第2話 ホラーゲーム。

 僕は小学三年生の時、おばあちゃんのお見舞いに行く日に風邪をひいた。その時に体調管理をちゃんとしようと決めた。


 あれから三年が経ち、小学六年生になった僕は、あの日以降一度も病気になっていない。


 そして今日から夏休み。時刻は午前十時。僕は今、力也君の家に勉強会兼遊びに来ている。力也くんの家には僕たち以外に、力也くんの母親と妹がいる。


 力也君は最近、最新の家庭用ゲーム機を購入した。僕はゲーム機を持っていない。羨ましい。


「よ〜し。おまえたち驚けよ。映像がめっちゃ綺麗だからさ」


 僕以外にも力也君の家に遊びに来ている友達がいる。凛子ちゃんと由希子ちゃんだ。


 力也くんの部屋のテレビに繋げたゲームを起動する。ゲームが始まると、不気味な音楽と映像が流れた。


「な、なにこれ?! 絶対に怖いゲームじゃない!」


「ん? そうだけど、凛子、ビビってんの?」


 凛子ちゃんは怖がっている。力也くんはニヤリと笑った。


「あ、当たり前じゃない! 由希子ちゃんも怖いのは嫌だよね!」


「え? 私は全然平気だよ。私がホラー系を好きなの凛子ちゃん知ってるよね」


 由希子ちゃんはにっこりと微笑んだ。


「テツは怖いよね! 怖いの苦手だったよね」


 凛子ちゃんは僕に尋ねる。


「そうだね。僕も少し苦手かな」


「だよねだよね! じゃあ、今すぐやめよ。他のゲームないの?」


「ゲームはこれしかない」


「私もこのゲーム見たいな」


 由希子ちゃんもホラーゲームに興味心身だ。


「分かった、分かりましたよ! 私とテツは夏休みの宿題するから! ゲームは二人で楽しんで!」


 凛子ちゃんは僕の手を掴み、部屋の中央にある机へと連れて行く。


「テツ、一緒に宿題しようね。あの二人には絶対に見せちゃダメだよ」


「う、うん。分かった」


 僕と凛子ちゃんは宿題、力也君と由希子ちゃんはゲームに分かれた。だけど、凛子ちゃんは気になるのか、チラチラとテレビに映るゲーム画面を見ている。怖いもの見たさというやつなのだろう。


「あ、やられた」


「これって全然怖くないね」


「だなー」


 力也君と由希子ちゃんがゲームをしながら話をしている。僕もゲーム画面を見ているけど、突然出てくるお化けが怖すぎて、おしっこちびりそうになる。怖がっていない二人は頭がおかしい。


 僕の隣で勉強の手をとめ、ゲーム画面を見ている凛子ちゃんは僕の腕にしがみついている。時折、『ひっ』と小さな悲鳴をあげている。


「由希子、そろそろ俺たちも宿題するか」


「そうだね」


 一時間ほどゲームをしていた二人はこちらに来て、夏休みの友を机の上に広げた。


「……う〜。二人は異常だよ。アレが怖くないって、すごいよ。私すっごく怖かったよ〜」


「凛子ちゃん、あれはゲームだからだよ。本物だと私も怖いよ」


 由希子ちゃんは怖いと言いながらもニコニコな笑顔だ。


 それから四人で真面目に宿題をした。お昼ご飯は、力也君の家でそうめんを食べて、午後三時になると解散して自分の家へと帰る。


「凛子ちゃん、テツ君、また明日ね」


「うん。由希子ちゃん、また明日」


「はーい。由希子、また明日あそぼー」


 力也君宅の隣に住む由希子ちゃんと別れて、僕と凛子ちゃんは並んで歩く。


「あのゲーム、怖かったね。夜中に目が覚めてトイレに行きたくなったら、私、行けるかなぁ」


 凛子ちゃんはよほど怖かったのだろう、夜の心配をしている。僕もちびりそうなくらい怖かったので、夜一人で寝れるのか心配になってきた。


「テツ、手をつないでもいいかな……考えていたら怖くなってきた」


「え? あ、うん。いいよ」


 僕もホラーゲームのことを考えていてら怖くなっていた。何もないと思うけど後ろを振り返るのが怖い。


 凛子ちゃんが差し出した手を握った。すごく安心する。恐怖心が薄らいでいくのが分かる。


「えへへ。テツがそばにいると安心するね」


「うん。二人だと怖くないよね」


「……そういう意味で言ってないから、テツってそういうところあるよね」


「そういうところって何?」


「もう……知らないっ」


 凛子ちゃんは頬を膨らませ僕を見ている。意味が分からない。


「テツ、来年から中学生だね。楽しみだなぁ」


「うん。そうだね」


「その次は高校生かぁ。みんなバラバラになるのかなぁ」


「みんな一緒の高校に行きたいよね」


 凛子ちゃんは少し寂しそうな表現をしている。僕はそんな先のことは考えたことはなかった。中学生は今の校舎と同じだからみんな一緒。高校は島にない。島の子供は本島の高校に行く。


 しばらく歩くと凛子ちゃんの家に到着。つないでいた手を離した。


「テツと手をつないだおかげで、怖かった気持ちもなくなったよ。ありがと。また明日会おうね」


「うん。また明日、バイバイ」


 凛子ちゃんは手を振って家へと入っていく。僕は自分の家へと歩き出した。


 歩きながら凛子ちゃんとつないでいた手を眺めた。まだ温もりと感触が残っている。心がドキドキしている。ホラーゲームの怖さはもうない。凛子ちゃんのおかげだ。


 一人になった僕は、商店街を通り無事に家へと帰った。

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