幕間 あざみ

「これなーんだ?」


 渚が部屋で待っていてというのでベッドに腰掛けていた。

 彼女はトレーの上のサラダボウルに入ったテニスボールより小さいくらいの丸くて刺々しい宇宙植物みたいなモノを見せてきた。


「なんだろう? 花の蕾かなにか?」


「正解~。食べられるあざみなんだって」


「ああ、そういや文化祭の時に園芸部で熱心に話を聞いてそんなの買ってたよね」


 彼女が鈴音ちゃんを追いかけていったときにレジ袋を置いて行った。

 あれを僕が持ってったっけ。


「ふふっ。実はネットの小説で見て、一度食べてみたかったのが丁度うちの園芸部で売ってたから買っちゃったの。アーティチョークって言うんだけどね、ちょっと茹でるのが大変だった」


「へ~。美味しいんだ?」


「そんなに美味しくは無かったかなあ。真ん中はお芋みたいだったけど」


「そか、残念だったね」


「ううん、そうじゃなくてね。ちょっと食べてみて」


 渚は食べ方を教えてくれる。がくを一枚ずつ剥いでマヨネーズをちょこっとつける。ただ、がくそのものは食べなくて柔らかい部分をこそぎ取って食べるらしい。がくの裏に彼女の歯形が付く。ちょっとかわいいななんて思っていたら、やってみてと。


「なんかこれ……苦くない?」


「苦いよねっ」


 渚は笑う。

 にこにこと。

 彼女の意図がどこにあるのかよくわからなかったけれど、まあ、楽しそうだからいいかな。













 ――なんて考えていた僕が甘かった。


 とにかく甘かった。

 何を舐めても甘い。

 特にキスの甘さは格別だった。

 彼女の唾液が蜜のように甘かった。

 いくらでもキスできる。

 そもそも自分の唾液さえ甘かったんだ。

 大好きな渚の唾液が甘くないわけない。



 結局そのあざみに魅了されてしまった渚は、プランターでは根が深く張るから育てられないと園芸部で聞いて、うちの庭に種を撒きに来る始末だった。


 それはいいけどこれ、僕が世話するの?







--

 こちらで第一章完となります。応援ありがとうございました!


 予定ではメインのネタがもうひとつあるのですが、ラレそうな雰囲気を醸し出すためちょっと丁寧めに書いていたら量が増えてしまいました。分けたメインの方を第二章として書いていますが、どの程度のボリュームで書くか考えずに書いています。当初は全四話くらいで雑に終わらせるつもりだったんですけどね……。


 最後、渚SIDEのエピローグ的なものを書いて終わらせようかと思っていたのですが、ネタ的には結構まだ書きたいものもあったりします。なので、エピローグだけ最後に置いたままで気が向いたときに間の章を書くか、エピローグ無しで気が向いたときに書き足していくか悩んでいます。エピローグには多少の種明かしも含まれますし。


 二人の関係は第一話で完結していますので、恋愛をテーマとした大筋があるわけでは無く、小さなネタの積み重ねでしかありません。全体としてみればヤマもオチもなく、その代わりに各話毎、不安な引きをせず、安心できるところまでは落ち着かせて引いています。そんな構成の小説でも宜しければちまちま書いてみますがどんなものでしょうね?


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