第11話 何だかんだと仲が良い? その1

 英治朗は風族街へ行く道の途中で、学校帰りの子供達へ青空教室をしているライジンに会う。



 錬金術だろうか。


 何かを説明しながら、ライジンは屑鉄から変化させた鉄定規を子供達にプレゼント。


 明日、カッターナイフを学校の授業で使う際に要るらしいが、最近は物流の滞りから、文房具の入手もままならないと言う……。



「……よくやっているのか?」


「たまにねー」



『錬金術師の魔女』と言う渾名らしい。



「他にも色々顔は広い方かな?」


「……正体は?」


 英治朗は尋ねる。


 ライジンはニコっと笑う。


「知ってる訳無いじゃん。---ホラ、私、オーラ無いでしょ?」


「……確かに」


「むう、消してるだけだよ〜?」


「えぇ……」



(どうフォローしろってんだ……)



 英治朗は内心で頭を抱える。


「ま、どの道、この街は庭さ」


「ま、そうなるわな」


「うふる、逃がさないよ、エージ?」



 英治朗の腕に抱き付くライジン。



「さては俺の先回りをしているな?」


「うん、勿論」


 ライジンは頷く。


 英治朗は首を横へ振る。


「やれやれ、やっぱりお見通しか」


「うん。---風俗に行く気でしょ?セフレは作らないとか言ってたクセに」


「それはケジメだ、ケジメ。そして風俗は違う」


 英治朗はドヤ顔で言う。


「違わない。---そんなどこの馬の骨とも知らない女の子と遊ぶなら、ボクと遊んで?」


「遊ばない、ケジメだ、ケジメ」


「ぐぬぬ」



 ライジンは悔しがるが、ここで一息、「---そんな事は置いといて……」と言って間を開ける。



「---明日、魔王討伐のプレス発表をする」



 いきなり、思いもしない話題に英治朗は焦る。



「お、おう?……まーた、いきなりだな?」


「うん。育てていた対魔王戦勇者が使い物になりそうになったからね?」


「あ、ああ。成程なー」


 英治朗は感心をする。


「まーね!」


 エッヘンと言うポーズをするライジン。


「---と言う訳で、最終決戦近いから準備よろー」


「いや、俺そんな事しませんが?」


「え?」


「え?」


「え?」


「いや、勝手決めんなや」


 呆れる英治朗。


 ライジンは不服そうに「むぅ」と言いつつ、少しどうしようか悩む。


 英治朗は、


「自分勝手なんだよ、お前は」


「うぅ……」


「何か魅力的な条件があれb---」


 条件を示そうとしたが、ライジンが被せてくる。


「じゃあ、ボクと契約して---」


 負けじと英治朗も応戦。


「言わせんぞ?」


「あうう……」


「ま、金だ金。前払いで---」


 ドヤ顔で言う英治朗だが、ライジンは、


「そんなの……無い」


「……よくそんなので依頼しようとしたな?」


「量産型勇者の皆んな、今までそんな感じじゃ無かったから……」


「そ、そうかー……」


 そう言われたらどうコメントして良いか判らない英治朗。





 ここでライジンは徐に、ポケットから何かを取り出す。




 「じゃあ、前払いはこれでどう……?」



 英治朗は見覚えのあるソレに戸惑いつつも、ライジンから差し出された物を注視する。



「え、おい⁉︎---これは……!」



 慶次郎の死後、行方不明とされていた、魔素吸収の効率を倍に上げる魔装具。



 お守りがてら、実の父親が慶次郎に渡した代物なので、ある意味、2人の形見でもある。



「まさか、兄貴はお前に……、託していたのか?」



 英治朗は一旦、受け取る。



 それをマジマジと見るが、しかし……。





 ---直ぐにライジンへ返す。





「---これはお前が持っておけ。それか適任者へ渡せ」





 形見を返されたライジンは驚く。


「え、い、要らないの?」


「おう、これはちょっと術師に寄って理論が変わるんだ。---しかも、俺の場合、相性が悪い」



 慶次郎の形見の魔装具は相性がある。


 特に英治朗の場合は---。



「私も実は使い方がイマイチ判らないんだけど……?---説明してくれる?」


 困り顔のライジンは英治朗へ使い方を尋ねる。


 英治朗は答える。


「ああ。勿論。---コイツは術師自体の魔素吸収効率を上げる作用か、コイツが吸収している魔素を術師が後から吸収する、2パターンがあるんだ。言わば、リザーブタンクみたいな代物なんだ」


「り、リザーブ?」


「ああ。魔力切れが起きそうになったら、自動的に魔素をこの魔装具が供給してくれる」


「う、うーん?」


「俺の場合は、体内の魔力を再び魔素に変えて、使う以外にも、その辺に漂う魔素を……。---今は分解して宿屋に置いてる銃剣に直接装填出来るんだ」


 コレにライジンは待ったを掛ける。


「待って。普通、その辺の魔素を体内に一旦取り込まずに変化させるのって先ず無理なんじゃない?」


「それをやって退けたのが石田家なんだ」


 英治朗は右手をサムズアップをする。



 コレにライジンは興味深々である。



「へ、へぇ〜!面白いね!流石ボクの子孫!」


「だろう?---だから俺には不要。と言うか、相性が悪いんだ。俺が空気中から集める魔素をこの魔装具と取り合いなるんだ」


「あ、あー……。---何だか大変そう」


 英治朗は苦笑いをする。


「大変だぜ?大概の魔装具が使えないからな!」


 ライジンは落ち込む。


「はあ〜、君を人体実験………、---じゃなかった。研究材料としてかなり期待は出来そうだねぇ〜?」


「おい、今、物騒もな事を言わなかったか?」


 英治朗のツッコミにライジンは「あはは」と言いながら、先を歩く。


「よし、じゃあ、これは引き続き貰っておくね」


「おう」


 英治朗は頷く。



「それじゃ、この問題解決もしたし、ご飯、食べに行こう?」



(あれ、最終決戦の話は?)



