図星だったから
痛い。助けて。泣いても泣いても誰にも届かない。泣いているのは幼い私か、昨日の私か。
いつの私が泣いてるのか分からない。いつの頃も私は殴られてばかりだ。
脳内でリフレインされる兄の暴言、暴力、迫ってくる兄の悪魔みたいな笑みから私を救ってくれ。助けてくれ。顔の近くで叫ばれるんだ。飲み込まれそうなんだ。助けてくれ、誰か誰か。
深呼吸しても、粟立った心臓は鳴り止まない。
スカートのポケットの中に手を入れ、カッターを取り出す。
刃をのばし、左手首にあて力を込め、引く。
「…っ」
鋭い痛みに頭がぼやけていると、切った線から赤い血が静かに滲んでくる。
その行為を2、3回繰り返す。
血を見た途端生きていると安堵する。
そうだ、誰も助けてくれないんだったと冷静になれる。それでも生きていられてる。まだ、生きてる。
生きていることを許してもらえている気分になる。死にたい死にたいと思って手首に刃をあてるのに、そんなので死ねるなんて思っていない。
高まっていた熱が徐々に引いていき、自分の暴力的な毒が抜けていくような感覚に救いを求める。溺れかけの海の中でやっと空気を吸えたような錯覚を覚える。
私は小学校卒業した辺りから、手首を切るようになった。兄に殴られたあと、友達と喧嘩した後、母親と言い合いをした後。自分を上手くコントロールできない時。
心の痛みを具現化してるんだという気持ち、落ち着きたいという気持ち、逃避のためにしているんだろうと思う。自分で自分に与える罰で、許しで、救い。
こんなことしていても、何も進めないのは分かっているけど、どうしても縋ってしまう私はとても弱い人間なんだと情けなくなる。
先生が言っていたことは図星だ。
『人に頼らない選択をしているのに、誰も助けてくれないと泣いている』
『相手が気づいて動いてくれるのを待ってる』
私は、いつも誰かを待っている。助けてくれる誰かを。誰でもいいわけじゃない。
誰かじゃないんだろう、母親に助けて欲しい。
見て見ぬふりをせず、助けて欲しい。でもどうやったら助けてもらえるか分からない。
しばらくぼーっと流れる血を見つめ、よし、と立ち上がり階下へ降り、トイレの前にある蛇口でティッシュを濡らして血を拭い、教室へ戻った。
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