第14話 登校
私は部屋に戻り制服に着替える。シノアさんはまだ起きておらず寝息を立てながら寝ている。
シノアさんは不思議だ。今まで一度も会話などをしたことがないのに私を知っている。名前は知っててもおかしくはないが友達がいないことを断定したのはおかしい。
「......おはよう、モエちゃん♡」
「...っ......!?」
急に後ろから抱きつかれ耳元で囁かれる。急なこともあり私は驚いてしまう。
「シノアさんお、起きてたんですか......?」
「うん、今さっき起きたよ。ところでさ......夜中のこと覚えてたりする?」
シノアさんの声のトーンが変わり急激に悪寒がしてくる。
身体が震えだしている。時々見せるこの冷たさはきっと未来永劫慣れることはないだろう。
「な、なにも覚えてないです......ひゃっ...!」
「ホントに覚えてないのかな?夜中のこと」
シノアさんは制服越しから私の貧相でさわり心地がない胸を触りながら耳元でそう囁く。私は少し変な声が口から零れ出る。
よ、夜中......?確かシノアさんが私の下半身に抱きついて寝ていて、それから...それから......?
何も思い出せない。夜中の出来事。あたかもその部分だけが丁寧に切り抜かれているような、そんな気がする。
「思い出せないです......えっと、何があったのか教えてもらってもいいですか...?」
「......今日の夜になったら教えてあげるね...その身体に......」
シノアさんはそう言うと私から離れて制服に着替え始めた。
最後に何かボソッと言っていた気がするがたぶん気のせいだろう。
私はシノアさんが着替えている間、ただただボーッとすることしかできなかった。
シノアさんが着替え終わったので銃を肩に掛け外に出る。景色は昨日とは違い人が大勢いる。見ているだけで私の心に深く何かが刺さる。
「じゃあ、行こっか。モエちゃん」
「は、はい......」
私はシノアさんの後ろを歩こうとするがシノアさんはそれを許してはくれず、手を繋いでくる。
「な、なぜ...手を繋いでくるんですか......?」
「モエちゃんを感じてたいからだよ」
シノアさんは満面の笑みでそう言う。言っていることは少し、いや大分おかしいが悪い気はしない。
長年誰かと手を繋ぐこと、そして話すことをしてこなかったため人肌を無意識に求めているのかもしれない。だからといって容易く人を信用してはいけない。信用するだけ無駄だ。
「は、早く行きましょう......」
「あっ、ちょっと待ってよ」
私はシノアさんと繋いでいた手を離し校舎の方へと向かった。
下駄箱から上履きを取り出し履き替える。履いていたブーツを下駄箱にしまい、階段へと向かう。あれからシノアさんに見つからないよう人混みに溶け込んだ。
正直気分があまり良くない。やっぱり人混みは苦手。軽く人間不信な私にはあの場は辛い。楽しげに友達と話している人たちのあの表情が、幸せで幸福に満ちているあの笑顔が、絶望に変わり自暴自棄になるあの姿が嫌いだ。見たくなんてない。失いたくない。平和な世界を。
そして大切な人を。
階段を一段ずつ上る。一段、また一段と上るたび不思議と懐かしさを感じてくる。だが、その懐かしさの正体は何なのだろうか。私にはわからない。仮に分かったとしてもきっとそれは今の私ではない。今の私には何も残っていないのだから。
考えているうちに階段をのぼりきり教室の階へと着いていた。私はそのまま教室に向かおうとしたところ後ろから肩を摑まれた。
「...捕まえた。モエちゃん早いよ......」
「ひっ......な、なんで...」
「......私から逃げられるとでも思ってるのかな?モエちゃん」
普通に怖い。シノアさんって好きな人にストーキングとか束縛とかしそうな気がする。考えるだけで寒気というか悪寒が止まらない。
「と、とりあえず...教室に向かいませんか......?」
「うん。じゃあ手繋ご?」
シノアさんはそう言い手を私の手の方へと伸ばしてくる。きっとここで断ったって強引に手を繋がれる。だったら潔く手を繋いだほうが賢明かもしれない。
「こ、これで......いいですか...?」
「もちろんだよ...!モエちゃん」
シノアさんは私に笑顔を向けてくる。私は顔を逸らし笑顔のシノアさんを視界に入れないようにする。
そんな私を見てシノアさんは頭を撫でてくる。
「よしよし...そういう所も可愛いよ♡」
「......っ!...は、早く教室に...」
「ふふっ...わかったよモエちゃん」
シノアさんは私の頭を撫でていた手をおろし、私を引っ張り歩き出した。
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