第17話 呆気ない魔王の最期 その1

 修行中、本当の姿で見学して来る、魔王マーガレットと幾度か会った事はある。


 しかし、その時はそれは知らなかった。



 英治朗は修行が終わった後、志和から、


「『お忍びだから〜』って本人希望で言わなかったけど、アンタ、死ぬ程失礼な事してた相手はね?---魔王、マーガレット様よ?」


 と、言われた時は流石に後日、殺されるかと思った。


 表舞台と見た目が全然違うのでそうとは思わず……。



 その後、そんな心配もどこ吹く風。


 全然気に咎めずフレンドリーであった。


 抜け忍になる前も幾度か会った事はある。


 それに、本人から『自分は魔王』だと言われた事は無い。


 下手に態度を変えるのも違う気がするし、訳アリだと思って、扱いは変えていない。





 今回、抜け忍になってからマーガレットとは初めて会う。


 当然、相変わらず、知らない振りをする。





 しかし、英治朗。





(いやいや、待て待て。ライジンと会ったら一気にここが戦場になるやん!)



 最早、気が気でない。




 そんな英治朗の焦りを知らず、。マーガレットは英治朗に話し掛ける。



「やれやれ、『あれに乗りたかったなぁ』って顔してるぞ?」


 マーガレットは偽名でこの姿の時は『リシア•マーガレット』と名乗っている。


 大絶賛、真名入りである。



 なので英治朗は、


「素敵な女性が声を掛けて来たと思ったら……。なんだ、リシアか」


「はぁ⁉︎お、オレが素敵な女性だと⁉︎また口が上手いなぁ、お前は‼︎」



 マーガレットは英治朗から離れて、背中をバンバン叩く。



「痛ぇ、って。辞めろ。あと、素敵な女性とお前の事じゃんねぇ」


「照れるなよ!オイオイ‼︎」


「はぁ〜……」


 英治朗は訂正を諦めた。


「---んで、どうしてエージはこんな所に居るんだ?」



 ---(逆にお前は何を企んでこの国へ来ていた?)



 と、とてもそう聞きたいが、そうは聞けない。




 マーガレットは英治朗の背中を叩くのを辞めて、また英治朗の横へ立つ。



「仕事がひと段落したんだ。それで少し羽を伸ばそうと思ってなー」


「ふーん」


「そう言うお前こそ。何でこの街に?」


 マーガレットが英治朗へ聞いた。


「ま、色々あってな」


「そうだな。訳アリ……、だったな?」


「……まーな」


 英治朗は面倒臭そうに言うが、未だマーガレットは絡んでくる。


「……久し振りに会おうと思ったら『抜け忍で消えやがった』って言われたしよ。---何したいんだ?」


 マーガレットは英治朗の首へ腕を回して、肩を組む。


「---だから、今、ここに居るのも、何となく偶然遭遇したって思わねぇんだよなぁ〜?」


 英治朗の耳元でそう言うマーガレット。


 英治朗は尋ねる。


「……何が言いたい?」


「オレ様を実は付け狙っていた!」


「そのポジティブな考えを少し分けて欲しい位だな」


「んだよー、ノリが悪いなぁ。---確かに、お前はもう少し、自分に自信を持てっては思うなぁ〜」


 マーガレットは人懐っこい笑顔で言う。


 英治朗は小さく溜め息を吐く。


「はぁ……。それは言えない。だけど……。---抜け忍になったのは自分の意思だ」


「そうか」


 マーガレットは英治朗に回していた腕を離す。


「---この街に志和が居たのも気にはなったんだけどなぁ〜」


 そう言いながら、クルッと背を向ける。


 英治朗は「そうか」と、短く良い、それ以上は言わない」


「んだよ、アイツとも何かあったのか?」


「……何も無い」



 またマーガレットは英治朗に近付き、背中に何かを当てる。


 英治朗は両手を上げる。



「……本当か?」


「ああ」


「じゃあ失恋して泣いてたんじゃないんだな?」


「……」


 英治朗は黙る。



(え、どう言う状況?)



「それは……穏やかじゃないな?」


 英治朗はそう言って相槌を打った。


「流石に声は掛けれんかったんだけどよー。何かブツブツ言ってて怖かったし」



 英治朗は背中をチラッと見ると、押し当てているのはマーガレットの人差し指であった。


 マーガレットは、



「ま、いっか」



 そう言って、英治朗の背中から指を離して、クルッと回る。


 英治朗は振り向いてマーガレットへもう一度尋ねる。


「試していたのか?」


「いいや、それは無い。アイツも大切な友人だからな?気になっただけだ」


 また、マーガレットが英治朗へ向いて言う。



「---もしお前が志和を泣かしてたら説教するところだった」



 英治朗は、



(コイツ、こうしてると良い奴感あるんだけどなぁ〜)



 中身は魔族を裏切ってた世界を混乱に陥れた魔王、その者である。



 どう足掻いても、この姿で国相手に交渉をする様なタマではない。


 やはり、ここには今居ない誰かが操っている?


 実は傀儡魔王?



 英治朗はそんな疑念はあるが、



「そうか」



 と、短い頷いた。



「お、セレモニーが始まるぞ!」



 そう言いながら、マーガレットは嬉しそうに船の方へ行く。



「ったく、関係ないのに、好きだなぁ、こう言うの」



 英治朗も何となく追い掛けるのであった……。

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