第16話 甘さ

 教室はシーンっと静まりかえっている。誰一人意見を出さない。

 

 「意見が出ないんだったら私が決めるね」


 ツキさんはそう言う。憎悪のオーラが滲み出ており教室内の空気がより一層凍りつく。


 「今から全員訓練場に移動ね?」


 ツキさんがそう言うと次から次へとクラスメートが教室から出ていく。その様子はどこかこの教室から逃げていくように見えた。

 

 残された私はシノアさんに話しかける。


 「シノアさんい、行こ...?」


 「うん、じゃあ行こっか」


 シノアさんそう言うと立ち上がり私の腕に抱きついてくる。腕にシノアさんのほんの少し柔らかい胸の感触が伝わる。

 

 や、柔らかい。私と同じ貧乳だと思ってたけど案外あるんだ。なんだか羨ましい。あったらシノアさんにもっと揉まれられるのに。


 「な、何考えてるの私......!?だ、だいたい私とシノアさんはそういう関係じゃ」


 「モエちゃんどうしたの?......もしかしてそういうこと考えちゃった?モエちゃん

  のエッチ♡」


 シノアさんは耳元でからかうかのように囁いてきた。一つ一つの言葉が頭の中で響き渡る。


 めちゃくちゃにとろけるまで甘々で深いキスしたい。シノアさんの中毒になるほど甘い血吸いたい。罵倒されながら痛めつけられたい。気持ちよくされたい。

 次々と感情と欲望が溢れ出る。溢れ出るたびお腹辺りがキュンキュンとし、熱くなる。次第に思考が麻痺して考えられなくなる。


 「モエちゃん大丈夫?」


 「...私、シノアさんのこと考えてるとおかしくなって熱くなってくるんです。だから...私

 と甘々なキスして?」


 私は頬を赤らめながら目を瞑る。私からは一切顔を近寄らせたりはせず、シノアさんからくるのを待つ。

 しかし、いくら待ってもシノアさんからくる気配が全くない。

 

 「シノアさん......案外ヘタレなんですね」


 「べ、別にそういうわけじゃっ......んっ!」


 私はシノアさんの唇に唇を重ねる。シノアさんの唇はあの時と変わらず柔らかくて甘い。

 ずっとこの甘い空間にいたい。しかし、私の想いは虚しく息苦しさが襲ってきた。呼吸のために私は唇を離す。

 

 「......はぁはぁ...モエちゃんい、一回落ち着いて...?」


 シノアさんはそう言いながら私から距離を取っていく。


 「うへへ...私はぁ落ち着いてますよぉ...落ち着いていないのはぁ、シノアさんの方です」


 私は距離をとっていくシノアさんに近寄りながらそう言う。頭から湯気が出るほどに熱く、理性がなくなっていくのを感じる。そのせいか、歩き方が少しおかしくなっている。シノアさんはそんな私を見ながら頬を赤らめて息を荒くしている。


 「......んっ、そんなにモエちゃんは私としたいの?......エッチ...」


 まるで期待しているかのような表情でこちらを見てくる。私はそのままシノアさんの目の前まで近づき、顔を近づける。

 シノアさんの唇まであと数センチのところで頭に激痛が走り、私の意識は途切れた。






 『......うてん...よーい......」


 誰かの声が聞こえてくる。何を言ってるのかわからないがあまり良いことを言ってるような感じではない気がする。だけど、眠いから寝ていたい。


 『...撃て......!』


 「にゃっ...!?」


 榴弾砲の発射音に叩き起こされる。思わず飛び跳ねてしまった。

 

 発射音が辺り一帯に鳴り響いている。榴弾砲からは煙が立ち昇っており、それをじっと見ていると人に声をかけられる。


 「起きました?」


 背後を振り返ると憎悪を身にまとっていたあのツキさんが笑みを浮かべて首を傾げていた。

 こうしていたら普通の人に見えるのに。


 「は、はい...」


 「じゃあ、銃もって」


 笑みを浮かべているのに数秒前にはなかった憎悪の感情が溢れ出ていた。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る