第15話 テコ入れですよ。
志和の家、藤堂家の研究予測の話しを聞いてから3日後。
ライジンが放った勇者の内、2人が死亡。
その内の1人は先日、英治朗がライジンと見た炎系の魔法で無双をしていた人物。
どうやら魔王、マーガレットまで辿り着いたらしく、首を狙うも、
「邪魔じゃのう?---ホレ、苦しまず死ぬが良い」
と、魔法力が衰えていると言う情報はどこ吹く風。
黒髪ロングで鋭い三白眼で、金色の瞳をした着物を着た幼女に、一瞬で消し炭にされたのか、映像はそこで途切れていた。
その時、一瞬、見覚えのある魔装具が映る。
ライジンが志和に渡した魔装具と同じ代物である。
名前は『Mチャージタリス』と言うらしい……。
それが腰にぶら下がっていた。
ライジンは激怒した。
英治朗の部屋で志和に連絡を取って怒鳴り散らしていたが、
『言ったでしょ、他にもあるって。---どこかで入手したのでしょうね』
と、極めて冷静であった。
「じゃあ証拠を見せて」
『2度と会いたくなかったけど、今度会う?---ちょっと私も家に帰れてないから、未だ持ってる』
と言う訳で、ライジンは最近入り浸っているカフェで志和を待つと言って、部屋を出て行くのであった……。
ちなみに、もう1人の死んだ量産型勇者だが、魔王が秘密裏に建設している最中の、魔石加工工場へ潜入。
その身に爆弾を巻いて、爆破させようとしたら視察に来ていた建設会社に社長に遭遇。
その量産型勇者は、社長の一人息子だったらしく、壮大な親子喧嘩へ発展。
そして、護衛のスナイパーの勝手な行動に寄り、ヘッドショットを決められて死亡。
父親は失意の中、息子の遺体から爆弾処理班が慎重に爆弾処理をする場面を、「見届ける責任がある」と言って、しばし眺める。
---ところが……。
「気が付かされたよ、ザン。この罪は今、償うしかあるまい」
護身用で持っていた銃で息子が巻いている爆弾に向けて発砲。
映像はそこで終わった。
あと、もう1人の女勇者は、とある遺跡で魔王が探しているらしき物資とやらの調査中、チンピラに捕まっていた。
カメラの存在に気付いたチンピラ。
全裸にした勇者に向けて、映像を映そうとしているが、若干、カメラのレンズから外れる構図になる。
しかし、輪姦されている映像と言うのはよく判ったし、
「久し振りで燃えてきたぜ」
と、女勇者は楽しそうであった。
ライジンに声を掛けられる前から元々、男と複数でそうした行為を楽しんでいたらしい……。
そのまま何故かチンピラを仲間にして、マーガレットが狙いそうな遺跡調査団を勝手に作ってウロウロしているのであった……。
ライジン曰く、「人選ミスなのか結果オーライなのか」---。
英治朗はライジンが去ったあと、部屋を片付けて泊まっていた部屋を引き払い、おおよ、1ヶ月位は過ごしていた部屋をあとにする。
目的は、冒険者組合から借りた寮への移住。
英治朗は結局、冒険者稼業をしばらくする事にした。
それも、冒険者ランク1から4までは初心者冒険者として、借り上げの寮へ住む事が出来る制度を使ったのである。
これのついでに、なんとなく少しボサボサだった髪を、思い切って散髪をして、ツーブロックの刈り上げにした。
これも何となく、少しだけ変装用の化粧により、血色と目元や眉を弄る。
すると、大分印象が変わったのか、街の人々は英治朗と判る者は居なかった。
ライジンの荷物を抱えて、冒険者組合事務所へ行くと、やたらと女の子に声を掛けれる。
単なる逆ナンらしく、そのままクエストに誘われる。
忙しいから次回にお願いすると丁寧に断り、ライジンを待つ。
ライジンには予め一言、昼頃には事務所へ来る様には言っているから、もうじきに来ると思いつつ……。
しばらくすると、ライジンが来た。
「ったく、あの女。嫌な奴」
1番開口がそれであった。
「おかえり。---志和がか?」
「うん。予め言っておくよ、エージ。君はモテる!」
ビシッと指を挿して言う。
「お、おう……?」
何の事だか判らない英治朗
「誘惑には屈しないで!」
「ああ、それは善処する。---それより一先ずは寮へ案内してもらうぞ?」
英治朗はそう言って、早速、事務所の担当者の元へ行き、声を掛けるのであった。
案内された部屋は2DKの部屋で、家具は全て揃っている。
2人で暮らすには丁度---。
「おい、ライジン。よくよく考えたら、お前、自分の拠点があるだろ!!」
「バレちった」
舌をペロっと出すライジン。
(くそ、あざと可愛いなー)
英治朗はそう思いながら、備え付けのテーブル椅子に座る。
ライジンはその向かいのそれに座る。
「実はね。例の女勇者が『マーガレット見付けたかもしれない』って言ってたから、もう少しで戦いは終わると思うんだ」
ライジンはそう口を開いた。
英治朗は返す。
「……なんだ、余計に戻らないとダメじゃねぇか?」
「ううん。多分、マーガレットは今度こそ、殆ど魔力が残って無い筈。……女勇者1人でも大丈夫だと……思う」
少し言葉を詰まらせながら言ったライジン。
英治朗は少し考える。
「……俺って未だ最終兵器なのか?」
「え、違---!」
英治朗は溜め息を吐く。
「あー、まぁ、な。---いやー、どうも俺は“吸精”され過ぎて、魔力不足どころか魔力がスッカラカンみたいなんだわ」
これにライジンは固まる。
「え?」
英治朗は頷く。
「と言う訳で、実は俺、種無しどころか魔力無しです〜……。---ってなんてね?」
ライジンは真っ白になって、
「ーーーーーーーーー!」
声無き声を出す。
英治朗は「あ、あはは」と引き攣った笑顔をする。
しばらく2人はそうして固まっていた……。
ライジンは『九条•ライジン•蘇芳』と言う名前で冒険者登録をさせられた。
由良は、英治朗の本名が以前、『九条蘇芳』だったのを流用した。
実の父親は九条家と言う貴族であり、忍者家系の母親が九条家へ嫁入りを最初にしたのだが、色々あったお家騒動で、急遽、実の父親が石田家へ婿入り。
名前も、その時に大人の事情とやらで変えたのである。
兄は変わらず『九条慶次郎』だったらしいが……。
「なんで先代魔王……次期魔王のボクが冒険者を?」
「社会勉強だ」
「むう……」
「ま、一緒の部屋に居たいなら働け」
「判った」
英治朗の意図が読み取り切れないライジンだったが、
「同棲って奴?」
「居候だ」
「むう!」
イケメン新人冒険者と噂されている英治朗と仲睦まじく居る姿に、他の女性冒険者から地味に目を付けられるのであった……。
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