第10話 夏休みを一緒に過ごしたい

「ところで、橘は夏休みどう過ごすの?」


 昼食を食べ終えた後、唯川はソファに座り俺に尋ねた。


「夏休みは、勉強とか紬や空と遊ぶぐらいかな」


 いろんな人から話しかけられることは多いが親しい友達は空と紬の2人だ。


 紬が夏休みになると課題一緒にやろうと誘ってくるだろうし、夏休みはそんな感じで過ごすだろう。


「そう……。嫌だったら別に断ってもらっても構わないのだけれど、夏休み、一緒にどこか行かない?」


「えっ……?」


 唯川から言われたことはあまりにも俺が予想していなかったことなので驚いた。


「か、勘違いしないで。デートの誘いとかじゃなくて前に言っていた通り、あなたのことを知るためよ」


「う、うん……」


 いや、デートの誘いじゃないと言われても俺のことを知るために遊びに誘ったとか普通に嬉しいんですけど!


「で、どうなの? 私との時間より大切な用事があるなら別に断ってもらってもいいのよ」


「俺も……唯川と夏休みを過ごしたい。ど、どこ行く?」


 行くことにはなったが、まずはどこに行くかだ。友達と夏休みに行くとしたらプールや海、夏祭りが一番に出てくるが……。


「そうね……せっかくだし夏らしいことがしたいかも」


「夏らしいことか」


 唯川もおそらく同じようなことを考えているはず。すると、俺は1つ思い付いた。


「花火大会はどうだ?」


「花火大会ってあの人多くて暑い中、始まるまでに待つっていうやつかしら?」


 あー、これ、ダメだ。唯川は、人混みが苦手ってことかな?


「あー、やっぱりやめようか」


「なんでよ。いいじゃない、花火大会」


 えっ、いいの? あんなに嫌そうな感じだったのに行くのアリなの?


 俺は、スマホで近くで行われる花火大会を調べた。


「近くでやってるとしたら電車で3駅先のところであるらしいな。そこの花火大会に行くか?」


 スマホから顔を上げてそう尋ねると唯川は、小さく頷いた。


「じゃ、この花火大会の日は予定空けとくな。時間とかはまた後日決めよう」


 唯川と夏休みに会えることになり、内心かなり嬉しく、もし、唯川がここにいなければ1人でニヤニヤしていただろう。


 唯川と花火大会とか楽しみすぎる。まだ先の予定のはずなのに今からワクワクしていた。


「私も空けておくわ。ところで、なんでそんなに遠いのよ」


「えっ、いや、近いのも変だろ」


 唯川はソファに座った俺のことをじっと見てきた。近くに座ったら離れてとか言われそうだからこの距離感で座ったんだけど。


「若宮さんとはいいけど私とは近づきたくないってことかしら?」


「いや、そんなこと思ってないって」


 唯川は、先ほど若宮さんが俺の腕に抱きつき、それを振りほどかなかった時のことを言っていた。


「なら、もう少し近くに座ってよ……さ、寂しいじゃない」


 そう言って顔を赤くする唯川。


(あ~、もう可愛すぎませんかね!?)


「わかったよ、これぐらいで────!!」


 唯川の近くに座ろうとしたその時、唯川に手を引っ張られ、俺は彼女と服が触れ合う距離に座らされた。


(ち、近っ!)


 心臓がバクバクしだし、俺は何とかして彼女にドキドキしていることが伝わらないようにする。


「ゆ、唯川さん……近くないですか?」


 それに俺の腕に抱きついてるしどうしちゃったんだよ、唯川。


「近くないわよ。これは、の距離なんでしょ?」


「い、いや……」


 あれは若宮さんにとって普通の距離で俺にとってこの距離は普通じゃないんですけど。これは、恋人の距離じゃね?


「ねぇ、橘……若宮さんとはどういう関係なの?」


「若宮さんとは同じ委員ってだけだけど。それがどうかしたのか?」


「別に聞いてみただけよ」


「そ、そうか……」






***






「今日はありがとう……」


 帰り、唯川は玄関前で俺にそう言った。


「また教えてほしいならいつでも言ってくれ。ほんとに送らなくていいのか?」


「大丈夫よ」


 唯川はそう言ってふふっと笑った。


「まぁ、何かあれば連絡でもしてくれれば駆けつけるよ」


 俺がそう言うと唯川は顔を赤くして髪の毛の先を触りだした。


「そ、そう……。じゃあ、また学校で」


「あぁ、また……」


 またって言える関係っていいな……。終わりじゃないって気がして。


 部屋に戻り、部屋の掃除でもしようと思ったその時、ソファの上に唯川のものであろう手帳が置いてあった。


「これって……」


 今ならまだ近くにいるはずだと思い、手帳を持って急いで家を出た。


 唯川は電車で通学してるから駅の方向へ歩いているはずだ。


「唯川!」


 マンションから走り、彼女に追い付いたのは改札前だった。


「た、橘……? どうかしたの?」


 唯川は、俺が走ってきたことに驚き、そして心配そうな顔をする。


「こ、これ……忘れ物」


「あっ、手帳……。ありがと」


「良かったぁ~、間に合わないかもって思ってたけど、何とか……」


「明日、渡してくれても良かったのに……。そうだ、数学のテストあなたの方が点数高かったんだから何か頼み事考えておきなさいよね」


「あっ、うん……考えておくよ」


 そう言えばそんな約束してたな。俺が96点で唯川は93点だった。

 

「あっ、電車来る……。バイバイ、橘」


 彼女は改札を通り、後ろを振り向いて俺に手を振ったので俺は手を振り返した。







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