第1話 突然の出会いとお誘い その1
---久し振りね、エージ。
『え、いあ……、何で⁉︎』
---あらら、何を挙動不審になってるの?
『いや、なんだか久し振り過ぎて---』
---もう、しっかりしてよね?
「え、お前、魔王辞めたのか⁉︎」
「はっ⁉︎夢?か?」
石田英治朗は目覚まし時計で起きる。
「何だか、面白おかしい痴女に引っ掛かってた気がしたけど……。---知り合いには居ないなぁ」
モソモソと動いて、寝不足から出る。
次にテントから出る。
空を見ると、どんよりとした雲が広がる。
「……何だか、雨と一緒に嫌なモン、持って来そうだな」
魔王が人間族へ寝返り、当時の勇者が魔族を守ると言う、構図が生まれた時。
人間族は急速な科学技術の発展を目まぐるしく行った。
そこには魔法や魔術は殆ど不要となり、魔族も人間族も徐々に魔法力を失いつつあった。
魔法の発展は科学の衰退。
科学の発展は魔法の衰退。
それがよく判る構図となった。
魔族側は当時の勇者と共に、それでも抵抗を続ける。
寝返った魔王を倒すべく---。
その結果は、勇者の交通事故死と言う、呆気無い始末だった。
しかも、飲酒運転相手……。
そこから、魔族は殆ど侵攻する人間族の軍に対して抗戦状態となった。
英治朗はそんな世の中で、『どっちも付かず』な種族がひっそりと暮らす村で用心棒をしている。
以前は、日本帝国の諜報機関で忍者をしていた英治朗。
訳あって、今は抜け忍となって、英治朗自身も同僚に追われる身でもある……。
以前、そうして追われた際に怪我をし、逃げた先のこの村に助けられたのである。
以降、一箇所へ留まらない移動式のこの村で、半放浪の生活をしている。
用心棒その3として。
---少し前に、人間族で流浪の冒険者数名が襲って来たが、返り討ちにした。
しかし、1人取りこぼしてしまい、ソイツを起点に情報が回る事を懸念。
それが早くも、やむを得ず、今日が移動日となってしまったのであった。
“敵”が来たのである。
30数名程の、亜人種、獣人族、最近ではエルフ族も加わる3種族で村を形成していたが、村を畳むのに大慌て。
亜人種でも3士族、獣人族も2士族がいるが、子供も数名居り、皆んな手分けして撤収準備をする。
全てのテントを片付け、トラックと馬車に分けてその他多くの荷を積み込む。
移動用の小型バスにも全員乗り込み準備完了。
他の用心棒2人も乗り込む。
2人共ベテランだが、片方は過去の怪我から、前線では戦えないので、2人で協力しながら道中の護衛をする事に。
英治朗は最後、1人だけ残る。
狙いは恐らく自分故に。
『これ以上、自身が狙われるせいで、この村が余計な火中に巻き込む訳にはいかない』と言う訳で、英治朗は1人、この場に残って迎撃をする。
そして、そのまま村から抜ける作戦である。
村長へは既に伝えている。
なので、今日でこの村とはお別れとなった。
「来やがったか」
しばらくすると、機関砲を積んだ装甲車2台を含む、人間族の歩兵部隊が丘を越えて見えた。
見える範囲で歩兵はざっと10名。
パッと見は国防騎士軍。
「……あるいは冒険者自警団か」
狙いは英治朗の拿捕と、そのついでに村民の保護と言う名の奴隷化を目論んでいる筈。
英治朗は銃剣を構える。
部隊が止まる。
リーダーらしき人物が装甲車から降りてくる。
甘い顔をしたイケメンリーダー。
「やあヤアやあ。これはコレは。---捜索願が出ている石田英治朗様じゃないか」
わざとらしい、身振り手振りで言う男。
「……“様”は要らん」
「当主の座を捨ててまで、こんな辺境でモブをされているなんて---。お可愛い事」
「ほっとけ。---しかも、お前、よく見たら騎士軍でも、冒険者自警団じゃないな?……何者だ?」
「おや、気付かれましたか?」
「まーな?---でも、どの道、この前は先に手を出して来たのはそっちだ。言い掛かりを付けてな?」
英治朗は落ち着いて言う。
「既にバレバレでしたか。---はい。そうですとも。監視用のドローンと流浪の冒険者もシナリオ通りにしっかり仕事をしてくれました」
リーダーの男は跪付き、言う。
「---どうか、お帰りなさいませ、石田英治朗様。今、石田家はもう貴方無しでは統治は出来ません」
「おいおい、俺は抜け忍なんだが?---放っておいてくれ」
「ですが---!」
「判った判った。---判ったからさっさと帰ってくれ。俺は俺の道を歩む」
リーダーの男は立ち上がる。
「だろうと思いました。なので、今から実力行使といきます!」
ビシッと英治朗へ指を挿す。
「---突貫!」
装甲車と歩兵が動こうとした次の瞬間、
「ノーム、今だ!」
英治朗はリーダーの男へ指を挿す。
すると突如、歩兵と装甲車はゆっくりと地面に吸い込まれる。
精霊が作った落とし穴である。
リーダーの男は巻き込まれず、背後で起きた事が理解出来ずに、
「はひ?」
と、振り向きながら、間抜けな声を出す。
英治朗は銃剣でリーダーの男の足を狙い撃つ。
それは見事に命中。
「アババババ!」
感電したかの様に痺れたリーダーの男は倒れて気絶した。
英治朗が打ったのは、実弾ではなく、魔力の源、魔素を結晶化したモノである。
銃を媒体にして、『弾を発射する』と言うイメージを脳内で抱き、魔素の弾を形成。
引き金を引き、その魔素の弾、俗称、魔弾を射出する形になる。
空気中に魔素がある限り、英治朗がそうしたイメージを持っている限りはほぼ無限に打てる。
しかし、英治朗のイメージも徐々に別の物を想像し、時にはヒートアップするので、そうなれば望む弾が打てなくなる。
そうなると結局、クールダウンが必要である
特に、魔素に属性を乗せて打つ時は、ヒートアップしやすくなる。
暴発の危険性が無属性で発射する時より、4倍は高まる。
なので、属性を乗せるのは極力、限定的にしている。
英治朗は動けなくなったリーダーを拘束しようと近付くが、そこでまた一つ、嫌な予感がする。
腰にぶら下げている、魔石を原動力に使ったレーダーが反応
「何か飛んで来る⁉︎」
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