第10話 感情と鎖
私はシノアさんに抱きつきながら目が覚める。シノアさんの心臓の鼓動を間近で感じる。しばらくシノアさんの鼓動を感じていると既に時刻は朝になっていた。隣にはすやすやと寝息を立てながら寝ているシノアさんがいる。
私はシノアさんとは違い、邪な気持ちなんて一ミリも......抱いていないと思う。代わりに私が抱いているのは溶けたチョコのようにドロドロで甘くて苦い感情。暗くて深い不快な感情。色々な感情に私の心は蝕められている。それに加え、通り過ぎる人たちの憎悪の感情を全て感じる。黒く、ドロドロとしているのに何故か針のように突き刺さる。痛い、そして暗い。
だけど、シノアさんからは別の何かを感じる。黒くて、ドロドロとしたようなものではなくとても甘くてとろけるような何かを。今までに感じたことがないこの感情に抜け出せなくなりそうで怖い、恐いよ。
「......シノアさんもそ、そう思いますよね......?」
私はベッドから降り寝間着を脱ぐ。私はワイシャツに腕を通し、テキパキと着替えをこなす。
私は着替えを終えると壁に立て掛けられた銃を背負い玄関へと向かう。
「い、行って......きます......」
ドアノブを捻り一歩を踏み出した。
昨日と同じく戦車が轟音を立てながら道路を走っていた。私はその光景を眺めた後、右足を前に踏み出し歩き始めた。
私は少し歩いた後、昨日の模擬戦で出会った子は一体誰なんだろう?そんな疑問がふと頭の中によぎった。フードを被っていてよく見えなかったけど、ほんの少し、そうほんの少しだけ顔が見えた。紅い瞳に口元にはマスクを付けていた。それ以外の特徴はフードを被っていたためわからなかった。
だけどこれだけは言える。見覚えなど一切ない。声も顔も体型体格も。だけど何故だか本能が反対している。まるで私の考えていることが間違っている、そんなことを言っているように思えた。そのせいか悲しい気持ちになる。おかしい......会ったことも話したことも一回もないのに。
「あれ......?な、何で...涙が出て......?」
私は近くの広場のベンチに座る。視界は涙のレンズでハッキリと見えない。ただただ気持ちが下がっていく。深く深くそして暗闇へと沈んでいく、そのような感じがした。
外からの声が私の暗闇の中で響く。私を苦しめ不快にさせる声。その声は不快なほどに小さく何を言っているのかわからない。それなのにその声が響く。全員惨めな私を笑っているんだ。
「......訓練場にでも行こうかな」
私はベンチから立ち上がる。この感情を抑えるには銃しかない。銃はすべてを解決してくれる。撃てば反動という幸せが肩に襲ってくる。弾が当たった者は痛みという最大の快楽を得ることができる。
こんなにも両者共に都合が良く最上級なものなど私の知る限りこの世界には無いだろう。もしあるとするのならばそれはきっと、私の感じたことのないものだろう。
私は静かに広場から去った。
シノアさんにとって私とういう存在はどう思われているのだろう。好きと言われてもいかんせん信じることができないし、信じたくもない。信じてしまったらこのドロドロな感情はどうなってしまう?
私は頭を横に振り、疑問から逃れようとする。
私を、私という存在を鎖で縛り付けるように縛り付けているこの感情が無くなってしまったらきっと普通の生活に戻れなくなってしまう。だったら抵抗しようと思うが、抵抗なんてものは私に存在しない、時間の無駄だ。こういうのは銃がすべて解決してくれる。
私は銃を抱きながらそんなことを考えるのだった。
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