第3話 勘違いは勘弁して欲しいですね その1
「ごめん、人違いだった」
少女からそう言われた英治朗は呆ける。
「……はあ⁉︎」
---少女とオッサンはやり取りしている中で、英治朗のスペックの話しになる。
「あ、ステータス見せてよー!面白いスペックしてるんだ〜」
『ステータス•スペックカード』
魔法と科学の融合技術で、持ち主の主な能力値が判る、折りたたみ式で、一般的な手帳サイズの物である。
英治朗はそれを渡す。
少女が魔力を込めると、真っ黒なカードにそれが映る。
「---ってアレ?」
少女が真顔になる。
オッサンは、
「……上様?」
と尋ねるが、少女は滝汗を流す。
「あ、あはは……」
「---ごめん、人違いだった」
これが冒頭までのシーン。
英治朗は尋ねる。
「おいマジか!誰と間違えたんだ?」
少女は言う。
「石田……慶次郎、……君」
英治朗は項垂れる。
「ああ、兄貴か。---納得」
「もかして……。---双子?」
「ああ。双子の兄貴さ。---でも、もうとっくの昔に死んだぞ?」
「……え?」
「ああ。直接的な原因は親の虐待。劣性遺伝の兄貴は何も素質が無くてな……」
何と言えない空気が漂う。
「俺は修行に出されていた間、兄貴は奴隷商へ引き渡されたんだ。---でも、その直後に長年の蓄積された怪我のせいでな。……脳の血管が切れたんだ。んで、親は金を貰った翌朝にトンズラこいたらしい。夜逃げって奴だ」
「あわわわ」
ライジンが真っ青な顔をする。
「俺達は望まれた子供じゃなんだ。……デキ婚って奴だ。---それに元は忍者になる予定じゃなかったんだが、お家騒動で俺は無理矢理させられたんだ」
「ううっ……」
言葉に詰まるライジンと呼ばれた少女。
オッサンは言う。
「……波乱な人生、なんだな。---お前もそんな家から抜けたんだろう?」
英治朗は頷く。
「ああ。直接、世話になった人には恩はある。だけどよ。石田家には恨みしかない」
ライジンはそっぽを向く。
「えっと……。なんだか、……どうしよう?」
「今更、もう良い。---むしろ、兄貴の分まで生きると考えたら、ある意味、勘違いしてくれて良かったかもな?」
英治朗はここで問う。
「---でも、どうしても俺と死んだ兄貴を間違えてたんだ?」
「……それは---」
ここでニッコリと笑うオッサン。
「あ、ああ。成程な!例の幼馴染だ」
英治朗は復唱する。
「幼馴染?」
「ああ。一時期、上様は人間族の領地でしばらく過ごしていた時期があったんだ。---そこで出会ったのだろ?」
ライジンは少し顔を赤くする。
「……むう」
英治朗は何かが合点した。
「俺が修行に行っている間か!」
オッサンは頷く。
「そうだな。---ソイツを迎えに行く予定だったのか?」
ライジンは頷く。
「アイツはこう言ったんだ。『必ず、強くなって帰って来る』って。ボクも、絶対に迎えに行くって……。---計画の都合上、量産型勇者とその候補生を捕まえながらだったし、少し遠回り遠回りになったけど、やっと……。見付けたと思ったんだ」
英治朗は少し懐かしい気分になる。
(不穏な言葉が聞こえたけど、気にしない)
兄が死んだとされるのは17歳の頃。
英治朗の修行期間は12歳から18歳の間だったので、12歳迄の記憶しかない。
ライジンは黄昏る英治朗を見ながら言う。
「と、とりあえずと言うか、一先ずは君を一時的に客人として受け入れる」
「ありがとう……、なのか?---ま、いっか」
(……あと、元の場所へ戻してくれるんかなー?)
英治朗は礼を言うが微妙な気分になる。
ライジンは、
「と言う訳で、客人として丁重に扱え」
と、オッサンへ言うと、
「へいへい」
と、言いながらまた箱を抱える。
「おい、聞いてるのか!⁉︎ベルゼ!」
「煩い、こっちは仕事中だ。あとにしてくれ」
「我、真•魔王ぞ?」
「じゃあ今直ぐが良いなら自分で案内してくれ、色ボケ魔王!」
オッサンの気迫に負けたライジンは、
「ひゃおう……」
と、言って縮こまる。
そのまま、ハゲのオッサンは箱を抱えて走り去って行ったのであった……。
英治朗はライジンの案内で引き続き歩く。
「君には期待してるよ」
手を繋いで。
英治朗は何とも言えない気分で、
「ボチボチで頼む」
と、釘を刺す。
少し広い、真っ白な会議室の様な部屋に到着。
「しばらく待ってて」
そう言いながら、準備室の様な場所へ消えるライジン。
英治朗は近くの椅子へ座る。
「……窓、無いんだな」
殺風景で無機質な部屋である。
壁はよく見ると、白く塗られているだけのベニヤ板であった。
ライジンがお茶とお菓子をお盆に載せて来る。
「お待たせ」
英治朗にそれらを渡す。
「ありがとう」
ライジンは英治朗の左隣に座る。
英治朗は“解析”能力でお茶とお菓子見るが、
「……流石、だね」
ライジンにはバレたらしい。
「……癖だ」
「むしろ、そうして調べた上で、安心して食べて欲しい。---あ、媚薬だったらどうする?」
「何故媚薬……」
「例えばだよ」
「食しても問題無い毒は無い」
「おや、手厳しい」
クスクス笑うライジン。
英治朗はそれを見て、
(……精神干渉して来てる?)
何かに気付く。
英治朗も負けじと解析するが、弾かれる。
「おや、お互いシャットアウトしちゃったみたいだね」
「……よく言うぜ」
「ま、流石、って言った所だね。修行の成果が出てる」
これに英治朗は『!』っと驚く。
「……石田家の事情と言うか、日本帝国の忍者事情を知ってるのか」
「まーね?」
自慢気に言うライジン。
「……判った。良いだろう。話しをしよう」
英治朗は一口、お茶を飲む。
「ん---兄貴と何を約束したんだ?」
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