腹の立つこともあったけど
「人の顔色を伺って、人の都合通りに動いて本当はこうしたくなかったんですと裏で文句を言う。でも、それを選んでるのは藤崎で、人に利用されるのは自然なこと。だって藤崎が簡単に動いてくれるんだから」
「つまり、今私がこうなってるのは当たり前なんだから文句言うなって事ですか?」
昨日のアザが燃えるように痛い。
「そういうこと」
「なん、で…なんで先生にそんなこと言われなくちゃいけないんですか?」
「藤崎が身動き取れなくなってるように見えたから」
痛い、痛い。どこが。本当にアザが痛むのか。心臓を先生に掴まれているみたいだ。
「藤崎は人に頼らない選択をしているのに、誰も助けてくれないと泣いているように見えるよ」
「どうせ助けてくれないくせに…」
低く呻く
「それだよ。その姿勢がダメなんだ。本当に言ったのか?助けてくれなかった?違う方法は試した?自分の持てる力全て使ってダメだったなら諦めるのは分かる。でも、藤崎は絶対にそれをしていない。だって最初から言っていないから。相手が気づいて動いてくれるのをまってる」
いつの間にか先生から笑みは消えて、黒い瞳が深く光っている。
「藤崎はさっき、大人は無責任ですよね。と言ったけど、藤崎と何が違う?どう違う?」
責め立てられて上手く思考が出来ない、怖くなってきて、息もうまく出来なくなってきて、涙が出てくる。
「分かりません…」
「君は無責任だね」
トドメの一言が刺さった。
先生は抑えていた教科書を閉じて、立ち上がりながら言った。
「藤崎、ここへ授業時間中に来ることを咎めることを俺はしない。君が安全だと思える場所は必要だ。けど、考えることはしてもらいたい。だから、宿題をだすことにするよ」
泣きながら見上げる
「宿題ですか…?」
「そう、宿題。君が今後生きやすくするための課題をひとつずつやっていこう」
めんどくさい…
「めんどくさそうな顔をしない、藤崎は本当にわかりやすいな」
先生は楽しそうに笑いながら、宿題なんにしようか。と独りごちる。
「うん、よし決めた。そうだな、藤崎が文句の言った無責任な大人と藤崎自身の違いについて、考えておいで。次に会うまでじゃなくてもいい。期間は決めないから藤崎のペースでゆっくり、でもちゃんと考えなさい」
「分かりました」
「うん、じゃあ俺は戻るから」
そう言い、先生は階段を降りていった。
私は文句ばかり言って、結局同じなんじゃないかと思えてきた。嫌いな大人たちと。自分が無責任だと罵る大人たちと何が違う。
「考えろ考えろ」
絡まった思考がまとまらず、考えようとすればするほど思い出されるのは兄の昨日の暴力。
『お前なんのために生きてんの?友達いんの?生まれてこなきゃ良かったのに、死ねよ』
リフレインされる暴言。忘れたくても、殴られる度に更新されるその言葉たちは、私の体を蝕んで、心を食い尽くしてしまったんじゃないかと思うぐらい、私まで暴力的な思考に染まる時がある。
助けて。ここから出して。
息が苦しくなり、お守りのようにスカートのポケットに入れてあるものを、スカートの上から握る。
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