第4話 勘違いは勘弁して欲しいですね その2
ライジンは英治朗と入れ替わり位で、慶次郎と出会ったらしい。
そこからしばらく、石田家で過ごしていたらしい。
「17歳の時にね。慶次郎は喜んでいたんだ。『やっとお迎えが来て、修行へ行ける』ってね」
英治朗は察した。
「ああ。---奴隷商へ売られた時、か」
「うん。少し前に君が話してた内容と当てはめれば、そうだと思う。---皆んな、慶次郎を騙していた」
英治朗も最初は修行へ行ったと聞いたが、その数日後、一緒に修行をした親戚の姉、『石田千花牙』へ連絡を取ると、
『ああ、うん。---アンタの両親が奴隷商に売ったの。その後は死んだらしいけど……。消息は不明。アンタも両親もね?』
これに腹を立てた英治朗は近い内に行う、抜け忍の決意をした。
それから数日後。
千花牙には必死に引き止められたが、英治朗は、
「心に決めた事だ」
師匠である『石田ありさ』にも、
「どうにかならない?お姉さん、悲しいわ……」
と、同様に引き止められたが、無視。
英治朗は家を飛び出して、抜け忍となったのである。
話しを戻す。
ライジンは慶次郎が修行の為に、家を出たと思い込んでいたと同時期に魔族領へ帰ったのである。
慶次郎は既に死んでいたが、それを知らないライジンはその6年後。
慶次郎は修行を終えて家へ帰ったと思い込んでいた。
しかし、慶次郎を探して迎えに行こうと、人間領を調べても、慶次郎の存在が見当たらない。
なので、量産型勇者や勇者見習いを取り込むついでに、全国に裾を広げて必死に調べていたら、先程、慶次郎にソックリな存在がヒット。
ライジンは慶次郎から英治朗の存在を聞いていなかったので、英治朗を慶次郎と勘違い。
それもまた特に、英治朗と慶次郎が一卵性双生児故と、他にも特徴が共通しており、見分けが付かなかった。
雰囲気や言葉遣い、仕草も一緒。
そして、偶然にも危ない所で遭遇したのである。
そこで、ライジンは英治朗のピンチを救う。
英治朗は深呼吸をする。
「はぁ〜……。何だか済まん。何だか、兄貴のせいで勘違いさせて」
ライジンも謝る。
「……こちらこそ、ちゃんと確認すべきだった」
ライジンは英治朗の肩に頭を預ける。
「……」
英治朗は黙って受け入れる。
「ねぇ、英治朗」
ライジンは小さな声で尋ねた。
「ん?何だ?」
「君、本当、慶次郎そっくりだよね?」
「ま、双子だからな」
英治朗は苦笑いをする。
ライジンは恐る恐る更に訊く。
「……これを言ったら怒られるかもしれないけど……。---慶次郎の代わりになって貰える?」
英治朗は首を横に振る。
「おいおい、流石にそれは無理な相談だなー。---実際、子供の頃はどっちがどっちだか判らんから、どっちでも良いって言われた時はあるけど、アレ、結構辛いんだぞ?」
しかしライジンは震える声で言う。
「……君がいけないんだ」
「……ん?どした?」
英治朗はライジンの様子が代わり、少し警戒する。
「君が慶次郎と同じ雰囲気、同じ仕草、同じ匂い、同じ声、同じ喋り方なのが……」
恍惚の笑みを浮かべるライジン。
焦る英治朗。
「おい、お前……?」
「やっぱり慶次郎として生きてくれない?」
洗い息を立てて、迫り来るライジン。
「待て待て待て待て。落ち着け、俺は英治朗だ!」
英治朗は必死に説得する。
ライジンは低く構えて、
「えい!」
英治朗に飛び付いて来た。
「うふふ、捕まえた」
英治朗は抵抗をする。
「魅力的なお誘いだが、俺には荷が重い!」
「む、失礼な!女の子にそんな重いなんて---!」
「精神的な方だ!」
コレにライジンは首を振る。
「もうダメなんだ、我慢出来ないんだ。恋人の弟と言えども、丸々生き写し過ぎて、もう君が慶次郎にしかみえない!」
「だから落ち着いてくれ!」
「実はボク、サキュバスなんだけどそろそろ“吸精”しないとヤバいんだ。---ちょっと恋人相手だと余計に見境が無くなるかも」
「何かご都合主義なカミングアウトと、誘いはある意味魅力的だが、俺はお前の恋人じゃねぇ!」
「じゃあ今からでも!」
「考えるから!考えてやるから!今は納めてくれ!」
「君の精液を私の腹の中へ?」
「ああああ、何つーストレートな表現!」
英治朗もそろそろ限界が来る。
良い匂いに柔らい身体。
最近、溜まっているのも大きい。
村で少し仲良くしていた女の子を抱いたのはかなり前……。
自分で発散するのも前回、いつしたやら……。
ライジンの柔らい身体が密着し、良い匂いがするのはフェロモンだろうか……。
そして、ライジンのそそられる表情は扇情的で、吸い込まれそうになる。
しかし、英治朗。
先程のお茶が元々、利尿作用の高いせいで、トイレにも行きたい。
なので、ここは理性を保ちつつ、ライジンへ尋ねる。
「トイレ!トイレはどこだ⁉︎マジで漏れる‼︎」
「え?……トイレ?」
この言葉に少し、ライジンは我に返る。
「---部屋を右に出て、真っ直ぐ行ったら直ぐだよ」
それを聞いた英治朗は縄抜けの術で、素早くライジンから離れて、ダッシュをする。
英治朗は案内通りに走り、無事にトイレへ到着。
少しチビてたが、何とか間に合ったのであった……。
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