第10話 次回!サキュバスで魔王が手下になりました その2

 ブランチを食べたあと、目を付けていた求人先へ、直接行く。


 有効か判らない、冒険者登録カードを首から下げて……。



 こうすれば、色々企業側も察してくれるのである。


 これは『石田英治朗』名義だが、もう一つの名義もある。





『九条蘇芳』



 実の父親は九条家と言う貴族であり、勇者一族の末裔でもある。


 忍者家系の母親が九条家へ嫁入りを最初にしたのだが、色々あったお家騒動で、急遽、実の父親が石田家へ婿入り。


 名前も、その時に大人の事情とやらで変えたのである。


 ちなみに兄、慶次郎は『九条蔦』だったらしい……。



 勇者一族と言えども、英治朗が何故か未だ役所でも名前が残っている『九条蘇芳』名義を使っても、直ぐに勇者にはなれない。





 冒険者ランクは10段階で仕切られている。


 冒険者ランク9から希望すれば勇者になれる。


 もしそこで勇者志望となれば、勇者家と言う血筋であれば、試験無しで勇者になれる、


 そうでない一般人であれば、実績と厳しい実力試験の課程を修める事が必須となる。



 しかし、最近……。



 それが、試験の規制緩和で、質の悪い勇者が増えてしまったらしい……。


 故に、『量産型勇者』と言われる原因となってしまった。



 変更点は、冒険者ランク8から希望すれば勇者見習いになれる。


 抽選ではあるが、それが通れば、現役の勇者とパーティを必ず組み、一定の実務経験を積む必要が出た。


 なので、ある程度の数は絞られるが、それでも本当に実力のある人物は稀有。


 中々、世知辛い勇者事情になってしまったらしい。



 試験内容も、今までは武技と魔術、魔法の技量で見ているが、勇者制度の見直しで大きく変わった。



 武技と銃火器を基軸に見て、魔術や魔法に重きが置かれなくなったのである。



 これは世界的な魔素不足が起因している。


 それに加えて、銃火器の一部使用制限が解除。


 実際、銃火器を使用する冒険者が圧倒的に増えたのである。



 銃火器も魔法効果を乗せた物が多く、誰でも簡単に扱える様になった分、余計に勇者の母数が一気に増えて、同じ様な戦闘レベル、同じ様な知識レベルの勇者だらけになったのも、『量産型勇者』と言われる由縁でもある……。



 尚、英治朗は今の所は冒険者稼業はしないし、『九条蘇芳』名義で勇者にもならない。


 飽くまでも自分は『抜け忍』の『野良下忍』である。





 そう思いながら、求人先へ行くと、臨時休業だった……。



 それもその筈。


 火事で建屋の半分が焼け落ちている。



 設備の老朽化の整備が、ここ最近の情勢で追い付けず、電気設備から発火したらしい。





 英治朗は仕方無く、トボトボ歩きながら、次の職場へ行く。



 その道中、牛丼屋のおっさんの会話を思い出す。






 先代魔王に次ぐ、女傑と言われた魔王マーガレットも、ここまでか?と言う噂が流れている。



 最近そう言えば表立って、テレビに映っていない、新聞にも載っていない気がする。



 今で魔術や魔法が使えていた人間族も、科学技術の虜になり、徐々に使えなくなる位に衰退しているが、魔王も魔法が使えなくなった説が生まれる。


 幾ら魔王でも、魔素が無ければ魔法は使えない……。



 魔王だけに限らず、人々が使う魔術、魔法が前まで世の中を支えていたのに……。



 ここ数年で激しい衰退速度で廃っている。



 これは日本帝国にだけとは限らない。


 世界的にそうして、魔術や魔法の技術衰退が起きている。



 今では『魔法士』と言う名前で、魔術や魔法を扱える時代に取り残された便利屋程度の認識らしい。



 なので英治朗は重宝されるらしいが……。





「ああ、丁度良いね。前まで仕分けしていた子が怪我して入院前したせいで、今ね。倉庫の中が滅茶苦茶なのだよ。力仕事、いけそうな身体だし頼むよ」



 と言う訳で、流通センターに来た。


『魔法士』歓迎とここもあったので。



 早速、英治朗はヘルメットや必要な保護具を貰い、作業開始。


 滅茶苦茶な置き方をされた荷物を見る。



 中には他にも居る『魔法士』が魔術で荷物を浮かせてゆっくり運んでいるが……。



 英治朗は、責任者のオッサンに訊く。


「この倉庫のアーカイブ……。仕分け位置的な図表を見せて下さい。あと散らかっている荷物を一旦10個位、集めて平置きししますね」


 そう言いながら、英治朗は無詠唱かつ、手の動きだけで荷物を足元へ、運ぶ。



 これにはオッサンと『魔法士』も驚く。



 次に英治朗は荷物に振られた、この流通センター独自の管理番号と倉庫の図表、どこに何があるかの図と、今立っている場所から倉庫の内部をぐるっと見る。


「そんじゃ、荷物飛ばすんで、当たっても知りませんよ」


 英治朗はそう言いながら、また無詠唱で荷物10個を浮かす。



「---戻りな、居場所へ」



 そう呟くと同時に、荷物はゆっくり空中移動を始める。


 そして各々、決められた場所へ吸い込まれて行き、10個の荷物は無事に指定場所で鎮座する。





 これには一同、サボれると大はしゃぎ。




 しかし、英治朗。


 空気中の魔素不足から、魔力不足が発生。


「一度に10個が限界なのと、少し休憩しないと直ぐに魔力不足になるんで、程々にさせて下さいね」


 一同、落ち込む。



 それでもせめて、所在に困る荷物が散乱しているのだけでも片付けようと言う事で、英治朗は作業と休憩を繰り返して、夕方の定時まで頑張る。





 結果、特別な計らいで少し多目に出た給料と、明日以降も作業を呼ばれたので、いつまで出来るかは判らないが、職には就けた、と思う英治朗であった。









「ライジンに抜かれる前に、風俗でも行こうかな?」

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