第19話 依存

外に出ると、先程まではなかった夜風が靡いていて少し肌寒い。だけどこの寒さが心地良く感じる。自分の中にある熱を帯びた感情を冷やしているかのようで。

 

 空を眺める。空には無数の星々が輝いている。それはこの暗い世界で唯一光っているものなのだろうと考えてしまう。でもこの星々は過去のものが映し出されている。それはこの国にも言えることだ。この国は見えないなにかに囚われているようだ。銃でも兵器でもない何かに。だけどそれについて誰も考えようとしない。その存在、そしてこの国とこの学校の意義について。

 

 元々この学校は普通の学校だったが、過去の隣国との戦争で人員が不足したためこの学校の生徒を兵として育成したのが始まり。その生徒たちが兵として動員されるとその流れは全国へと広まり主に女子が戦うようになっていった。

 ここまでが学校で習った歴史だ。この隣国との戦争については詳しく記載されていない。


 「モエちゃん!可愛いね」


 考え込んでいると後ろからシノアさんに抱きつかれる。抱きついてくるのは構わないがありもしない胸を揉むのはやめてほしい。変な気持ちになっちゃうから。


 「胸揉まないでください...!へ、変態......」


 「そんなこと言うモエちゃんは私の唇を無理矢理奪ったよ?」


 シノアさんはいじわるっぽく私に事実を突きつけてくる。心にグサッとくるが、それと同時にそんなことをしてしまった恥ずかしさで顔が熱くなる。

 そんな私を見て察したシノアさんは胸を揉むのをやめて頭を撫でてくる。


 「羞恥心で顔を赤くしてるモエちゃんかわいいよ♡」


 「や、やめてください......あと私は可愛くありません」


 私はシノアさんの方に向きお腹に顔をうずめる。シノアさんは驚いているようだが知らない。今この時間はただただシノアさんを感じていたい。


 「もう少しいいですか...?こうしてると落ち着くので......」


 「いいよ、モエちゃん」


 シノアさんは優しく頭を撫でてくれる。それがとても心地よくてずっとこの心地よさを感じていたくなってしまう。シノアさんの甘い匂いも体の感触も、全てがとても心地よくて依存してしまいそうに......いや、もう既にシノアさんという子に依存しているのかもしれない。蜜のようにドロドロで甘いシノアさんは私をダメにする。だけどそれと同じくらいシノアさんを私に依存させて嫌わせる。だって別れのときが一番辛いのだから。


 「部屋に戻りませんか?」


 「う、うん。じゃあ戻ろっか」


 夜風が靡くこの夜はとても美しかった。






 風呂を済ませシノアさんがいる部屋に戻る。しかし、シノアさんの姿が一切見当たらない。


 「シノアさんどこですか......?」


 シノアさんがいないことに恐怖を感じ始める。足腰が震え立つのもままならなくなりしゃがみこんでしまう。

 怖い、恐い。どこに行ったのシノアさん。怖いよ苦しいよ。息が詰まって生きてる心地がしないんです......辛いんです。


 「シノアさんに骨の髄という髄まで依存しちゃってるんです......シノアさんがいなきゃ私 

 は何もできないひ弱な存在なんです。辛くて怖くて寒気がして。変な思考だってしちゃう 

 ような、そんなダメ人間なんです......だから...」


 体温が下がっていくのを感じ、思考までもが凍結して停止してしまいそうになる。暗い世界がさらにより一層暗くなっているように見えてくる。光が一切ない世界。そんな世界に閉じ込められている私。世界と共に暗闇へと堕落していっているようなそんな感じがしてくる。

 私は拳銃に弾薬を装填し、自分のこめかみにつき当てる。拳銃を持っている手が震えカチャカチャと音をたてる。私は瞼を閉じ、引き金に指をかける。私は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 すると後ろから声が聞こえてくる。


 「モエちゃん!?落ち着いて」


 シノアさんに拳銃を持っている手首を摑まれ拳銃を取り上げられた。

 

 


 


 

 

 

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