 英治朗はそう思ったが、クルッと回りながら、ニコっと笑うライジンに見蕩れる。



 直ぐに我に返る英治朗だが……。


「あ、いや、俺は行く所がある。スマン」


「風俗には行かせないよ!」



 ライジンはまたトテトテと英治朗に近付く。



「いや、また別件だ」


 英治朗はそう言うが、ライジンは英治朗の左腕に抱き付く。


「嘘だー」


「はいはい、俺は忙しいんだ。子供は帰った帰った。---って言うか、お前の所の基地?空母?か?そっちへな?」


「むー!」


「ったく、あざといと言うか何と言うか……」



 英治朗はライジンを引き剥がそうとする。


 しかしライジンは抵抗する。



「嫌だー!」


「離れろガキ!」


「君より年上!」


「はっ、精神年齢は俺の方が上だ!」


「うるさいうるさいうるさい!」


 ライジンは必死に英治朗の腕にしがみ付く。


「情報収集だ!ちとこの街外れに用事がある。1人で行かんと駄目なんだ」


 これにライジンは興味を示す。


「へぇ……。---聞いた事無いね?」



「……藤堂家だ。同じ忍者家系のな」



 これを聞いたライジンは力を抜き、大人しく離れる。



「良い子だ。---明日埋め合わせをする。夕方、ここへ集合」


「むう。勝手に決めて。---良いよ。うんとたっぷり埋め合わせして貰う」


「お手柔らかに、な?」


「うん」



 英治朗は目的地へ向けて足を運ぶ。



「こっそり着いて来るんじゃねぇぞ?---そうなると商談、不成立だ」


「判ってる!」


「あばよー!」


「おやすみ〜」



 英治朗はライジンが魔方陣を展開して、転移魔法を使う瞬間を見た。



「展開から発動、消えるまでコンマ5秒も無かったぞ?」


 少し身震いがする英治朗。


 勿論、厄介勢的な意味で……。









 翌朝。


 部屋の前で仁王立ちをして、不機嫌そうな顔で出待ちをしていたライジン。


 そして風俗へ行ったのを怒られる。


「よくも嘘を吐いたね!信じてたのに!」


「何度でも言う。お前が追っているのは兄貴だ。---俺は兄貴代わりじゃない。お前の慶次郎じゃない!」


 と、強く言ったが、全然響いていない。


 むしろ、不機嫌な表情で、


「もーいー!エージなんて嫌いだ!」


「嫌いで結構!」


「あとで泣き付いても知らないよ!」


「こっちの台詞だ!」


「ふん!もう知らない!」



 そう言ってどこかへ行ってしまったのである。



「……かと言って、慶次郎の事が吹っ切れたって言われてもなぁ」


 長年の想い人が居るので、少し複雑な心境の英治朗であった……。





 そして現在。


 溜め息を吐きながら、英治朗はライジンと一緒に、仲睦まじくランチメニューを食べている。



 英治朗は、少し落ち込んでいるライジンを見ながら言う。


「はぁ〜……。んで、ついカッとなってしまったと?」


「うん。……今朝はごめんね?」


「気にして無い」


「でも……」


「別にお前の事は嫌いじゃない。むしろ、普通に……。---そうだな。友人として接してくれたら良いんだ」


 ライジンは頷く。


「うん」


「そう言う事だ。ま、そうだな。昨日、俺は好意を抱いていた相手と喧嘩をした」


 英治朗はそう言いながら、サンドイッチを食べるのであった。


 ライジンは、「それってまさか……!」と、期待するが、英治朗は、


「仲直りがしたいんだ。---話し、聞いてくれるか?」


「……」


「冗談だ。相談する相手が居ないからな」


 そう言いながら英治朗は立ち上がる。


 ライジンは「あ、待って!」と、慌てて残りのご飯を口にして立ち上がる。



 割り勘で会計を済ませて、店の外へ出るとライジンは「用事がある」と言って、また転移魔法でどこかへ消える。



 英治朗も仕事に戻る。


 気の流通センターへ……。






 夕方。


 英治朗は昨日に引き続き、またラーメン店で呑気にラーメンを啜っている。


 そこで流されているテレビから緊急速報が流れる。





『番組の途中ですが、速報です。先程、魔族領勇者3名が決起を行ったと、政府は発表しました。


 繰り返します。先程、魔族領勇者3名が決起を行ったと、政府は発表しました。


 狙いは魔王、『マーガレット』女史。


 現在、魔鉱石の取引についての会合でここ、日本帝国へ訪れていましたが。


 “ついに、その首、狙い撃つ”と予告がは入りました。


 これにより、国家緊急事態を発動すると、政府関係者からの発言がありました。


 繰り返します。国家緊急事態を発動すると、政府関係者からの発言がありました。


 これにより、入出国の規制、人流の往来に規制がかかります。



 繰り返しお伝えします。


 先程、政府は---』





 英治朗は感心をする。


「……お、本当にプレス発表をしたか」



 更にもう一つ、衝撃的なニュースが入る。



『続いての速報です。


 先程、魔族領総会で人間族以外の種族で、迫害を受けている亜人種、獣人族やエルフ族等の難民を魔族領へ受け付けると、言う内容で全世界に発信されました。


 繰り返しお伝えします---』





 これに英治朗はどこかすっとした。


 迫害を受けていた村の住民もはこうなれば、安心且つ、用心棒は要らないのでは?と思ったら何となく安堵をしたのである。



「……もう。---アイツ等は逃げなくて……。良いのか」



 ---でも何故か、完全に疑念は晴れなかった……。

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