第12話 気付けば君を好きになっていた
去年の文化祭。俺達のクラスは体育館にある舞台で演劇をすることになった。
「次、4組だよ!」
衣装を着て後は自分達のクラスが始まるのを待つだけ。
舞台裏は忙しそうで自分達のクラスと次のクラスの1組の人達でいっぱいだった。
(少し早いが、舞台袖に……)
そう思って移動しようとすると1組の女子が段ボールを持って段差に引っ掛かりこけそうになった。
「きゃっ!」
「っ! 大丈夫か?」
咄嗟にその女子を助けたものの派手にこけてしまったため足にかすり傷があった。
「大丈夫です……。助けてくださりありがとうございます!」
「大丈夫なら良かったよ。けど、ちょっと血出てるから絆創膏渡しとくよ」
ポケットに入れていた絆創膏を渡し、その場を立ち去ろうとしたその時、後ろから1組の女子に肩を叩かれた。
「ねぇ、その衣装、後ろ破れてるわよ」
「えっ……?」
そう言われて衣装を見ると確かに言われた通り破れていた。これ、さっき、こけそうになった時に破れたとしか思えないよな……。
本番前というのに衣装が破れるとか……衣装係の人に言ったら怒られるだろうな……。
「そこ座って。本番までもう少ししかないでしょ? 早く」
破れていると教えてくれた彼女にそう言われて俺は近くにあったイスに座った。
すると、彼女は衣装係から裁縫道具を持って来ている服を縫いだした。
(今気付いたけど、唯川さんだ……)
唯川綾乃。成績優秀でスポーツ万能な彼女を俺は見たことがあるが、クラスも違うので話したことはなかった。
「あ、ありがとう……。もう本番だし、間に合わなかったら────」
「間に合わなかったら? 間に合うことだけ考えなさいよ。私は必ずこの時間で直すから」
破れた時点でもうダメだと思う俺とは違って唯川は諦めてなんてなかった。同じクラスでもない俺の衣装なはずなのに……。
俺はこの時、彼女のことをカッコいいと思った。その日からだ。彼女を見かけたら目で追ってしまう。
「はい、できたわ」
「ありがとう、唯川さん」
「どういたしまして。演劇、頑張って」
「うん、お互い……」
気付けば俺は唯川綾乃のことを好きになっていた。付き合いたいと思うほどに。
***
「暑い~」
プールへ行くには電車に15分ほど乗らなければならない。電車の中で紬はそう言って隣に座る空の肩に寄りかかる。
(そっちの方が暑苦しいだろ。空は何とも思っていないみたいだけど……)
「良太も隣、座ったら? 立ったままはしんどいでしょ?」
紬にそう言われて頷いた後、ふと俺は後ろで楽しく話している唯川、若宮さん、日比谷さんのことを見た。
「えっ、若宮さん、あの漫画読んでるの!?」
唯川は、若宮さんが自分の好きな漫画を好きと知り、驚いていた。
「う、うん……唯川さんも?」
若宮さんは唯川の驚き方があまりにも大きかったので驚いていた。
「うん、私、あれ、凄い好きなの。わ~、まさかこんな近くにあの漫画のファンがいるとは……」
(あんな唯川、初めて見た……)
「綾乃、楠美ちゃんが驚いてるよ~」
日比谷さんにそう言われて、唯川はハッとして若宮さんから離れた。
「ご、ごめん……つい同士がいることにテンションが上がって……」
「大丈夫……私もあの漫画好きな人がいて嬉しかった。これからは、綾乃ちゃんって呼んでもいい?」
若宮さんは、ニコッと笑い唯川に問いかける。
「いいよ。私も楠美ちゃんって呼んでもいい?」
「うん……」
唯川と若宮さんが仲良くなり、日比谷さんはふふっと小さく笑い嬉しそうだった。
「あ~、良太があやのんのこと見てる~」
後ろから紬の声が聞こえ、俺はすぐに否定した。
「み、見てねぇーよ」
「いやいや、ガッツリ見てましたよ」
「見てない」
そう言って俺は空いている紬の横に座った。
***
プールに到着し、男女分かれて水着に着替える。
「いや~、良かったな、良太」
「何が?」
ニヤニヤしながら聞いてきたのでおそらく唯川のことだろうなと思いながらも尋ねる。
「いや、好きな人と夏休み会えたんだ……ここはアタックしないとな」
「アタック……」
(俺、1回振られてるし、すぐにまたとはいかないんだけど……)
スマホ以外の荷物を全てロッカーへ入れ、俺と空は更衣室から出た。
「紬にここにいるって伝えたぞ」
「あぁ……俺も唯川に伝えておいた。2人に伝えておけば────」
「えっ、いつの間に唯川さんと連絡先交換したんだ?」
「えっと、1カ月前?」
まだ唯川と連絡先を交換してからあまり経っていたないが、今では1日に1回は唯川からメッセージが来て、やり取りをしている。
「結構前だな。いつの間にそんなに仲良くなったんだよ。まっ、なんか相談あればいつでも聞くからな」
空とは長い付き合いだが、ここで改めていい奴だなと思った。俺も何かあれば空の相談に乗ってやりたい。
「ところでさ、良太がモテてるのは入学してからわかってるんだけどここ最近、若宮さんから好かれてない?」
「えっ、そうか?」
好かれているとは思ってないが、俺と仲良くしたいのかなとは思っている。
まぁ、勘違いだったらただの勘違い野郎になるのでただ話しかけてくれているだけだと思うようにしているが……。
「そうかって……ん~、俺が何か言うのもあれだし言わないでおくよ。良太は、唯川さん一筋だもんな?」
「一筋って……。まぁ、そうだけど」
好きな人がこれから変わるかもしれないが、今は唯川のことが好きなのは振られてもなお変わらない。
「あっ、紬からヘルプって言われたからちょっと言ってくる」
「ヘルプ?」
何がヘルプなのかわからないが、空は俺をおいてどこかへ行ってしまった。
ポツンと1人になり、しばらくするとあれ?と声が聞こえた。
「橘、1人なの?」
「あっ、唯川……。さっきまで空といたんだけど紬のところに行って俺1人だ。他のみんなは?」
唯川も1人らしく日比谷さんや若宮さんはどこにいるのか尋ねた。
「2人ともまだよ。私が1番に着替えたの」
「そ、そうか……」
唯川の水着姿を直視できない俺は、近くにあった時計台を見ながら話した。
(可愛すぎるだろ……)
彼女は上は黒のハイネックで下は上と同じ色のビキニスカートを履いていた。
「あっ、舞桜から連絡が……。売店近くに場所取りできたそうよ。来てって言われたから行きましょ」
「あぁ、わかった」
唯川はそう言って日比谷さんがいる場所を目指して歩く。
「そんな早歩きだとこけるぞ」
「大丈夫よ、子供じゃないんだから」
(こう言って、こける奴を身近で見たことあるんだよな……)
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