第6話 少し頼みたいことがあるんだけど……
「で、どこがわからないんだ?」
近くにいないと確かに教えにくいので彼女の方へ少し寄って教えることにした。
自習室に先生がいたら喋るなって怒られるが、先生がいないので小声程度なら大丈夫だろう。
「ここの応用問題……」
「あーそこな。俺も苦手だ」
応用って解けるんだけどめんどくさいと思うことがよくあるんだよなぁと思いながらも丁寧に彼女に教えることにした。
「で、こうなるんだが……わかったか?」
「えぇ、あなた教えるの上手ね」
「数学は得意だからな」
「いつも何点ぐらい?」
「98」
「へぇ~、私は数学は苦手でそんな点数は取れないわ。この前だって90だったし」
苦手でもその点数は凄いだろ。さすが、学年1位。苦手な教科でも点が高い。
「90……」
「何? 学年1位に勝って嬉しいのはわかるけど私だって本気を出せばあんたなんかズタボロにしてやるわよ」
「ず、ズタボロって……」
「勝負しましょ。勝った方は負けた人の言うことを聞く。どう?」
勝った方は負けた人に言うことをです……ってことは───
「言っとくけど、付き合うとか、変なことはなしよ」
うっ、考えたことが見抜かれた。もしや、唯川エスパーか!?
「わ、わかった……」
「決まりね」
「ところで───!!??」
誰かから頭に力弱めのチョップをされたので後ろを振り返るとそこには同じクラスの
彼女はクラスでは大人しく委員会の時しか話さない。
「若み───」
「ここ自習室……。イチャイチャするならどっちかの家行ったら? 私、関係ありませんみたいな顔してるけどあなたにも言ってるから」
若宮さんは完全に怒ってらっしゃるので俺と唯川は彼女に謝った。
「「す、すみません……」」
***
「よし、俺は紬迎えにいって一緒に帰るけど良太はどうするよ?」
午後6時。そろそろ帰る時間なので教科書をカバンへ入れていっていると隣から空が聞いてきた。
「うん、一緒に───」
「橘、ちょっといいかしら?」
「えっ?」
唯川から声をかけられ、空はなるほどねと言って俺の肩を叩いた。
「頑張れよ」
「えっ?」
空は自習室を出ていってしまい、俺と唯川は顔を見合わせた。
「さっき教えてくれた問題と似たようなの解いてみたのだけれど答えがなくてね。合ってるか見てくれない?」
「あっ、うん。いいよ」
帰ろうとしていたが、彼女に頼まれたのでまた席に着き、問題が合っているか自分も解く。
「うん、合ってる……。や、やっぱりさ、勝負のことなんだけどやめないか?」
この応用が解ければ今回の数学のテストはほとんど解けないものはない。勝てると思ったが、これは……。
「何? 急に弱気になったの?」
「いや、まぁ、うん……」
「やるだけやりましょうよ。勝ち負けなしに頑張ったらご褒美あげるから」
「ご褒美?」
「えぇ、内容は後のお楽しみだから試験頑張りましょうね」
「あぁ、お互い頑張ろうな」
好きな唯川から応援メッセージをもらったような気分になり、今回のテストはいつもより頑張ろうとやる気が満ちた。
「合ってるか確認してくれてありがと。橘は、明日も自習室に来るの?」
「そうだな……唯川が来たら行くかも」
冷たい言葉でじゃあ、行かないわと思われることを予測してそう言うと彼女は少し考えて口を開いた。
「なっ、なら、行こうかしら……」
1人だとあれだからと小声で何か言っていたが、俺は最後まで聞き取れなかった。
「って言っても気分次第だし、行けそうだったら唯川に連絡するよ」
「わ、わかった。じゃあ、また明日……」
「うん、また明日」
唯川は、日比谷と帰るらしく先に自習室を出ていった。
(さて、俺も───!?)
後ろから視線を感じ振り返るとそこには先ほど注意された若宮がいた。
「わ、若宮!?」
「ごめんなさい……さっきは言い方がきつかったかもしれない……」
小さい声だが、俺にはハッキリと聞こえた。
「いやいや、若宮さんが謝ることは何もないよ。俺ら多分、自習室で喋る声量じゃなかったし」
「そう……。ねぇ、今から帰るの?」
俺が持っているカバンを見て彼女はそう俺に問いかけた。
「うん、帰るつもりだけど……」
「1人?」
「うん」
「なら、私と帰らない?」
「えっ、別にいいけど……」
まさか若宮さんに一緒に帰ろうと言われるとは思ってもなかったので少し驚いた。
若宮さんとは同じ委員会でたまに話すけど、それ以外ではあまり話さない人だ。
「ありがとう……。橘くんは、駅方面?」
「うん、若宮さんも?」
「うん……なら、駅まで一緒に。帰る用意してないから少し待ってて」
「わかった。先に出てるから」
俺はそう言って先に自習室を出て廊下で彼女のことを待つことにした。
暫くして自習室のドアが開き、若宮さんが出てきた。
「お待たせ……帰ろっか」
若宮さんと帰るものの、彼女は何も話さず、ただ前を向いて歩く。
(唯川より会話が弾まん……これは俺のコミュニケーション能力の無さが原因だな。困った時は天気の話だ。よし!)
「若宮さん、今日は夕焼けが綺麗だね」
そう言うと彼女は小さく首をかしげてこちらを見た。
「……告白?」
「えーっと、どこからそう思った?」
「綺麗=告白じゃないの?」
「んん? どっからの知識か知らないけど違うと思うよ」
「そう、なんだ……」
若宮さんは、自分が変な知識を言ってしまったことに気付き、ほんのり顔を赤くした。
「そう言えば、橘くんは、唯川さんのことが好きなの?」
「えっ!?」
「違うの?」
「ちがくないけど何で知ってるの?」
俺が若宮さんに唯川のことが好きとは言ったことがないはず。なのに───
「わかりやすいから? 自習室でイチャイチャしてたし……」
「イチャイチャしてたつもりはないんだけど」
ただわからないところを唯川に教えていただけだ。
「そう……橘くんは唯川さんのことが好きなんだね」
「うん……けど、この前、振られちゃってさ」
「そう、なんだ……。なら、チャンスあるね」
「チャンス?」
何のチャンスだろうか。俺はわからず聞き返すが、彼女は、答えてはくれなかった。
「ごめん、さっきのは聞かなかったことにして。橘くん、少し頼みたいことがあるんだけど……」
「頼み?」
「うん。私、数学苦手で……だから橘くん、数学を教えてくれませんか?」
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