第14話 お友達じゃありません、彼氏です

 流れるプールから出た後、一度、日比谷さんのところに戻ることになり、行くとそこには日比谷さんと空がいた。


「あっ、帰ってきた。どうだったよ、唯川さんとは」


 空は、俺の肩に手を置き、何か面白い話が聞けると思ったのかそう尋ねてきた。


「流れるプールで喋って楽しかったよ」


「スライダーとか行ってないのかよ。流れてるだけって……。あっ、次、俺がここにいるから3人で行ってきたら?」


 空はまだここに来てから動いていない日比谷さんに向けて言う。


「和泉くん、ありがとう。綾乃、橘くん、スライダーに行かない? 3人乗りがあるらしいから」


「いいわね。橘ともちょうど次はスライダーに行こうと話していたところだから行きましょ」


 そう言って日比谷さんと唯川はスライダーに行く気満々だった。


 日比谷さんがいるなら俺はいらない気もするな。それなら────


「俺は、空とここで休んでるよ」


 流れるプールで少し疲れたし、休もう。女子だけでスライダーに行きたいだろうし。


「舞桜が3人でって言ったから3人で行くの。1回終わったら休んでいいから」


 そう言って俺は唯川に腕を捕まれ、スライダーに連れていかれるのだった。





***





「そうだ。紬さんと楠美ちゃんは、どこで遊んでるの?」


 着替えてからまだ一度も会っていない2人のことが気になり、唯川は、日比谷さんに尋ねる。


「2人もスライダーじゃないかな。会えたら合流しましょ」


「そうね。ねぇ、たち────って何してんのよ」


 唯川は、俺が待っている間、知らない20代の女性に話しかけられてるのに気付いた。


「うわぁ、危ないって!」


 唯川に腕を思いっきり引っ張りれ、危うく俺は、こけそうになった。


「えっと、お友達?」


 声をかけてきた1人が唯川にそう尋ねると彼女は俺の腕に抱きついてきた。


「お友達じゃありません、彼氏です」


「そ、そうなのね……ごめんなさい、声かけて」


 そう言って話しかけてきた女性達は、去っていく。


 俺を助けるために付いた嘘だとすぐにわかったが、驚いた……。


「あ、ありがと、唯川。助かった」


 あまり女子との会話が得意じゃない俺にとって唯川がこうして助けに来てくれるのは非常に助かった。


「あなた優しそうだから悪い女にすぐついていきそうね。気を付けなさいよ」


 唯川は、腕を組み、俺に注意してくる。


 悪い女ってさっきの人達、そんな悪い人には見えなかったけど……。


「わぁ~、やっぱり2人は、付き合ってるんだね」


 日比谷さんは、両手を合わせてにこにこしながらそう言った。すると、唯川がすぐに否定する。


「ちょっと舞桜。さっきのは橘を助けるためであって付き合ってるわけじゃないから」


「わ~凄い顔真っ赤だよ。ねっ、橘くん」


「えっ?」


「ちょっと、舞桜。橘、見なくていいから!」


 手で目を塞がれ、前が見えなくなる。隠すより後ろ向いた方がいいのでは……。


 しばらくして視界が明るくなった。唯川は、怒っているのか俺と日比谷さんの前に立って並んでいた。


「ねぇ、橘くん。綾乃のことどう思ってる?」


 ツンツンと日比谷さんに腕をつつかれ、何を聞かれると思ったが、唯川のことが好きかと聞かれた。


「えっ?」


「最近、綾乃がよく橘くんのことよく話してくれるの……。綾乃が誰かのことを話すなんて今までなかったから」

 

 唯川が俺のことを……。何を話しているかはわからないが、嬉しくなった。


「唯川と俺は友達だよ。俺は唯川のこと好きだけど、今は彼女と話せるだけで俺は十分かな」


 付き合いたいとは思うけど今はこうして友達として話せるだけでいい。


 唯川のことをもっと知りたいとここ最近は思うから。


「……そうなんだね。綾乃のことよろしくお願いします」


「なんか、お母さんみたい」


「ふふっ、友達からよく言われます」


 自慢ではないが、彼女は手を口に当てて微笑んだ。


 日比谷さんと話終えると唯川が後ろを振り返った。


「ちょっと2人とも、次らしいわよ」


 唯川にそう言われて俺と日比谷さんはお互い顔を見合わせて笑った。


 それを見た唯川は、何笑ってんのよと呟き1人だけ話に入れないことに寂しさを感じたのか頬を膨らませた。




***




「お腹空いたわね」

  

「だな」


 スライダーを楽しんだ後、俺は唯川と売店へ向かっていた。日比谷さんは、まだお腹が空いていないらしく後にするそう。


 券売機で券を買おうとすると唯川が俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。


「ど、どうしよう橘。これとこれとこれを頼みたいのだけれどテーブルまで持てるかしら」


(いや、こっちがどうしよう状態なんですが……)


 腕に柔らかい何かが当たり、俺は券売機から動けなくなる。


「お、俺が持つの手伝うよ」


「ほんと? なら、問題は解決したわ」


 唯川の表情がパッと明るくなり、食券をどんだけ買うんだよと突っ込みたくなるほど買う。


 食券を食べ物と交換した後は、空いているテーブルに唯川と向い合わせで座った。


「橘、少なくない? 男子ならもっと食べるべきよ」


「いや、唯川が多いんだって……」


「ふふっ、何を言ってるのかしら? 食べすぎで太ってるとか言いたいわけ?」


「いやいや、そんなこと一言も言ってないから」


「そう? あっ、これ美味しいわ」


 食べ物を幸せそうに食べる唯川は、あのクールな彼女からは想像できないものだった。

 







    

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