第5話 結局一旦お別れ その1
用を足し終えた英治朗。
すると、出入り口で出待ちをしていたのはハゲのオッサンだった。
「名乗るのが遅れた。ベルゼと言う」
「石田英治朗」
「上様の我儘に付き合ってくれてスマンな。---帰り道を案内する」
「ん?……良いのか?そんな事をして」
「いや、ホント、済まない。大丈夫だ」
ベルゼは道案内を始める。
英治朗はついて行く。
その道中、ベルゼは英治朗へライジンの正体を言う。
「アイツはな。---実は転生した先代魔王なんだ」
コレには英治朗も流石に大きく驚く。
「え、マジで?」
「ああ。マジだ。しかも親はキュバス系なんだが……。---どうせさっき、半分見境無しに襲われかけただろ?」
苦笑いをするベルゼ。
「まーな。---兄貴の影を理由に“吸精”されかけた」
「ああ……。まぁ、しかし……。アイツもそろそろ限界か」
「ふーん……。---今まではどうしてたんだ?」
「ん?別にサキュバスは“吸精”しないと生きていけない訳じゃない」
「マジか」
「但し、好きな相手が近くに居ると、“吸精”衝動が酷いらしい」
溜め息を吐くオッサン
「とは言え、……俺は弟だけどな?」
「そこがすげぇんだ。---余程そっくりなんだな?」
「まーな。そこは自負と言うか、自覚はしてる」
そこからしばらく無言になるが、英治朗は尋ねる。
「んで、ライジンが今やっているのは何だ?」
「……やはり気になるか」
「そりゃあ、な?」
ベルゼは少し間を空けて答える。
「……アイツが今している事は、人間族に寝返った今の魔王、マーガレット様の討伐だ」
英治朗は興味深々に「ほう」と言う。
「どこからか勇者を拐っては、マーガレット様へ送り込む。使い捨ての駒の様にな?」
「可愛い顔してエグいな」
「そうした短絡的思考には辟易している」
ベルゼは落胆する。
英治朗はそんなベルゼを見て言う。
「他にも何かエグい事してそうだけど……。---ま、心当たりしかないなぁ〜」
ベルゼも英治朗を見る。
「はは、察しの良い奴と言うか……。そうだな。---それは納得ってか?」
「まーな?」
ベルゼは少し間を置いてから言う。
「……先代魔王が遺伝子組み替えて生み出した魔族。その第一号。……現在の石田家の子孫さんよぉ?」
怪しく笑いながら---。
英治朗は歩みを止める。
先代魔王は早くから魔法を用いて遺伝子研究をしていたのである。
その研究結果を元に、遺伝子操作を行い、見た目は人間族、中身は魔族の同胞を作ったのである。
当時の魔王は自らが検体となって、幾人か子供を体外受精で産みつつ、他にも代理母を多く募って、沢山のそうした子供達を魔族の総意を上げて、産み育てた。
目的はそれらの魔族を他国の中枢機関、諜報機関へ送り込み、いつしか魔族が影から国を乗っ取る為……。
婚姻は基本的に同胞とのみと言う制約はあるが……。
ちなみに、英治朗の先祖は、当時の魔王の第一子。
言わば先代魔王の子孫である。
英治朗は静かに言う。
「転生して、幾ら遺伝子的繋がりは無くても、子孫に欲情をするのはちょっとヤバいなぁ」
これのセリフにはベルゼでない人物が反応する。
「いやー、仕方無いよ。子孫ってやっぱり可愛いモノだからね?」
ライジンだった。
「今世はもう少し、“人”らしく行きたいんだ」
そう言いながら英治朗の背後から抱き付き、おんぶ状態になる。
「子泣き爺かな?」
軽いので英治朗は気にせす、そのまま歩き始める。
「ベルゼ、よくも勝手な事をしてくれたね?」
ライジンも気にせずそのまま喋る。
ベルゼは溜め息混じりに、
「これ以上、犠牲者は出したくない」
と言うが、ライジンは、
「ん?エージは切り札だよ?」
と、ベルゼに言う。
意外そうなベルゼは、
「何?そうだったのか?」
「んー、忠誠心薄いから、今から精神汚染させるつもりだった」
このコメントには英治朗も含めて、ベルゼは、
「おい!やっぱりお前は人の心がねぇ!!---この男は絶対送り返す!」
と、怒る。
「えー、そんなサキュバスの力使ってボクにメロメロにさせるだけなんだけど?」
「それでもだ!---看過出来ん!!」
そう話し込んでいたら、現代兵器、航空戦闘機の格納庫へ到着。
ベルゼは尋ねる。
「短い間だったが、本当にありがとう」
「俺も早急な解放、恩に着る。---俺は俺の役割がある。行かなきゃならん場所があるからな」
「……ああ」
ここでライジンは英治朗の背中から降りる。
---「いやいやいやいや、ボクの存在!」
「ちなみに訊くが、俺はこのままどこに放たれるんだ?」
「……」
ベルゼはそっぽを向く。
「おい!」
---「おーい、ボクここまで無視されると泣いちゃうよ〜?えーん」
「いや、こればかりはワシからも謝る!」
「……謝るって言ったてよ。どこに放り出すんだ?---最初、聞かなかった俺も悪かったけどよー……」
---「あのー、聞いてる?ボクは英治朗を逃さないよー?」
英治朗は呆れながら詰める。
ベルゼは申し訳無さそうに言う。
「スマン、それも言えん」
「……けっ。---やはりアイツ、広範囲で移動出来る“転移魔法”を使えるのか」
英治朗は半分諦めた。
---「どうでしょ、凄いでしょー?---……そろそろ本気で泣いちゃうよ?」
ベルゼは封筒を白衣のポケットから出す。
「しかし、降りた先には交通網はある。---少ないが移動するならこれでどうにかしてくれ」
「へぇ、気前が良いんだな?」
---「え、ちょっと待って、何そのお金⁉︎」
ここでライジンは英治朗の背中をポコポコ殴る。
英治朗はそこで、ライジンの存在に気付く。
「何だ、居たのか」
「え?本気で言ってるのかい⁉︎」
「……………………ああ」
「何その間⁉︎こわ‼︎」
ライジンは引きながら言う。
英治朗は封筒を受け取る。
---「あ、受け取った!返してよ!あとで!」
英治朗とベルゼ、ライジンが立っている昇降機が上昇を始める。
---「え?え?え?ベルゼ!止めてよ⁉︎」
「上様。仮にこの者をいつ起きるか判らない最終決戦まで養える程の余力、今……、無いでしょ?使い捨ての駒でしか人を運用出来てない癖に」
「うわぁ、反応した⁉︎」
「……」
「……うっ。目線が痛い……。---そ、それは愛の力で〜」
「……」
「今度は目線が怖い……」
「自身の立場と言うのを考えてくれ。今日の所は引き取って貰う。この男がマーガレット様討伐に参加を決意したらここへ連れて来い」
「……むー」
「それまで監視でもしとけ。こっちはこっちでどうにかする」
「え⁉︎良いの⁉︎」
「但し!引き続きをしてからだ!---未だ30人近く居る待機中の勇者はどうすんだ⁉︎瀕死なのも50人位居るが、生かすも殺すもお前次第なのをどうにかしろ!せめてマニュアル作って明確化しろ!」
「ひゃううう……。---判ったよ。今からする」
(いやいやいやいや。---今しれっと色々ヤバい事言ったな、このハゲ)
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