おあずけよぼくらのぜつぼう(4)
痛くて、痛くて、真っ暗な中で必死に走った。あいつがいない。どこに行った? お前がいないと、ぼくは────
雫が目を覚ますと、たちまち鋭い痛みが背中を貫いた。反射で身体を丸めると、皮膚が引き攣れたようにびりびりとして、皮膚が破れるのではないかと思え、慌てて元の姿勢に戻った。
地面は固くてひんやりしている。あの鉄の檻だった。
「りゅうせい? どこ?」
見回してもいない。隣の檻にも、その隣にもいなかった。痛む身体をどうにか動かして、檻にすがって立ち上がる。その動作だけで息が上がった。
「流静!」
「縺?k縺輔>!」
がん、と檻を叩かれた。見ると、シャツの男の一人だった。
「ね、ねえ! 流静を知りませんか! ぼくと一緒に連れてこられた人です!」
「菴戊ィ?縺」縺ヲ繧九°繧上°繧薙?縺医h」
男は困惑したようにそう言うと、檻に背をもたれて座った。それ以上会話する気はないようだった。
「流静……」
親友が隣にいないだけで、こんなにも心細く、つらい。雫は檻を掴んだままずるずると座り込んだ。年季が入っているのか、錆が手のひらを汚した。
流静は、地下室から出され、学ランを脱がされて、手枷も外された。自由にはなったものの、背中の痛みで抵抗どころではなく、されるがままに脂汗を流していた。
「襍キ縺阪m」
地面に転がされていた流静の足を蹴ったのはやはり流静たちを買った男。
「うぅ……」
流静は呻くことしかできない。男は、業を煮やしたように流静の左腕を掴んで持ち上げた。そのままずるずると引き摺られる。
「豐サ逋ゅ@縺ヲ蝗槫セゥ縺輔○繧」
男が他のシャツの男たち──奴隷に何事か命じると、奴隷たちは包帯と軟膏を手に持って、流静の治療を始めた。火傷跡に緑色の軟膏をべちゃりと塗り込み、包帯を巻く。その刺激すら流静にはつらくて、意思とは関係なく涙が出てきた。
「はーっ、はーっ」
荒い息を吐いて、どうにか落ち着こうとする。奴隷たちはそんな流静の腕を支えて、無理やり立ち上がらせた。足に力が入らないから、ともすれば崩れ折れそうになる流静を一瞥した男は、「騾」繧後※陦後¢」と向こうを指さした。
「縺ッ縺」
と奴隷たちは返事をして、流静を抱えて奥の、木の扉の部屋に入っていった。
そこは簡素なベッドが所狭しと並んでいる部屋だった。そのひとつに流静を寝かせて、奴隷たちは去っていった。枷もなく、見張りもいない。けれども、流静は息をするのがやっとで、そのまま、再び意識を失った。
雫は、ずきずきでは済まない痛みの背中を抱えながら、檻の外の
「すいません」
「縺?k縺輔>」
これは、さっきも聞いた響きだ、と雫は思った。もともと外国語に興味があり、独学で何カ国語か勉強している雫にとっては得意分野だ。教科書もなにもないが、やってやろうではないか。
「ぼくは雫と言います。あなたは?」
「繧上°繧薙?縺医▲縺ヲ」
流静は、痛みと苦しみの合間に、今までの出来事を思い返していた。学校からの帰り道、不思議な光が流静と雫を包みこんで、あまりの眩しさに目を瞑った次の瞬間には、二人はこの世界にいた。呆然としている二人を後目に、二人を喚んだらしい大人たちは、二人には理解できない言語で喜んでいた。
二人は何がなんだかわからないまま床に座り込んでいた。二人を気にかけてくれたのは、ドレスを着た少女ただ一人だった。それも、何を言っているのかまではわからなかったが。
ようやっと言葉が通じていないと気付いてもらえたときは心底安堵した。翻訳機をもって、理解できる言葉が脳内に響いたときには更に。
言葉が通じたことを確認して、この世界で起こっている
だけどもその直後、神官の持ってきた、魔力を測る道具に手をかざしたとき、その道具がなんの反応も示さなかったことで、周囲の空気がガラリと変わった。
「
そう、誰かが言ったのが聞こえた。
それからすぐに翻訳機は取り上げられ、城から放り出されたのだ。一方的に喚んでおいて、見知らぬ土地へ放り出すなんてどうかしていると思うが、そんな文句を言う暇すら無かった。
せめてこの国の治安の説明くらいしてくれれば、今
「う、ぐぅ……ッ」
なにか考えて気をそらしていないと痛みは増すばかりだ。一体何を塗り込まれたのだか。金銭の取引によって身柄を引き渡されたのだから、まさか殺されるようなことはないだろうとは思いつつも不安は拭えない。
ああ、雫は無事だろうか。常識も、言葉すら通じない世界で、唯一になってしまった親友を思った。
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