第14話 三角関係?

 こう言う時、謎に部屋の窓が都合良く空いており、幾つかの“羽根”が舞う。




 英治朗はゆっくりと起き上がり、立ち上がる。


 ライジンもそれに続いて起き上がる。



 幾つかの羽根は部屋の一ヶ所で渦を巻き、少し大きな風が起きる。


 徐々にそれが大きくなる。



 その瞬間。



 眩い光りと共に人の姿が現れ、直ぐに発光は落ち着く。





 志和だった。



 英治朗は驚く。



「……参ったなぁ。俺、何か約束、すっぽかしたか?」



 しかし志和の目線は英治朗ではなく、英治朗の下で服従のポーズをしているライジンへ向けられている。



 ライジンはその視線に気付いたのか、


「おやおや、荒いお出ましだね?」


「……」



 志和は答えない。



 ライジンはドヤ顔で、


「もう少し、淑女らしい……忍者らしい登場をしたまえ」


 そう言いながら起き上がり、『エッヘン』と言う仕草も加える。



 志和のはドスの効いた声で言う。


「……警告しとくわ、泥棒猫」


 ライジンは少しビビるが、飽くまでも余裕で返す。


「泥棒猫とは心外だなぁ〜。---スマホの名義人になって良い気になってる?」


「煩い。---今に見てなさい」


「ふーん……。---嫉妬?」


「っち。---自分の胸に聞きなさい?」



 志和は見下したかの様に言うが、ライジンは応戦する。



「過去の女の癖に」


「はぁ〜〜〜……。---やっぱりアンタと取引きするんじゃなかった」


「ん?---ああ、そうだったね。ごめん、冗談だよ。こんな応戦をしている場合じゃなかった」



 ライジンは何かを思い出したかの様に言いながら立ち上がり、部屋の置き場から自身のウエストポーズを漁る。



 すると、そこから慶次郎の形見の魔装具を取り出す。



 英治朗は、


「おい、まさか……」


「ん?適任者に渡せって言われたから、買取りを頼んだの」


「…………そうか」


 少しだけ、自身の発言を軽く後悔した。


「んー、やっぱり要る?」


「いや、要らん。---宝の持ち腐れだ」



 英治朗は首を横に振る。


 ライジンは少し英治朗に顔を覗き込む。



「……そう。---晴れない顔をしてるけど?」


「気にするな。少し寂しいだけだ」


 英治朗はそっぽを向く。


 ライジンは少し考えながら、


「……そっか。」


 と、言いながらそれを英治朗に見せる。


「ごめんね、サキュバスは、形見とかモノに執着する文化が無いから……」


「いや、マジで気にするな。これが怪しい商人なら止めるが、志和なら大丈夫だ」


 英治朗は志和を見る。


「判った」


 魔装具を持って、志和の元へ行く。


 魔装具と同時引き換えで、ライジンは逆に分厚い茶封筒を3つ分受け取る。


 その内2つを英治朗に渡す。



「はい、コレ。エージの取り分」


 ライジンの英治朗に対する呼び方に反応する志和。


「え、エージ、って……」


「……何?---ああ、この国では下の名前で呼び合ったり、その愛称は少し特別みたいだね?---私からすれば普通だけど?」


「……」



 ここで英治朗がライジンへ釘を刺す。



「志和をあまり虐めないでくれ」



 これにライジンは、


「……はいはい」


 と、つまらなさそうに言うが、それ以上は喧嘩を売らなかった。


 そのままライジンは英治朗の影に隠れて顔だけ出す。


「よく判らない喧嘩をすんなよー?」


「煩い、エージ!志和の肩持ってから!浮気者!!」


 ライジンは英治朗の背中をポコポコ叩く。



 英治朗は志和をチラッと見る。



「何?---別に付き合ってる訳じゃないんでしょ?エージは」



 志和はニコっと笑うが、目が笑っていないのがどことなく怖い。





 過去、肉体関係だけ持っていた相手。



 別に解消をした訳ではない。


