第22話 過去の記憶

 どこか懐かしさを感じる光景に目を疑う。周りにはベンチとブランコしかない殺風景な場所。しかし、この殺風景な場所に桜の木が一本聳え立っている。


 私はそんな場所のベンチに座っている。隣にはサイドテールをなびかせた少女が座っていた。


 何故私はここにいるのだろうか。わからない、わからないからこそ恐怖を感じる。先程まで訓練場にいたはずなのに。

 

 私は疑問を感じる。また、それと同時に謎の幸福感が溢れ出る。永遠にこの場所から出たくない。そんな気持ちが頭の中の思考に入ってくる。


 「ねぇ、私たち生き残れるかな...?この戦争に」


 「きっと生き残れるよ」


 私の意思に関係なく言葉が発せられる。発せられた声はほんの少し私と違い明るい。きっとこれは私の中の記憶の一部なのだろう。

 

 少女は私の言葉を聞いて少し表情は明るくなる。しかし、表情とは裏腹に体全身が震えており雰囲気がとてもじゃないが明るくない。そう暗い、まるで絶望を感じて戦慄しているかのようだった。

 

 「......本当に?本当に私たちは生き残れるの?」

 

 少女は疑い深く再び私に問を投げかける。先程までの表情とは違い、真剣な表情になってジーッと私のことを見つめてくる。思わず言葉が詰まってしまう。

 実際私自身生き残れるとは微塵も思っていない。だけど、せめて隣の少女は生き残ってほしい。何故なら私がこうして今生きているのはこの少女おかげ、この少女は私の命の恩人とも言える存在なのだから。そんな存在が私よりも早く消えてしまってはいけない。そしたら私はおかしくなってしまう。

 


 だからこそ、私は足掻いて戦わないといけない。絶望しようが何かを失おうが少女の未来のために。


 「......生き残れるよ。私が保障するから安心して...?」


 私がそう言うと少女は安心したのか先程まで身に纏っていた暗い雰囲気が少し明るくなっていた。そんな少女を見て少し罪悪感がこみ上げてくる。騙しているかのようで。


 「......ちゃん涙出てるよ...だ、大丈夫?」


 「う、うそ......な、なんで」


 心配そうに見つめてくる少女の顔を見て初めて私が涙を流しているのを知った。悲しい?それとも辛い?わからない、何故涙を流しているのか。


 「わかってるよ。私を安心させるために言ったんでしょ?ふふっ...可愛い」


 少女は満面の笑みを浮かべながら私の頭を撫でている。急に撫でられたこともあり私は一瞬何が起こっているのかわからなかった。しかし、何が起こっているのかがわかると私の涙は先程よりもより一層流れ出る。

 

 もう少ししたら離れ離れになるのにこんなことされたら悲しくなるだけじゃん。本当は離れたくないのに。

 

 「よしよし......泣かないで?辛いのは私もなんだから」


 「離れ離れになりたくないよ......今日で最後かもしれないのに...!」


 私はしがみつくかのように少女の胸元に顔を埋める。離れたくない離したくない、そんな気持ちで胸が埋まる。もう会えないかもしれないと思うと辛く、そして悲しくなる。

 

 自分の中の何かが濁っていく感じがして恐怖も感じ始める。希望から絶望に塗り替えられ堕落していく。唯一の私の希望という光が見えなくなって消えていくようなそんな何かが見えてくる。


 「じゃあさ、全てが終わったらまたここで会おうよ。それまで必死に生き延びるから」


 少女は今にでも泣きそうな表情をしている。悲しい、辛い。そんな感情を私と同じく少女も胸に抱いていたのだろう。だからこそあの問を私に投げかけてきたんだと思う。

 

 そんなことを考えていると少女は立ち上がり私の上に跨る。


 「だからね......また会った時には恋人になってほしいな乃絵ちゃん...!」


 少女はそう言いながら私の唇を奪ったのだった。



 

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