第3話 中学二年の夏休み初日。

 僕は中学二年生になった。そして今日は夏休み初日。時刻は午前十一時。僕は今、力也君の家に勉強会兼遊びに来ている。


 力也君の部屋には僕と力也君の男二人。部屋はエアコンが効いて涼しい。宿題もはかどる。


「……なぁテツ」


「力也君、どうしたの?」


 数学の宿題の手を止め、力也君が僕を呼ぶ。


「高校は俺たちバラバラになるよな……」


「そうだね。高校に進学するときには、みんながバラバラになることが普通だと思うよ。それぞれが自分の進路を選ぶんだからね」


「だよな。バラバラになるよな」


 力也君は神妙な面持ちをしている」


「力也君、どうしたの?」


「俺さ……今年の夏祭りに由希子を誘って、告白しようと思ってるんだよ」


「え?! いきなりどうしたの!?」


「俺ってさ、バカだろ。由希子と同じ高校に行きたいけど、行けないよな。あいつさ、すげー可愛いからさ、本島の高校に行ったら絶対モテるだろ。すぐに彼氏ができると思う。だから告白するなら受験勉強が本格的に始まる二年生の今だと思ってさ」


「なるほどね。うんうん。僕は力也君を応援するよ。勉強もさ、今から頑張れば大丈夫だよ。僕も手伝うからさ」


 僕の今年の夏休みは通年通り用事はなにもない。家族旅行や外国からのホームステイなど一切ない。だから、力也くんに全面協力できる。


「テツ、サンキュな。俺頑張るよ。テツはどうするんだ?」


「え? 僕が何? どうするって?」


「テツは凛子に告白しないのか?」


「ぼ、僕は……」


 僕と力也君はお互いの好きな女の子のことは知っている。


「テツ、さっきおまえが言ったよな? 高校はバラバラになるのが普通だってな。由希子より劣るけど凛子も可愛い。高校に行ったら絶対にモテる。すぐに彼氏ができると思うぞ。その時にお前は後悔しないのか?」


 力也君は真剣な眼差しで僕を見ている。


「僕は……うん、僕も告白する! そうだよね、今しかないよね」


 力也君は僕の返事を聞いて安堵した表現を浮かべた。


「ふぅ。良かった。実を言うと、一人で告白するのは心細かったんだよ。だからテツも一緒だと心強いな」


「僕のほうこそありがと。力也君が言わなければ、僕は凛子ちゃんに告白することはなかったと思う。告白すると決めても、その時になれば、絶対にオドオドして出来ないと思う」


「だな。テツも告白していると思えば、俺もしなければと後押しされる。テツ、俺のわがままを聞いてくれてありがとな。さすが親友だ」


 力也君の考えと僕の考えは同じだ。たとえ周りから一人では告白も出来ないヘタレと言われようが、行動を起こせないよりも万倍もマシだ。


「よし、告白は半月後にしよう。毎年神社で行われる夏祭りがいい。今年は花火の打ち上げもあるらしいから絶好の告白日和だな」


「うん、そうだね。雰囲気ってだいじだよね。僕も頑張るよ。結果はどうなるか分からないけど……」


「結果か……そうだな。お互いどういう結果になろうと後悔はしないな。よし、気合い入ってきた」


「ところで……力也君に言いたいことがある」


「なんだ?」


「凛子ちゃんの方が由希子ちゃんより数倍可愛いからね。それだけは絶対に譲れないよ」


「は? いやいや、由希子の方が可愛いだろっ。可憐で清楚で可愛くて性格も良いだろ。最高だろ?」


「何言ってるの? 凛子ちゃんは超絶可愛いよ。笑顔が最高だし、性格だって良いから。悪いけど由希子ちゃんはクラスで2番目に可愛い女の子だよ。もちろん一番は凛子ちゃんだよ」


「いやいや、ばっかやろう。由希子は島で一番可愛いんだよ。凛子のほうが二番だ」


「いやいやいや、一番は凛子ちゃんだね」


 その後、僕たちは宿題をせずに、凛子ちゃんと由希子ちゃんのどちらが可愛いのか一時間ほど話し合った。そして、どちらも同じくらい可愛いという結論に至った。


「ふぅ……テツ、二人が同じくらい魅力的なのは十分に分かったな。だから、なおさら告白をしなければマッズイこともよく分かった」


「そうだね」


 力也君の話に僕はうなずいた。


「だけどなテツ、毎年四人で行ってるけど、今年は誘っても二人から断られる可能性はゼロじゃないよな?」


「う~ん……確かにその可能性はあるよね」


「それに、告白するならフラれたくはない。テツもだよな?」


「うん。もちろんだよ」


「よし、じゃあ今年の夏休みは四人で会う機会を増やそう。自然に距離を縮めていくんだ。それで告白の成功率を高めていこう」


「なるほど。力也君は頭がいいね」


「はは、褒めても何も出ないぞ」


 力也君は笑いながら答えた。


「告白は夏祭り。決まりだな。テツ、頑張ろうな!」


「うん! 力也君、がんばろ~」

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