 むしろまた再開をするなら、その前にキチンと想いを伝えたい。



 しかし、英治朗は抜け忍になったのが負い目となって、何もその手の話しが出来ていない。





 ライジンは、しばし見つめ合う英治朗と志和の姿に「むぅ〜」と、ヤキモチを焼く。


 尚且つ、面白く無いので、英治朗にもう一度、札束封筒を押し付ける。



「はいコレ。大切に使ってね」



 英治朗は少し『はっ』っとなる。


「お前が使え。その魔装具は兄貴がお前に託した代物だ」


「良いんだ。私がそうしたいから」



 ライジンの気迫に押されて英治朗は渋々受け取る。



「……判った。大切に使う」


 そう言いながら、次に部屋の金庫へ入れた。



 それが仕舞い終わった英治朗は志和に尋ねる。


「……んで、お前はソイツをどうするんだ?」


「藤堂家へ返して貰った様なモノよ。厳重に保管するだけ」


「じゃあ、過去にコレを売り飛ばした人物が居る?」


 英治朗は魔装具を指差す。


 志和は頷く。


「ちょっと語弊があるけど、昔はこうした魔装具を作って売って稼いでいた時代があったから、厳密に言うと『販売してた』、かな?」


「成程。……大分、昔の話しだな、それは」


「魔法が完全にロストテクノロジーとなったら博物館でしか価値が無くなるけどね」


「……魔素が空気中にある限り、大丈夫だろ?」



 志和は横に首を振る。



「最近の研究で、その魔素が枯渇しかけているのよ」



 これに英治朗とライジンは頷く。



「んー、まぁ、だろうな」「そだねー」



 志和は続けて言う。


「って言っても、魔素って言うのがどこから発生して空気中に流れて来るかって話しよ」


 英治朗は答える。


「魔族領、じゃないのか?」


 志和は頷く。


「そうね。半分は正解。---でも、その魔族領で一時期、開発が大きく進んだ時期があるでしょ?」


 これにはライジンが答える。


「ああ、私の前世の時だね。9割が未開の地を7割位にした時かな?」


 志和は首を横に振る。


「残念、現在の魔王、マーガレットになってから、残りが4割から3割にまでなりました」


「何⁉︎」


 ライジンは更に驚く。





 志和の家、現在は藤堂と名乗っているが、元々は魔族領へ住んでいた。



 その血筋は古くからあり、魔族の中でも高貴で少し長生きの種族である。


 魔法、魔術、魔素、魔力等々、『魔学』と称して長年研究をしていた。


 本家は魔族領にある且つ、本家も今もそうした研究をしつつ、日本帝国の分家とも情報共有をしながら、技術開発をしている。



 それが最近になって本家、分家共に、急な魔法力の低下に気付きいち早く調べるも、既に手遅れであった。





「魔族領から発生する魔素の大幅な減少で、魔法や魔術に対する興味を人々、特に人間族は急速に失ったのよ。---誰かに言われるもなく」



 この国の政治家や公安組織は既に多くの魔族に乗っ取られているが、


「---そこに居るライジンが遺伝子組み換えちゃったせいで、人間族と同じ様に、遺伝子組み換え魔族も魔法に興味を失っちゃったのよ」


 志和は静かに言う。


 ライジンは唖然とする。


「え……、そんな……」


「だから、今、逆に魔素が急激に減った時期と、人々の心変わり、その他で何か行事や動きが無かったか調べたらビンゴだったのよね」


「ま、まさか……⁉︎」


 ライジンは察したのであろうか。


 焦燥が見える。





 志和は藤堂家が予測している事を言う。


 別に今更、どうしようも無い、取り返しが殆どつかないので。





「恐らく、魔族領を開発する事に寄って、何らかの理由で魔素の発生が薄くなった。又は弱まった。或いは……」


 少し間を置いて言う。





「---完全停止をした」

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