並行世界の二人はハッピーエンド。

さとうはるき

第1話 僕はおばあちゃんのお見舞いには行けなくなった。

 ――ピピッピピッ。


 ベッドに寝ている僕は、脇に挟んでいた電子体温計をお母さんに渡した。


「三十七・四度。今日は静かに寝てるのよ」


「うん。そうする」


 今日は金曜日。現在の時刻は午後四時。小学三年生の僕は風邪で学校を休んでいる。小児科病院には午前中に行き、診察をしてお薬を貰っている。


「う~ん。明後日のおばあちゃんのお見舞いには行けないわね。お父さんだけ行ってもらいましょ」


「えっ!? 僕も行くよ」


「ダメ。お母さんと家でお留守番よ」


 離島に住む小学生の僕は、本島に気軽に行くことができない。不謹慎だけど、お見舞いに行くと、おばあちゃんはお小遣いをくれるのでワクワクで会いに行く。しかも帰りはデパートでオモチャコーナーの見学と外食ができる。


 楽しみだったお見舞いには絶対に行きたかった。


 お母さんが部屋からいなくなるとショックな僕は落ち込んだ。これでは治る病気も治らない。


 ――コンコン。


 部屋のガラス窓からノックをする音。窓の向こうには同級生で幼馴染みの三人がいた。酒本凛子ちゃん、剛田力也くん、白神由希子ちゃんが手を振り、僕を見ている。


 僕はベッドからおりてみんながいる窓へ行く。病気をうつさないために窓は開けない。


『テツ、元気か~。大丈夫か~』


「うん。だいじょうぶー」


 力也くんが窓越しに僕に話しかける。


『早く病気治してねー』


『元気になってねー』


「うん」


 凛子ちゃんと由希子ちゃんも心配してくれている。みんな優しい。早く病気を直そう。心配させないように今後は体調管理をしっかりしよう。


 三人は手を振り去っていく。僕はベッドに戻り仰向けに寝ねた。明後日のおばあちゃんのお見舞いに行くのは諦めよう。おとなしく寝て一日でも早く病気を治さなきゃね。


 ◇◆◇


 そして、おばあちゃんのお見舞いに行く日曜日、僕の風邪は治った。だけど僕はお見舞いに行けなかった。治ったばかりで無理をしてはいけないと両親に止められた。僕は素直に従った。


 日曜日は部屋でのんびりと過ごした。ベッドでゴロゴロ。僕は家庭用ゲーム機は持っていない。欲しいけどお高くて僕には買えない。サンタさんにお願いしても無理だった。


 のんびりするのも飽きた。暇すぎる僕は勉強机の椅子に座り、学校の勉強をする。他にやることがない。


 結局、おばあちゃんのお見舞いに行く予定だった日曜日は、親以外誰にも会わずに勉強三昧で終わった。

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