第21話 親友
時間が経ち、私は一人で訓練場に向かっている。あまり行きたいとは思っていない。昨日のことがあるからだ。
あまり昨日の出来事の一部分を覚えていないというより思い出せない。動く的になってと言われてから逃げて、そして見つかって。見つかってからの記憶がない。気づくとツキさんがボロボロの状態で倒れていた。肌が露出していてとてもエチチだった。
「眼福っていうのかな......?」
ツキさんの露出した肌。思い出すだけでよだれが出そうになる。ボロボロになった制服、歪みきった表情全てが脳裏に焼き付けられている。痛みに顔を歪ませて泣きじゃくっていたあの表情、威勢がなくなった言動、そして声色。一つ一つが本当に愛おしい。
自分の中にある何かが刺激されているようで複雑に私に絡み合っているようで感情そのものがおかしくなっている
「えへへ......もっと虐めたい♡」
私は笑みを浮かべながらそう独り言を発する。周りに人がいたらおかしな目で見られていたかもしれない。だけど、私には関係ない。この感情の昂ぶりは誰にも抑えられない。
私は早足になりながら前へと進む。前へと進むたび懐かしさ、それと同時に何かの存在を感じる。偉大な存在であり神秘に満ち溢れている。まるで私たちに希望を与えているかのよう。
だけど違和感を感じる。希望ではない別の何か。神々しさ、影、真逆なものがそれぞれを抑制し合っている。
訓練場に着いたので中に入るが誰もいない。見渡した限りいるのは私ただ一人だけ。なのになぜだろうか。誰かの気配を感じる。
「だ、だれかいるんですか...?」
私はそう尋ねるが応答はない。しかし、気配は一切消えていない。それどころか先程よりも気配が強くなっている。
私は恐怖を感じているせいなのか足腰が震え始める。怖い、そんなことを思い始める。冷や汗が出始め体を冷たくする。
「に、逃げなきゃ......」
私は危険察知しこの場から逃げ出そうと後ろに振り返ろうとする。しかし、体が言うことをきかなかった。
「う、動かない...!?お願いだから動いて......!」
私は焦る。ただひたすらに今起こっている異変に焦る。だが、焦ったところで何かが変わるわけではない。
体を自分の意志で動かせないこの状況において焦りこそが自分を悪い方向へと導く。いっそのこと潔く受け入れたほうが楽である。
「......ちゃん、大好きだよ」
そんなことを思った矢先、突如として声が聞こえてくる。聞いたことのない声。だけど、何故だか聞き覚えのある声。
この世界で誰よりも好きで、信頼し合った親友......親友?私に親友なんていなかったはず...?それどころか友達だっていたことない。わからない、思い出せない。思い出したくても思い出せない。本当に大切で誰よりも好きで...楽しくて......
涙が零れ落ちる。忘れてはいけない、思い出さないといけないはずなのに。なのに...思い出せない。
「全ての障害を超えた先に私はいるよ。だからね、......ちゃん」
「待ってるね」
声の主は私にそう告げて去っていった。
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