第8話 彼女とは友達

 テスト3日前の昼休み。いつも通り、空と紬で食べようとしていると紬が誘ったらしくこの教室に唯川と日比谷さんが来た。


「お邪魔します」


「舞桜ちゃん、唯川さん、ここ座って~」


 紬は、2人を空いている席に座らせる。


 知らなかったことだが、紬と日比谷さんは、去年から仲がいいらしい。


 俺は、唯川、日比谷さんと今日一緒に食べることは知っていたが、どうやら唯川は知らなかったようで彼女は俺を見てえっ?となっていた。


「あっ、唯川さんは良太と仲良かったよね? 良太、私と席変わろっ」


 紬はそう言って俺と席を交換した。すると、唯川は俺にだけ聞こえる声量で聞いてきた。


「私達、いつから仲良くなったの?」


「さ、さぁ……まぁ、勉強会とかしたし仲はいいと言ってもいいんじゃないか?」


「そ、そうね。あなたとはもう友達かしら……」


 ここ最近、唯川と距離が少し縮まった気がする。


「橘くん、聞いたよ。この前、自習室で会った綾乃と会ったらしいね」


「ちょっと、舞桜。その流れであれ話さないでよね」


 日比谷さんが俺に話しかけると唯川は彼女に言われたくない何かがあるのか忠告する。


「あれって?」


 日比谷さんは首をかしげてわからないアピールをする。


「絶対わかってるでしょ。橘、聞かなくていいからね?」


「お、おう……」


 正直とても気になるが、聞いても教えてはくれないだろう。


 唯川は弁当箱を開け、みんなが楽しく話してる中、黙々と食べ始める。


「唯川の弁当美味しそうだな」


 そう言うと唯川は弁当を俺から離す。


「……あげないわよ」

「大丈夫、ほしいって思ってないから」

「なっ、ちょっとぐらいほしいって思いなさいよ」


(あーなんかめんどくさいのが始まった気がする)


「あー、唯川の卵焼き美味しそうだなー」


 チラチラと横目でそう言うと唯川は、箸で卵焼きを掴んだ。


「はい、どうぞ。橘がどーしても食べたそうだからあげるわ」


「あ、ありがとう……」


 えっと……これはあーんしてもらえる感じなのか?


 ご褒美みたいな展開だけど、ここには空と紬、日比谷さん。それにクラスメイトがいる。それを唯川はわかっているのだろうか。


 け、けど、ここでやっぱり食べないというのはダメな気がする。唯川、プルプルしながら俺が食べるの待ってるし。


「た、食べないの……?」


「た、食べる……」


 空達が見てないことを願って俺は差し出された卵焼きを1口食べた。


(お、美味しい……)


「どうかしら?」


「お、美味しかった。これ、唯川が作ったのか?」


「いいえ、お母さんよ」


「ご、ごめん……」


「何で謝るのよ。橘は自分で作ってるの?」


 彼女は髪を耳にかけ、俺の弁当の中身を見てそう尋ねてきた。


「うん、俺、一人暮らしだし」


「へぇー知らなかったわ。料理ができるのは感心するわ。私は苦手だから」


 意外だ。何でもやりこなしている唯川にも苦手なことってあるんだな。


「そうなんだ。良かったら俺が料理、教えようか?」


「橘が?」


「うん、妹とかに教えたことあるし基本的なものなら教えられると思う」


「妹いたのね……。た、橘が良ければ教えてくれないかしら?」


「うん、もちろんいいよ」


 なんだこれ……凄い可愛い唯川が目の前にいる。いや、唯川が可愛いのはずっとなんだけど、今、目の前にいる唯川はいつもより可愛い。


 そう思い、唯川から目を離すと空と紬、日比谷さんから視線が来ていることに気付いた。


(あっ……)


「何々、2人とも私が知らない間に付き合いだしたの?」


 日比谷さんからそう言われて俺が答えるより先に唯川が口を開いた。


「付き合ってないわよ」


「え~けど、さっき綾乃が橘くんにあ~んしてたじゃない?」


 日比谷さんがそう言うと唯川は顔を赤くした。


「あ、あれは、橘が食べたいって言うから!」


「綾乃、顔真っ赤。可愛い……」


「み、見なくていい……」


 唯川はぷいっと誰もいない方を向き、お弁当を食べる。


「唯川さん、何か思ってた人と違って凄い可愛いね。ねぇ、綾乃ちゃんって呼んでもいい?」


 紬は、唯川に興味を持ったのか彼女に尋ねる。


「いいけど……」


「やった! あっ、私は神楽紬。で、こっちが彼氏の和泉空。良太は知り合いだから紹介はいらないみたいだね。私のことは気軽に紬でいいよ」


「え、えぇ……よろしく、紬さん」


「うん!」


 紬は唯川と仲良くなれたことを喜び、嬉しそうな表情をした。


「紬ちゃん、綾乃のことはあやのんって呼べばいいと思うよ? ねっ、あやのん」


「舞桜はダメ。紬さんはいいわよ」


「え~何で私はダメなの?」


「舞桜はからかってるようにしか聞こえないから」


「え~からかわないよ~」


 日比谷さんはそう言いながらニコニコと笑う。唯川がダメって言う理由は何となくわかった気がする。


「じゃあ、私はあやのんって呼ぶね」


「えぇ……あなたはダメだからね?」


 まだ何も言っていないのに唯川は、俺に絶対に呼ばないでよねと目で言ってきたのだった。








***






 夜、勉強をしていると唯川からメッセージが来ていることに気付いた。一度手を止め通知をタップする。


『料理のことだけどテスト終わりにいいかしら?』


『いいよ。俺の家でやるか? それとも唯川の家か?』


 な、なんかこれじゃあ、唯川を家に誘ってるみたいだな。


 返信を待っているとすぐに返事が返ってきた。

 

『橘の家で』

 

 お、俺の家……唯川がここに……って何ニヤニヤしそうになってるんだよ。料理をするために唯川は来るんだぞ。変なこと考えるな俺。


『わかった。テスト後、そのまま俺の家寄って昼食でも作るか?』


『えぇ、そうしましょ。じゃあ、おやすみなさい』


 そう言って送られてくる俺がよく使うクマのおやすみスタンプが来た。


(唯川もダウンロードしたのかよ……)

  

 俺はクスッと笑い、同じスタンプを押した。











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