自分が嫌いな私

自室に入るとむわぁとした空気が肌にまとわりついて不快感を煽る。

ふっ、と自嘲気味に笑みがこぼれたと思ったら、涙が両目にふっくらたまってきて眉をギュッと鼻に寄せるとぽたぽたと床に数粒落ちた。

心の中で暴れ回る乱暴な感情、破壊衝動、部屋のものを全部壊してしまいたい、でも私は泣いている。

自分が怒っているのか、悲しいのか分からずぐちゃぐちゃな感情に支配されてどうしたらいいのか分からない。

ぽたぽたと床に落ち続ける涙、部屋に入ってしばらく扉の前で立ち尽くす飼い主を不思議に思ったのか、どこかで寝ていたらしい猫がニャーと言いながら足にすりすりしてきた。

かわいいと、思えない。

蹴り飛ばしてしまいそうになる。

そんな自分が異常に思えて恐ろしくなる。

こんなんじゃ私を殴って発散している兄と同じじゃないか。

何が違うんだ。

黒く蠢く凶暴な感情に支配されて、近くにあったプラスドライバーを手に取り部屋の壁に『しね』と傷をつけた私は、兄と何が違うんだろう。

みんなが猫をかわいいと思うように自分も思えない、普通じゃない自分が怖い。

母親にうまく自分の気持ちを伝えられない私も、友達とうまく付き合えない私も、物事から逃げてばかりいる私も、兄に勝てない私も、反抗して生意気で可愛くない私も、手首が傷だらけで汚い私も。

全部全部大嫌い。

自分が一番自分のことを好きにならなくちゃいけないよと誰かが言ったけど、どうしたらいいの?

どうやったら好きになれるの。


ーー人に頼らない選択をしているのに誰も助けてくれないと泣いているように見えるよ

ーー本当に言ったのか?助けてくれなかった?違う方法は試した?

ーー自分の持てる力全て使ってダメだったなら諦めるのは分かる。でも、藤崎は絶対にそれをしていない。だって最初から言っていないから。相手が気づいて動いてくれるのをまってる

先生の言葉が頭の中に響く。


助けて。

分からない。わからないです。

立っている力もなく泣きながらその場に蹲る。

飼い猫のみーちゃんは、変わらずそばにいて私を温めてくれた。

その温もりに触れてさらに涙が溢れる。

心が汚くてごめんなさい。

ちゃんと出来なくてごめんなさい。

かわいくなくてごめんなさい。

鬱陶しくてごめんなさい。

大人になれなくてごめんなさい。

いい子になれなくてごめんなさい。

生まれてきてしまってごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

先生へ 朝日奈 雪蒔 @yukitubaki0219

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