第6話神宮寺の過去

神宮寺は悲劇の人生だった。

大学卒業後、大手の進学予備校講師として勤務していた。

分かり易い解説と持ち前のルックスの良さで、教え子からは人気者であった。

これからは、きっと予備校の未来を背負う人間になるだろう、同僚は思っていた。

しかし、彼に悲劇が起きる。神宮寺家は小さな運送会社であった。

会社と言っても、町工場に荷物を運ぶだけのトラックの運転手を彼の父親がしていた。

10トントラックで、長距離を運転していた。しかし、神宮寺が25歳の時に父親がた倒れた。

病名は肺ガン。

神宮寺は予備校を辞めて、大型運転免許を取得して、父親の代わりに長距離運転手になった。

だが、彼が運転手になってわずか3ヶ月で父親は亡くなった。

会社は畳む事になった。幸いにも父親の保険金で会社の後片付けをした。

もう、神宮寺は予備校に戻る気持ちはない。

予備校仲間からは、復帰の願いをしたが、神宮寺は首を横に振り、千茶トランスコーポレーションに運転手として入社した。

彼は英語に長けている。もちろん予備校講師の担当は英語だったのだから、トラック仲間がマニフェストとか読んでも分からない表現は、神宮寺が丁寧に教えていた。

入社して3ヶ月後には、運転手仲間達から人気者になり、「先生」と呼ばれるようになる。

それを、ずっと観察していたのが川口課長だった。

課長は神宮寺に声を掛けた。内勤で働かないか?と。

1回は断られた。2回も断られた。3回目では考えますと課長に答えた。

そして、神宮寺が27歳の時にまだ入社27年目の時に内勤に異動した。

課長の見る目に狂いはなく、現場とコミュニケーションを図っている神宮寺をお客様相談センターにとって居てもらわなくては困る人物になっていた。

積荷が不良だった場合、英語で書かれた文書を読み、元々不良品で会社のミスではない事を先方に説明している。

神宮寺には、歯科衛生士の彼女がいたが、中々結婚を言い出さない彼に愛想が尽き彼女は神宮寺から離れて行った。

女は都合が悪い男にはそっぽを向く。

しかし、吉田が神宮寺を好きであることを本人は、ただ嬉しいと感じるだけであった。

複雑な゙家族環境からの気分の落ち込みは受けたがそれを周囲は気付いていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る