第5話差し入れ作戦

朝、帰宅して爆睡した吉田が目覚めたのは夕方の4時であった。

胸を強調して、虜にする作戦は失敗した。

いいや、あれはタイミングが悪かっただけだ。

吉田は考えた。

『そう言えば、神宮寺さんは今夜が夜勤ね。夜中に行って差し入れと称して、もう一度、胸を強調する格好で会いに行けば、こっちの勝利は間違いないわ!』

吉田はシャワーを浴び、着替えた。

彼女は脚が長いのだ。そう、この子のスタイルはバツグン。

ただ、仕事が仕事だけに男勝りの業務をしているので、吉田を周りは女として見ていないだけなのだ。

その吉田は、神宮寺に恋をした。

布川のアドバイスをもらって、神宮寺を落とす事が最大の命題なのだ。

夜中12時頃。吉田はタクシーに乗り、千茶トランスコーポレーションは向かった。

ミニスカートに、タイトなTシャツ、そして寄せて上げるブラジャーでパイオツを強調した格好。

土曜日の夜の配送は終了している。

ICカードで、社内に入ると5階のお客様相談センター室のドアをノックした。


コンコンコン


「どうぞ」

と、神宮寺の声がした。

ガチャリ。

「先輩、差し入れ持って来ました」

神宮寺は吉田の装いに、多少は驚いたものの、

「なんだ、吉田か。こんな夜中にどうしたんだ?」

「昨夜は、川口課長の社史の説明を一晩中聴いて、仕事を覚える暇が無かったので」

「残念だな。今夜も電話1本も来ないぞ」 

「じゃ、夜食を食べましょう」

吉田は、テーブルにモスバーガーで買ってきた、ハンバーガーや飲み物を並べた。

「吉田、こんな小洒落た食いもん、若い奴らの主食だろ?」

「モスバーガーはお嫌いですか?」

「オレは、マックしか行かないし、夜勤の時は大抵握り飯だな」

「モスバーガーも結構イケるんですよ。これは、アイスコーヒーで、ガムシロいりますか?」

「オレはブラック」

「では、わたしはコーラ」

「モスバーガーも結構豊富だな?品揃えが」

「先輩、モスチキンどうですか?」

「うん、食べる」

2人は夜食を食べ始めた。

しばらく、沈黙が続く。すると、神宮寺がにこやかに、

「吉田、来月の異動で有山がどの部署に飛ばされるか知ってるか?」

吉田は、コーラを一口飲み、

「係長やっぱり、降格ですか?わたしは知りません」

「清掃課だよ」

「えっ、清掃課?」

「うん。定年を迎えたシルバーで特に会社に貢献しなかった奴らの集まりの清掃課だ」

「いい気味ですね」 

「しかも、トイレ担当責任者」

「アハハハ。気持ちいいですね」

「あんなに清々しいほどのクズは珍しいよ!本人は運転手に戻りたいと言ったが、運転手仲間からも嫌われていてね。課長が話しを聴いて回り、清掃課に飛ばしたんだ。川口さん、結構下の人間をとても大事にする人だからさ」

「やった。わたしたちの勝ちですね」

「ところで、吉田。君は普段はいつもこんな格好なのかい?」

『しめた!先輩がこのわたしの格好に食らいついた』

「はい。だいたいこんな格好です」

「なんだか、頭の悪い大学生みたいだな」

「あ、頭の悪い……」

「オレはD大学だったんだけど、今はFラン大学でね。オレの在学中でもバカが多くて、女の子はみんなそんな格好してたよ。ここはさ、輸入品や輸出品を扱うから英語が出来ないと上にはなれないのは知ってるよな?川口課長はH大卒だし」

「えっ、課長はH大学なんですか?」

「そうだよ!」

「知らなかった。わたしは埼玉のK短大の英文科でここの入社試験受けました」

「K短大ねぇ〜。知らね〜短大だ。だから、今後そんな格好して会社来ちゃダメだよ!吉田がかわいいから、オレは言ってるんだらね。モスチキンバーガーはどれ?」

「こ、これです」

「これ食ったら、帰りなさい。休日出勤は良くないから」

「あ、あのう」

「なんだ?」

「わたしの格好に、トキメキませんか?」

「アハハハ、面白いこと言うな君は。スタイルはいいけど」

「いいけど。何ですが?」 

「かわいい後輩だから、胸がトキメクなんてないよ!オレの妹と同じ歳だし」 

「そ、そうでしたか。じゃ、わたしコーラ飲んだら帰ります」


またしても、吉田の作戦は失敗に終わった!

何かあるはずなんだ。神宮寺さんが興味を持つ何かが。

帰宅した吉田は、PCで出身校のD大学を検索した。

それは、Fラン大学と彼は言っていたが自分の偏差値では入学できない事を知った。


後日、仲のいい人事課の郡山に神宮寺さんの経歴を秘密裏に教えてもらった。神宮寺さんは法学部であった。

D大学法学部は偏差値が67。

Fランではない。また、千茶トランスコーポレーションの前職は、有名予備校講師だった。担当は英語。

なのに、何故、彼はトラック運転手の仕事を選択したのか?

彼が優秀だから、川口課長は内勤を推薦したのは分かるが、神宮寺の経歴を調べれば調べるほど謎が深まった。

彼を落とすには、それなりの知識と粘り強い工作が必要だと悟った。


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