてきてお腹が空いているのだろうか。
「お待たせしました」
「わぁ~美味しそうじゃない」
キラキラした目で唯川は、届いたケーキセットとパフェを見る。
(幸せそだな……連れてきて良かった)
目の前に座る彼女を見るとこちらまで幸せになる。ずっと見てられ────
「何見てるのよ」
「えっ、あっ……可愛いなと思って見てしまいました」
素直に言った方が正解な気がして俺は思ったことをそのまま言った。
「そ、そう……可愛すぎて見とれちゃったのね」
彼女の反応がいつもより可愛らしく見えて俺まで照れてしまう。
「まっ、まぁ、そうだな……見とれてしまった」
「……ねぇ、橘。最後にここ行きたい」
唯川はスマホの画面を俺に見えるようにこちらへ向けた。
「海?」
「うん……ダメかしら?」
デートプランには海という予定はないが唯川が行きたいというのならばここは行くしか選択肢はないだろう。
「いや、いいよ。この後、海に向かおうか。早く行かないと日が暮れるかな」
「そうね。ありがとう、橘と海に行きたかったの」
「そう言うことは海に行ってから言うものじゃ」
「うるさいわね。早く食べて行くわよ」
唯川はそう言ってケーキをパクっと1口食べた。
***
電車で2時間。電車から降りるとすぐに海が見えた。唯川は、子供のようにテンションが上がっており、海の方へ走っていった。
「見て、橘! 綺麗よ」
後ろを振り返る唯川とそして綺麗な海。俺は海より唯川の方が目に写った。
(可愛い……)
デートがまるで夢のようだ。てか、夢なんじゃないか、これ……。
「綺麗だな。プールは行ったから次は海に遊びに来るのもいいな」
今日は水着を持っていないため中に入ることはできない。けど、見るだけでも十分楽しめる。
「そうね、次は水着を持ってくるのもいいわね」
彼女はそう言ってスマホで海を撮っていた。
「ねぇ、橘」
真剣な表情で唯川は俺のことを真っ直ぐと見つめてきた。唯川から向けられた目を俺は雛すことができなかった。
「私、橘のことが好き。橘は、私のことどう思ってる?」
彼女からの告白に俺は驚くあまり後半何を彼女が言っていたか聞き取れなかった。
「……うん、変わってないよ。俺は変わらず唯川のことが好きだ」
振られたからって恋が終わるわけではない。あれが始まりでそしてあれは意味がある出来事の1つとなる。
「知ってる。橘が私のこと好きなことぐらい」
彼女は小さく俺に向かって笑った。忘れられない笑顔で。
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