第16話 魔王、登場。
英治朗は港に居た。
警戒令が敷かれている中で、貴族向けのクルーズ船が寄港している。
船内へ出入りする作業員の毎度毎度の厳正なチェックが行われる。
乗船旅客はタラップが降りた先で、入国管理局職員が簡易的に入国審査をしている。
外での買い物を楽しもうとしている又は、それを終えた様子を、英治朗は眺める。
『貴族』と言うだけで、こうして悠々とすごしている格差社会に英治朗は何も思わない。
自身がどちらかと言うと、貴族寄りの存在故に、それがこの国では当たり前だから……。
他にも事実上のカースト制度はあり、英治朗は抜け忍になる前は上位の方ではあった。
それでも、抜け忍になったお陰もあり、一定の苦労は判らない訳ではないが、『こんなのはおかしい!』と、叫んでから革命を起こそうとは思わない。
どちらかと言うと、他人がそうしてそうした存在を滅ぼした先で、起きる事が気になる。
勿論、今はライジンの事である。
所詮は首の挿げ替えによる、新たな統治の行き先。
そう、今の魔王、マーガレットの今後次第。
彼女が死すれば恐らく、世の中は多少は変わる、
制度も交易も。
しかし、ライジンが魔王再任となった所で何が変わる?
彼女は、また魔法に寄る世界統治を目指しているらしい。
むしろ戻る?
世界的に魔法力が弱まっているのに?
疑念は色々ある。
それを一つ一つ、尋ねた所で全てを話すとは限らない。
そもそも、果たして、ライジンはどこまで自身の事を信じてくれているのだろうか……。
「ま、あとでどうせ会うし、追々訊くか」
これに思わぬ人物から声を掛けられる。
「お、また会いたいって思ってくれたのか?」
隣へ並ぶ、痴女の様な格好をした、高身長な女性が横へ立つ。
濃い金髪はウェーブが少し掛かったロングで、何故か水着を着て、履いている低いヒールは白。
少し小麦色になって日焼けしている肌は艶々である。
表情はサングラスを掛けているから読めない。
唇は少し厚く、薄く引かれた口紅はそれを際立てる。
化粧も今の格好に合わせたのか、キャンギャルみたいなキラキラしたチークが眩しい。
「……どなたか、別の人と勘違いしてません?」
英治朗はそんな女性を尻目に見ながら言う。
「はは。地の果てまで追い掛けるつもりだぞ?」
「……はぁ、そうですか」
「ああ。絶対に忘れはしない」
その女性は英治朗にスッと寄り添い、くっ付く。
「---お前みたいな友人はな?」
サングラスを外してそう言う女性。
「友人?そんなちゃんちゃら面白おかしい姿格好をした痴女を、友人に持った記憶は無いと思ったけどなぁ〜」
そう言って、英治朗は冷たく遇らった。
「ったく、コメントの棘がヒデェ奴だ。---ま、相変わらずで何よりだな?」
魔王、マーガレットを。
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