第6話 結局一旦お別れ その2

 英治朗はベルゼの言葉に動揺しつつも、深呼吸をして心を落ち着かせる。



 結局、ここへ来た事自体は無駄足でしかないが、


「ライジン。これだけは伝えおかにゃならんな。---結界を張って助けてくれた事は礼を言う」


 深々とお辞儀をする。



「---ありがとう」



 ライジンは満足そうに頷く。


「うん。命の恩人、だからね?」


「そこまでは思って無いぞ?」


 頭を上げる英治朗。


「うわ、酷い」


「ま、五体満足じゃなかったのは事実だろうがな。……そこは感謝している」


 英治朗はもう一度軽く頭を下げる。


「……うん。---やっぱり、素直じゃないのも、兄弟だね」


「言っとけ。そう思っている内は、俺はお前に靡かん。お前が追い掛けているのは兄貴だ」


「うぅ、ごめん……、なさい」


「恩を売るなら、そこから改めろ」


「……はい」


 割と本気で反省している様子なので、英治朗はこれ以上のコメントは辞めた。




 動き始めたカタパルトは直ぐに上部滑走路へ到着。


 月夜が綺麗な空だった。



 『天上国』と言う名称の空中要塞と言えども、単なる空母を魔改造して、空を飛べる様にしているだけである。



 ベルゼが言う。


「飛べるか?」


「おう、じゃないと黙ってここまで来ない」


「済まんな」


「あばよ」


「えっと、また後で!エージ!」


 英治朗は小走りに滑走路を走る。



 そこで圧縮詠唱をする。



「飛翔の力を我に!“レイドウインヂ”」



 風の結界を纏いつつ、追い風を推進力として飛行する技である。


 あまり長時間使うと、空間失調症で墜落の危険性がある。


 なので、極力、低空飛行をするので英治朗は旋回をしながら降下をする。



 空中空母要塞は入江の辺りを光学迷彩で航行していたのが、離れてから判った。



「あの空母、宇宙まで飛ばないかな?」









 英治朗は封筒の中身の金額と、自身の所持金を調べる。


 「……んー、口止め料も含めてなんだろうけど、元居た場所へ戻るのは無理だなぁ」


 現在地は把握はしているが、この港街からだとかなり遠い。


「ま、しばらくここに滞在するのもありか。---用心棒を辞めてしまえば無職の様なもの……」



 何にせよ、英治朗はどうにかして稼がないといけない。


(……魔王討伐とか、俺は関係無い)


 そう言い聞かせながら歩く。



 英治朗は公安からのお尋ね者ではないが、石田家からは『引き戻し』で捜索されている。


 しかし、先程はその割に、命を狙われたのは謎である……。



 なので、警戒は怠らない。





 今日の所は、夜も遅いので宿屋で泊まる事にした英治朗。


 冒険者向けの格安宿である。



 英治朗は冒険者稼業もした事もあり、こうしたとこへ泊まるのも慣れている。



 ちなみに今回、冒険者はしない。


 諸般の事情があり、割りに合わないのである……。


 従って、他の求人を探す。



「……かと言って、一般職も渋いなぁ」



 コンビニで貰った求人を見るが塩っぱい。



 現在、世界的な不景気は、魔王マーガレットの裏切りのせいで、世界情勢が不安定なのが大きく起因している。


 マーガレットは各国と資本提携を結び、魔族領内に居る同じく魔族を裏切った手下を使って、資源の供給を法外な値段でしている。


 それでまた転売があったりと、混乱が起きる。



 これは世界的な魔法力の低下が起因している。


 空気中に流れる魔素の濃度が低下。


 それを補う為のマジックアイテムが高値で取り引きされる。



 その原材料となればどこも喉から手が出る程欲しくなる……。



 そこを漬け込んで魔族領の意思を無視して売り捌いでいる。


 なので、『寝返った』と言われている。





 そんな世の中だが、英治朗は明日、雇ってくれそうな場所へ片っ端から行く事になりそうである。



「……何だか、アノ時を思い出すな」



 抜け忍となって家を飛び出した時。


“里の掟”で捕まれば当時は島流しのリスク。



 特に今、英治朗は捕まる訳にはいけない。





 ---石田家次期当主候補、全員抜け忍となり、誰かしらを捕まえて、連れ戻した誰かしらを当主にする算段である。



 既に石田家崩壊の危機である。


 英治朗は何故、自身がそんな利用価値があるかは判っていない。


 どの道、英治朗はそのまま没落すれば良いと思っており、余計に捕まる事は許されない。


 なので、こうした場所でも、気を抜かず、冷静に……。



 そう思いながら英治朗は警戒をしながら寝るのであった。

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