おあずけよぼくらのぜつぼう(5)
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雫は、体感にして一週間ほど檻の中に閉じ込められた。その間、ずっと檻の前にいた男と意思疎通をはかることに成功し、少しずつ言葉を習得しつつあった。
男の名前はハルンと言い、ここの奴隷の一人だ。次々と言葉を覚える雫を面白がって、空いている時間の全てを雫と一緒に過ごしている。
「ぼく、ここ、出る、したい。流静、一緒」
「|縺昴l縺ッ辟。逅?□縲√♀蜑阪◆縺。縺ッ螂エ髫キ縺?縺九i《それは無理だ、お前たちは奴隷だから》」
「ええと、無理、お前、奴隷…………」
理解はしたくないができてしまう単語の羅列に、雫は暗黒に沈み込むような気分になった。そうだよな、今、ぼくらは奴隷なんだ。
「流静、どうしてるかな……」
ハルンのおかげで、少なくとも流静が死んではいないことは確認できていたが、どういう状況なのかはいまいち判然としない。
むしろ状態がよくないのは雫の方だった。なんの治療も施されないまま放置された雫の背中は、じゅくじゅくと膿んで酷い有り様だった。常に発熱が続き、雫は座っていることすら難しく、ずっと硬い鉄の上に寝そべっていた。その冷たさが今は心地よいと感じてしまうほどだ。流れ出た膿はシャツに張り付き、乾いて、剥がそうとすると皮膚ごと持っていかれてしまう。当然、仰向けにはもうずっとなれていない。
日に一度の食事もまともに摂れず、薄いスープをかろうじて飲んでいる程度だ。もともと細い雫の身体は、ここにきて更に痩せ細っていた。そのせいで傷も治らず、そしてまた痩せてしまう。
それでもなお、雫は流静の心配ばかりしていた。
「雫、治療してもらえたかな」
一方流静は、あの謎の軟膏を塗られてからしばらく気絶して、目を覚ましたときには身体がすっかり軽くなっていた。どうやら効き目のきちんとした薬だったようで、背中を触れば痕は残っているものの、血や体液が手につくなんてことはなく、完全に治ったのだということがよくわかった。
「こんなところはファンタジーかよ」
硬いベッドの上でぼやいていると、扉が開いて、あの奴隷たちが再び入ってきた。
「遶九※、譚・縺」
何を言われているかはわからないが、身振り手振りで、ついてこいと言われているのだろうと推測できた。
「なあ、雫は?」
「菴戊ィ?縺」縺ヲ繧九s縺??」
「あー……わかんないよな。わかったわかった、行くよ」
流静はベッドから降りて、奴隷たちのあとに続いた。よく見ると、彼らにもそれぞれ首輪がついている。流静と雫につけられたものと同じだった。
流静が連れてこられたのは、また違う小さな部屋だった。奴隷の一人に、彼らが着ているのと同じシャツとズボンを渡された。
「着ろ……ってことか?」
学ランの上はすでにない。靴もなくなって裸足だ。けれどもズボンとベルトは、元の世界との最後のつながりだった。躊躇ったが、せっつかれるように何事か言われ、流静は渋々渡されたものに着替えた。着替えるとすぐに腕を掴まれ、部屋の外へ出された。
囚人みたいだ、と流静は思った。最初の手枷こそないものの、着替えさせられ大人たちに囲まれてどこかに連れていかれようとしているこの状況は、何が悪いことでもしたような感覚に陥ってしまう。
悪いこと、というのは、なんの能力も持たなかったことだろうか。せっかく召喚されたのに、魔力もなく、スキルもなく。
いや、でも。勝手に喚んでおいて期待と違ったらその辺に放り出すほうも悪くないか? いや絶対そっちのほうが悪い。おれと雫は悪くない。と、流静が考えていると、どうやら目的地についたようで、奴隷たちの足が止まった。
「ここは……」
そこは、中庭、のようなところだった。庭の真ん中には木製の人形が三体置いてある。その周りでは、流静と同じ格好をした人々が木剣を振るっていた。
「莉頑律縺九i縺薙%縺ァ、骰幃軒繧偵☆繧九s縺?」
「なんて?」
「……縺ィ縺ォ縺九¥、蜑」繧呈戟縺ヲ」
そう、木剣を押し付けられて、流静はなんとなく状況が飲み込めてきた。自分は、
流静は中学生まで剣道をやっていた、けれども特段強かったわけではなく、数合わせで試合に出ていただけだ。そんな自分が……? とは思ったが、従うほかにどうしようもない。今は大人しくしておこう、と流静は思った。
──それに、もしかしたらこれはチャンスかもしれない、とも。戦う奴隷ということは、外に出られる可能性があるということ。どうにか雫を見つけられれば、あるいは。
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