第13話 全力!脱力タイムズ

チュン、チュン、チュン…


「…会社に行くか。」



あの後、俺とノルンはホームセンターに行き装備を整えて、早速冒険しに行こうとしたが、時間が遅い事や疲れもあり、今日は止めようとノルンに言われ、中止したのである

確かに、俺も仕事があったので次の休日に探索する事にした。それまでは念の為にと、ノルンがトイレの扉を簡易封印する事にした。そして、隣に新しいトイレの部屋とトイレを造る。


「便利なスキルがあるんだな~。そんなスキルがあるんだったら欲しいもの何でも手に入るな。」

「そうでもないわよ。便利なスキルほど代償はあるものよ。」

「ほう。なら今回のスキルの代償は?」

「通貨。」

「え?通貨?つまりお金?」

「そう。部屋を造った時にトイレやライトなども全部、アンタ払いになってるわ。」

「ほげぇぇぇぇええ‼なんで俺払いなんだよ⁉被害者だぞ⁉」


口と目が飛び出そうになる俺に、淡々と話を続けるノルン


「仕方ないじゃない。私、無一文だし。あ、言うの忘れてたけど私の部屋造った時の物もアンタの口座から落としたわ。」


ノルンが言い終わる頃には俺は真っ白になっていた


ただでさえ、訳分からん同居人との生活の上に金まで大量に失うとか、この同居のメリットは何かと本気で思う


「まぁ、スキル与えたんだしこれでチャラって事で♪」


っと言ってテヘペロするノルンを見て、呆れすぎて反論の一つも言えない俺はその場で膝をつく


「まぁ、取り合えずこれで終わりね。それじゃ、ワタシ疲れたからお風呂入りたい。」


この女、金を毟るどころか家事まで要求するとか好き勝手しすぎだろ…

だが、逆らえない。怒らせたら“絶対的な死”がそこにあるからである

会社では社畜、家では家畜。だんだん奴隷人生になってきたなっと悲観する


「だが‼この借りは絶対、絶対!ダンジョンのお宝で清算して貰う‼絶対、攻略するぞぉぉぉ‼」

俺は、大きな声を上げて熱い決意を胸に風呂を沸かしに行くのである


「はぁ~あ。この様子じゃ、諦めなさそうね…。」

そう、伏し目がちに言うノルン


(うるさいけど、また壁を殴り返されると怖いんだよな~)

っと、思いながら困った顔をするお隣さん


三者の思惑は複雑?に絡みあうのであった―――



その後は、ノルンも反省したのかスキルの発動を控えだす。が、自分勝手な所は変わらず、家事や身の回りの世話を俺にやらせる。コイツ俺がいないとか昼間なにしてるんだ?

そして、俺の方もなんとかオートで発動するスキルを抑えながら冒険する日まで過ごそうとする。が、一回楽を覚えると、なかなか止められなくなるのが人間だもの


毎日、今日だけ!っと思いながら青信号にして電車の席に座る。実に、快適である

会社の方も、利益がなさそうで、めんどくさそうな仕事を田中に担当させるように強く願ってしまう。お陰で、仕事がうまくいきだすが、田中の嘆きや愚痴を休憩中などに聞く時間が増えるのが困りものだ


「なんで、俺だけこんな糞みたいな案件が回されるんだ~~‼‼」

「なんでやろうな?不思議やな。」

「うぅぅ、それに引き換え、通時!お前はなんでうまい案件ばかりなんだよ‼」

「日頃の行いが良いかもしれない。」

「行いってなんだよ!?なにしてんだよ!?」

「……花に水やったり?」


そんな、やり取りをバカ(田中)と続けていると、後ろから同僚達の会話が聞こえてくる


「あの業界最大手の会社が我が社を買収しようとしてる話、結構本格的になってきたらしいぞ。」

「あぁ、あの話か。けど、本当なのかよ?そうしたら仕事とか俺たちはどうなるんだ?」

「まぁ、どうなるかまだ分からん。けど俺たちの仕事は変わらんが、最大手と同じ勤務条件になる可能性が高いからホワイト企業になるかもしれんぞ。」

「マジかよ!やっとこのブラック体質から変われるのか!?やったぜ!」



「まさか、そんな事が起きようとしてるとわ。」

「なんだ、知らなかったのか。まぁ、噂程度の話だったが本格的になってきてるらしいぞ。」

「ふ~ん。あの最大手の会社がね。都合良すぎだろ。」

「まぁ、まだ決まった訳じゃないし期待しない方がいいぞ。こんな会社買収するメリットあると思えないし。」


そんな会話をしながら昼の休憩が終わる―――


買収の話は初めて聞いたが、会社単位の話なんて末端の俺にはどうにも出来ないし、なるようになるしかないからあんまり興味がない。それより、問題はダンジョンだ!

いよいよ明日ダンジョンに探索する時が来たのだ!


そう、心躍りながら午後の仕事を取り掛かる、田中は相変わらず死にそうである

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