第7話 好きな人からの

『ごめん、明日。自習室行けなくなった』


(行く気分じゃなくなったのかな……? 気分次第で行くか決めるって言ってたし)


 私は、ベッドの上に転がり、橘から来たメッセージを見ていた。


「な、なんて送ろう……」


『そう、残念ね。また行ける日があったら教えて』とか? いやいや、それじゃあ、私、橘がいなかったら自習室行けない子って思われる。


 日頃、誰かと連絡を取り合わない私はメッセージの返信に悩む。友人の舞桜ならこうやって悩んだりしないのに。


 と、取り敢えず、次はいつ行くか聞こうかしら。知りたいし……。


『そうなのね。他の日で自習室行く予定はないのかしら? あったら教えてほしいのだけれど』


 よし、送ったわ! 後は返信を……って既読付くのはやっ!


『来週の水曜日は行く』


(へ、へぇ~、水曜日に行くのね)


 私は、また返信に悩む。だが、既読を付けて返信が遅いと相手に悪いので私はすぐに返信をした。


『わかったわ。私もその日は行く』


『うん。ほんとごめんな』


『別にいいわよ。行けたら行くって言ってたし。予定が入ったのならしょうがないわ』


 メッセージを送ると橘からありがとうと可愛いクマが話してるスタンプが送られてきた。


「可愛い……」


 こうして橘とメッセージでやり取りするこの時間が気付けば私は楽しくなってた。メッセージが来るまでのこの時間が1番ワクワクする。


『おやすみ』


 なんとなく橘に言いたくて無意識に送ってしまった。すると、すぐに返事は返ってくる。


『おやすみ、唯川』


 私はそのメッセージを見て小さく笑い、寝ることにした。







***







 放課後、教科書をカバンに入れていると空が俺の席に来た。


「良太、今日も俺、自習室で勉強するけどどうする?」


「今日は行かないよ。また明日な」


「ん、またな」


 空と別れ、教室を出ようとすると2組の教室から出てきた唯川に遭遇した。


「たっ、橘」


「あぁ、唯川。バイバイ」


 俺は急いでいるのでそれだけ言って唯川と別れようとしたが、後ろから引っ張られた。


「なんでそんなに急いでるのよ」


 好きな人に引き止められて嬉しいが、今は急いでいる。


「ま、待ち合わせがあって」


「待ち合わせ?」


「うん、今日は───」

「中々来ないから迎えに来た……」


「わ、若宮さん……」


 俺は掃除があり、先に待ち合わせに行って待っていた若宮さんは、俺が中々来ないので迎えに来てくれた。


「へ、へぇ~、私のことが好きって言って他の女子と……」


 若宮さんのことを見た唯川は腕を組み、笑っているようで笑っていない表情をする。


「ゆ、唯川?」


「これから若宮さんと何するの? あら、言えないことなのかしら?」


「若宮さんと勉強会を」


「そうなのね。なら私も参加していい?」


 そう言って唯川は若宮さんの方を向く。


「俺はいいけど……若宮さんはどう?」


「いいよ……。初めましてですよね? 若宮楠美です」


 若宮さんはそう言って唯川の目の前に手を差し出す。


「若宮さん、この前は自習室でごめんなさいね。唯川綾乃よ」


 唯川は若宮さんの手を優しく握る。この2人は仲良くなれ────あれ、何か2人とも顔が怖いんですけど。


「では、行きましょうか、橘くん」

「どこに行くか知らないけど行くわよ、橘」


 同じタイミングで俺に言ったので唯川と若宮さんは顔を見合わせてお互い微笑んだ。


「そ、そうだな。取り敢えず、若宮さんが言ってたところで勉強会するか」


 







***








「ファミレスで勉強会ね。集中できる気がしないんだけど……」


 若宮さんに案内され、着いた場所はファミレスだった。店内に入り、イスに座る唯川は単語帳を出すものの集中できないと言う。


「なら、帰ったら? 私は、集中できる……」


 若宮さんはそう言って俺の隣に座った。すると、唯川は驚いたような表情をした。


「な、何で隣なのよ」


「向い合わせだと勉強教えてもらいにくいから」


「教える?」


「うん……橘くんに数学を教えてもらうって約束してたから」


 若宮さんがそう言うと唯川の視線が俺に来る。なんか、物凄く怒ってらっしゃる。俺、なんかしたか?


「ふ~ん、そうね、数学は橘に教えてもらった方がいいわね」


 そう言って唯川は単語帳ではなくメニュー表を手に取り、何か頼もうとしていた。


「何も頼まずっていうのは悪いから適当なもの頼むけど2人とも何かある?」


「ドリンクバーでいいかな。お腹は空いてないし。若宮さんはどうする?」


「私も橘くんと一緒で……」


「わかったわ」


 唯川はそう言って通りかかった店員さんを呼んで注文していた。


「ドリンクバー3人分、イチゴパフェ、チョコパフェ。以上で」


(イチゴパフェ、チョコパフェ? まさかそれ、唯川が全部食べるのか?)


 頼んでから数分後。俺と若宮さんは数学をやり、唯川はパフェを食べていた。


「じゃあ、これ解いてみて」


「わかった……」


 若宮さんが解いている間、目の前で食べている唯川のことが気になり、彼女のことを見た。


(すっごい食うな……)


「何? ほしいの?」


 唯川は俺の視線に気付き、パフェを食べるのをやめる。


「いや、凄い食うなと思って……」


「甘いものならいくらでも食べられるわ。はい、どうぞ」


「……ん?」


 パフェをスプーンですくい、それを俺の方へ向けるので俺はもしやと思い始める。


「ん、じゃないわよ。いらないの?」


「えっと、間接キスになるけどいいのか?」


「か、間接キス!? や、やっぱりダメよ、今のなし!」


 唯川はそう言って俺に向けていたのをパクっと口の中に入れた。








         

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